29才の時、会社帰りに通りかかった東京・池袋の街角。ふとガラスの向こうを見ると、戦う男たちの姿があった。三上哲章が、「20代最後の挑戦」で始めたキックボクシングに出会った瞬間だ。
スポーツとは縁遠い人生だった。10代の頃は、体育会系独特のノリが嫌いで「帰宅部」に所属し、テレビゲームに明け暮れていた。20代になると、向き合う対象がパソコンに変わった。
体を動かさないことに危機感を覚え、社会人になってから筋力トレーニングに着手。会社の寮でダンベルを握り、鍛練を重ねた。結果は肉体に出ていたが、同じ動作を繰り返すことに「だんだん飽きてしまった」。
20代半ば。旅行先のサイパンでサイクリングツアーに参加した。「急な坂道が簡単に上れる」と魅力に取りつかれ、帰国後、すぐに自転車に乗り始めた。
しかし、筋トレも、サイクリングも、「取り組んでいる時は1人」。孤独な状況に疑問を抱き始めた時、たまたま目に入ったのがキックボクシングだった。
通いやすさや価格の安さから、「軽い気持ち」で体験入門してみると、フットワークを刻み、サンドバックを叩くおもしろさを知った。どんどんのめりこみ、平日でも夜遅くまでジムに残った。
結婚し、1児の父となった今も、週に2回はジムに通い、仕事の考えをまとめたり、ストレスを解消したりする。「バランスを意識し、力まない姿勢は、仕事にも生きている」と実感している。
三上の父は、テレビアニメなどに多く出演する声優界の大御所、沢木郁也。偉大な父のように、自分も子どもに「父の背中」をみせたいと思う。将来の夢は、「拳で子どもと語り合うこと」。その日が来るまで、これからもファイティングポーズをとり続ける。(敬称略)
プロフィール
三上哲章
(みかみ てつあき)
1980年3月生まれ。流通経済大学経済学部を卒業後、2002年にカシオ情報機器に入社。小規模企業向け経営支援専用機「楽一」シリーズの直販などを担当。17年1月からカシオ計算機に出向し、飲食店の支援サイト「HANJO TOWN」のサービス拡充などに携わっている。東京都出身。