ウェブメディアに「炎上しないコメント欄」を提供するインターネットテクノロジーカンパニーのクーロン。自社開発の人工知能を搭載し、誹謗中傷や差別的な発言など、場にふさわしくないコメントをフィルタリングするシステムである「QuACS」は、すでに多くのメディアの支持を得ている。代表取締役社長の佐藤由太は、クーロン設立に先立ち、2011年3月末に、ガジェット専門デジタル媒体の「ガジェット速報」を立ち上げ、現在もその編集長を兼務する。「メディアは“知の錬磨”の場であるべき。そのためには、発信されたニュースに対して、ユーザーが建設的に議論を交わし、深く考えをめぐらす環境が必要で、人工知能や自然言語処理などのテクノロジーを駆使して、それを実現するのがクーロンのミッション」と、力を込める。
もともとは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で人工衛星の画像処理などを担当していたプログラマで、仕事にやりがいを感じていた。そんな佐藤がメディアとテクノロジーの融合を志すきっかけになったのは、11年の東日本大震災だった。出身地である茨城県も津波で大きな被害を受けた。しかし、「47都道府県で唯一、民放の地元局がない茨城県。震災で被害を受けているのに、その情報がなかなか上がってこなかった」という。メディアの重要性、そしてこれからのメディアはどうあるべきかを考えずにはいられなかった。
「復興に必要なのは、突き詰めれば人間の考える力。これを養う土台がないと、将来、子どもたちが困ってしまう」。単なるニュースサイトではなく、コメント欄を設けて、ユーザー同士がコミュニケーションできる仕組みを設けた「ガジェット速報」は、そんな問題意識の下に誕生したのだ。そして、このコミュニケーションの仕組みを追求したことが、QuACSに結実した。(文中敬称略)
プロフィール
佐藤 由太
佐藤 由太(さとう ゆうた)
茨城県日立市出身。大学を卒業後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に勤務。JAXAが主導するアジア太平洋地域宇宙機関会議の「センチネル・アジアプロジェクト STEP2」に参画した。2011年3月、個人事業主としてニュースサイト「ガジェット速報」を立ち上げ、約1年6か月で月間PV数1520万まで成長させた。その後、ガジェット速報専用の高機能コメントシステムの開発を構想。これを進める過程で13年5月に法人化し、クーロンを設立した。今年7月には、人工知能搭載のコメントシステム「QuACS」をリリース。現在も、「GGSOKU(ガジェット速報)」の編集長を兼任している。