「現実的に無理です」。そう言って一旦は断った社長の職に就き、すでに2年半が経つ。「今振り返ると、社長になってよかった」。そう思えるのは会社の支えと、自分の考えを貫く信念があるからだ。社長としての目標はもちろん、日本で売り上げを伸ばすこと。「韓国の会社も、日本でビジネスを成功させられるんだ、ということを示したい」と熱を入れる。
会社から社長の打診があったのは、日本市場でのビジネス拡大に課題を抱えていた時期。これまでの方針を大きく転換し、若手に指揮を任せて殻を破ろうと、陳貞喜に白羽の矢が立ったのだ。しかし当の本人は、これからマーケティングに取り組もうとしていたところで、営業スキルもなければ、日本の商慣習もわからない。断ったが、あれよあれよという間に社長になってしまった。
はじめはわからないことばかりで、つらいこともあったが、今はというと、「まずは仮説を立てて、やってみる。そうしていくうちにうまくいく成功体験も得た」と、楽しんでいる。「長年の経験がある人は、ここをこうすればいいというのが頭にあると思う。私の場合、逆にそれがないことが生きている。斬新さがあったからこそ、契約を結べたこともあった」と話す表情は朗らかだ。親の教育方針から、型にはまることなく、何でも自分で決めてきたという性格。「今思うと、“上がいると個性を発揮できないタイプ”だと、会社が見抜いてくれていたのかもしれないですね」。
趣味の一つがウォーキング。仕事の日は1時間をかけて、会社と家を往復する。「立てた仮説について考えを整理する時間がとれる」ことから、日本にきて以来6年間、毎日続けているという。一日の計画も反省もその間にする。そうして陳はまた新たな一日を進み、会社を成長へと導くのだ。(敬称略)
プロフィール
陳 貞喜
(JungHee JIN)
1982年3月、韓国・釜山生まれ。釜山大学建築工学部を卒業後、ゼネコンに就職。2009年3月にウェブアプリケーションやデータベースのセキュリティ製品を手がけるペンタセキュリティシステムズのソウル本社に入社し、製品企画部門で日本向けのローカライゼーションに従事。11年6月、日本法人に移り、テクニカルサポートマネージャー担当、セキュリティ戦略部門ディレクターなどを経て、14年8月、日本法人代表取締役社長に就任。趣味は読書、ウォーキング。