「自分には合わない」と大学を中退。アルバイトのような仕事で食いつなぎ、パチンコにおぼれることもあった。「とても人に言えるような生活ではなかった」と、原拓人は振り返る。転機が訪れたのは、データセンター(DC)会社のビットアイルグループに紹介予定派遣で来たときだった。
窓のない制御室やサーバー室での、昼夜を問わない保守メンテナンス作業は、華々しい仕事とは言い難い面があるものの、原にはなぜか「しっくりきた」。当時の原が苦手だった“外の人”に会わなくてもいいという事情もあったが、「社会を縁の下で支え、社会の一員として生きている実感が得られたから」という理由が大きかった。
進路を見失い、長続きしない性分だったが、DCでの仕事は奇跡的に続いた。そして二度目の転機は素晴らしい上司との出会いだった。その上司は営業畑出身で、「きのう訪問した客先の人が、うちのDCサービスについてこんなふうに話していた」とか、「きょう、うちのDCに来るお客様との最初の出会いはこうだった」などと、原たちDC内勤者にとっては“外の世界”のことを、朝礼や定例会議でよく話してくれる。
最初は「ふーん」という調子で聞いていたが、情報社会を支えている実感と、上司から間接的に聞くユーザーの声が相まって、まるで自分が進むべき路が光で照らされているかのような“仕事の楽しさ”、これまでの原の人生に欠けていた“やりがい”のようなものが俄然湧いてきた。生き生きと働く姿が評価され、DCを訪れる顧客の窓口となる接客担当に抜擢される。ホテルでいえばドアマンに相当する“DCの顔”として、きょうも自信に裏づけされた笑顔で客を迎え入れる。(文中敬称略)
プロフィール
原 拓人
原 拓人(はら たくと)
1980年、東京都生まれ。2001年、上智大学経済学部中退。08年、ビットアイルグループのビットサーフに入社。翌年、ビットアイルに転籍。DCの保守メンテナンスなどを経て、現在は顧客接点を強化する部門で勤務。