もの心ついた頃から、キーボードが生活の一部だった。10歳になると、プログラミングを覚えた。大学受験が終わった春休みには、インターネットにハマる。ホームページをつくって、自作の詩や小説を公開した。それだけではない。荒らされにくい掲示板やCMSの先駆けとなる仕組みなども作成した。まだ、ダイヤルアップ接続だったが、インターネットには「大きな可能性を感じた」という。
ホームページが評判になり、制作の依頼がくるようになる。それがまた評判を呼んで、不動産会社から声がかかる。現役の大学生にもかかわらず、用意されていたのは“取締役”の席だった。活躍ぶりがラジオ局の知るところとなり、番組のレギュラーも務めた。
ところが、すべて順風満帆とはいかなかった。学生結婚、出産、そして夫に会社社長を任されるも倒産。同時にシングルマザーになった。「どん底を味わった。いっぺん死んだ」。
しばらくはウェブ制作を請け負って細々と暮らしていたが、2006年、ひょんなことがきっかけで会社を立ち上げた。その後は、ラジオで世話になった放送作家の紹介でNHKの仕事が舞い込むなどして、現在では従業員が30人を超えるほどに成長した。しかし、今のコトウユウキには事業拡大よりもやりたいことがある。
「シングルマザーになって困っていた頃に、目黒区にはさまざまな支援をいただいた。恩返しをしたい」。目黒区商工まつり運営委員会の副委員長をはじめ、さまざまな地域活動に参加している。そして今、その目は子どもたちに向いている。「子どもたちの職業観が育っていない。働くことの意義は日銭を稼ぐことではないと、子どもたちに教えたい」。どん底から這い上がった人物はたくましい。「お金はおまけ。私にはパソコンが1台あればいい」。(文中敬称略)
プロフィール
コトウ ユウキ
コトウ ユウキ(ことう ゆうき)
1979年、東京都生まれ。大学生のときにホームページを制作する能力が評価されて、プロバイダ事業の立ち上げを計画していた不動産会社の取締役に就任する。その後、2002年8月にオレンジボックスを設立して代表取締役に就任、03年10月にシトロンを創業、06年6月にはオフィスコトウを設立して代表取締役となり現在に至る。地域の活動にも積極的で、目黒区商工まつり運営委員会副委員長、目黒区倫理法人会会長、目黒区男女平等・共同参画審議会委員などを務めている。