パイロットに憧れた少年時代。池田利宏は、すでに大学時代にその夢をかなえている。読売テレビの「鳥人間コンテスト」に、2回出場し、最長1.6kmを飛んだ。しかし、意外にも、そのときに池田を支配していたのは高揚感ではなく、とにかく先に先にとペダルを漕がなければという焦燥感にも似た気持ちだった。「振り返れば、この頃から“しんどい”道を無意識に選ぶ癖がついていたのかも」と、池田は苦笑する。
鳥人間コンテスト出場チームの学生たちは、年に1回の本番に向けて、毎年、学業の余暇のすべてをそこに注ぎ込む勢いで機体の設計、デザイン、制作に打ち込む。厳密なフィジカルチェックを受けてパイロットに抜擢された池田は、航空宇宙学科の学生でもあったので、トレーニングに励むかたわら、機体づくりにもさまざまなアイデアを出した。「充実していたが、精神的にも肉体的にもタフなチャレンジだった」という。
大学卒業後は、「自動車製造などにもつぶしがきくから」との思いで、航空宇宙工学をより深く学ぶため、オーストラリアに留学した。必死の努力の末に研究室で信頼を勝ち得て、ITインフラ管理をすべて任されるようになる。そこで出入りのITベンダーとつき合ううちに、いつの間にかITの世界の住人になった。その後、20代後半にしてデータセンターのエネルギー管理ソリューション(DCIM)を手がけるFuture Facilities日本法人の代表取締役社長に就任した。3次元で熱や気流を見える化する技術が特徴の同社で、エンジニアとしての知見をビジネスに生かしている。「しんどいことをやってきて、痛みに鈍感になったのだろう。気づかないうちに活路を切り拓いている」という池田。黎明期を脱していないDCIM市場にも、その鈍感力で大胆に斬り込んでいく。(文中敬称略)
プロフィール
池田 利宏
池田 利宏(いけだ としひろ)
1981年、福島県白河市生まれ。東海大学で航空宇宙学科を専攻。人力飛行機研究会に所属し、日本テレビ系列の鳥人間コンテストにパイロットとして2回出場した。卒業後、オーストラリアの王立メルボルン工科大学(RMIT)大学院航空工学専攻に入学。卒業後は、米国大手CAE(Computer Aided Engineering)ソフトウェアベンダーに就職し、マーケティング、技術、営業を経験。2009年、Future Facilities日本法人の設立に参画し、代表取締役社長に就任した。