ものごころがついた頃には、自分が生まれてきた意味を考えていたという少年時代。驚くべきことに、小学生にしてその思考は結論にたどり着いてしまった。以降、「世の中の人を一人でも多く幸せにしないといけない」という強迫観念にも似た思いは、黒佐英司の行動原理を支配してきた。強迫観念も、20年も一緒に生きてくれば、もはや“信念”だ。小学生時代はガンの特効薬をつくりたいと考えていたが、一人だけでできることには限界があり、より多くのことを成し遂げるにはお金も仲間も必要だと気がついたのは中学生の頃だったというから、やはり早熟だといえよう。
“強迫観念”の影響もあってか、常により厳しい環境に身を置き自身の成長を追求してきた。高校卒業後に直接ニューヨーク州立大学バッファロー校に入学したのも、そのポリシーにもとづいた行動だ。異なる文化的背景や価値観をもつ人たちとの共生により発生するダイナミズムの大きさを実感したのは、大きな財産になっている。
積水ハウス、ユーザベースと、まったく文化の違う二社でキャリアを積んだが、「効率を追求するのではなく、メンバーが自由で、かつ自己規律をもって楽しく仕事ができる環境をつくることが、成果の最大化につながる」というチームマネジメントの思想に、普遍的な価値を見出した。自ら創業したマツリカでは、これを自社の組織運営に役立てるのはもちろん、自社製品を通して社会に問う価値の源泉としても位置づける。「学生時代の文化祭を思い出してほしい。多くの人にとって、熱中して、没頭できる自己参加型の祭だったはず。ビジネスもそんなふうに向き合うことができれば、人生はもっと幸せになる」。人生をマツリ化する。そんな世界を広げていくことが、いまの黒佐にとっては、世の中の人を一人でも多く幸せにすることそのものなのだ。(敬称略)
プロフィール
黒佐英司
(くろさ えいじ)
ニューヨーク州立大学バッファロー校卒業後、積水ハウスに入社し、個人向けの企画提案、法人・資産家向けの資産活用提案、海外事業開発チームでの企画営業、マネージャー業務などを担当。2011年にユーザベースに移籍し、営業開発チームの立ち上げを担当。営業部門、マーケティング部門、顧客サポート部門の統括責任者を務めた。15年、共同創業者としてマツリカ(mazrica inc.)を設立し、現職に。