米英の名門校で会計学、経営学、金融学の修士号を取得し、米国での公認会計士として8年のキャリア、世界的なコンサルティング会社での十分な実務経験もある。投資銀行などからは引く手あまたの経歴だろう。もっと多額の報酬を得られる道があるのではと、意地悪な質問もしたくなる。それでも、「お金を稼ぐことが人生の目的ではないし、そういう世界にはいつでも戻れる。だからこそ、自分のような立場の人間が、リスクを取って新しいチャレンジをしないと、世の中は変わらないと思っている」と、さらりと言ってのける。
佐野徹朗は、クラウドネイティブな税務・会計システムを提供するアカウンティング・サース・ジャパン(A-SaaS)のトップとして、税理士の業務に革命を起こそうとしている。税理士が非生産的な事務作業から解放され、中小企業の経営アドバイザーとして機能してこそ、日本経済の底上げが成るという強い信念がある。しかし、税務・会計システムは専業ベンダーによる寡占が続く市場。新興ベンダーが画期的な製品を携えて参入しても、成功への道のりは険しい。これまでのキャリアで企業経営とは何かを追求してきた佐野は、それでも「成功するという絵を、しっかりとした理論にもとづいて描くことができている」という。
もともと実家は運送会社を経営していたが、バブル期に大きな優良顧客を失い、商売をたたむことになった。当時小学生だった佐野が企業経営に対する飽くなき探究心をもつようになった原体験だ。このとき、多方面で税理士がサポートしてくれ、両親は感謝の言葉を口にしていた。しかし一方で、A-SaaSのシステムが当時から存在していれば、「また違った結末があったかもしれない」とも思う。そんな思いが、今日も佐野を全力で走らせる。(文中敬称略)
プロフィール
佐野 徹朗
佐野 徹朗(さの てつろう)
1977年生まれの38歳。静岡県出身。ケンタッキー州立大学で会計学を専攻し、会計学修士号を取得。デロイト&トゥシュ・ロサンゼルスオフィスで多国籍企業の会計監査に従事。その後、渡英し、オックスフォード大学で経営学修士号、ロンドン・ビジネススクールで金融学修士号を取得。帰国してボストン・コンサルティング・グループ東京オフィスに入社した。2014年5月にA-SaaSに参画。