ネット広告企業の若い経営者と聞き、「イケイケ」なイメージを勝手に想像しながらオフィスを訪ねると、出てきた佐野宏英は朴訥そのものの人物だった。「ほかのITベンチャーの人みたいに『俺のビジネスで世界を変えてやる!』とか、そういうのは全然なくて……」。創業1年半ですでに多くの広告代理店と契約を結び、自動車メーカーなどの大企業が佐野のサービスを使って動画広告を配信している。それでも「たまたま事業を始めたタイミングがよかっただけ」と謙遜する。
今では温和な佐野だが「昔はそれなりに“若かった”」。高校卒業後すぐに就職したバイク店では、昔気質の店主とケンカして3日で店を飛び出した。その後、未経験でIT業界に転じるが、人間関係の衝突から会社を辞めるという経験もした。
会社員として最後に勤めた1社で、社長に「君のほうが詳しいだろうから、全部決めてくれ」と言われ、ECサイトなど会社のウェブ事業を任された。人材採用から新規事業への挑戦まですべての裁量が与えられ、大変なプレッシャーだったが、社長も自分の判断で任せた以上、責任はすべて取ってくれた。「大きな損失を出してしまったときも『大変だったな。後はこっちでやっておくから』と言って、取引先への謝罪から何から全部やってくれた」。
自分の会社を立ち上げてから1年近くは売り上げが立たなかったが、精力的に働く社員の姿をみていれば心は平穏だった。「成績が上がらないメンバーに対してもおおらかに接する。自分のポリシーをもって取り組んでいる人には、文句を言わずに応援する」。「おおらか」を心がけて仕事を進めていたら、ある日、営業担当者が超大手の代理店と商談をまとめてきた。あの社長の姿を追いかけて正解だった。(文中敬称略)
プロフィール
佐野 宏英
佐野 宏英(さの ひろひで)
1987年生まれ。「2週間くらいの研修で『経験○年』の札を付けられて」SI業界に入り、転職して自社企画ウェブサービスの開発者・事業担当者に。2013年末にスマートフォン向け動画広告配信のアップベイダーを設立。一エンジニアとして好きな仕事はサーバーサイドのインフラチューニング。趣味はサバイバルゲームで、週末は電動ガン片手に仲間と野山を駆け回って過ごす。