20代前半で父の死に直面し、人生が有限であることをあらためて実感した。直後、「一度しかない人生を、よりよく、後悔のないように生きるべき」という信念の下に、取り組み始めたのは、自分の行動を常に記録し、後悔の種になりそうなことを徹底して排除していくことだった。当時、従事していた販売接客業では、これにより業務改善の効果が如実にあらわれ、チーム全体に手法を水平展開することで、残業時間も劇的に減らすことができた。「多くの人の時間の価値を上げるためのメソッドを確立できた気がした」という。
その後、ゆくゆくは経営者として活躍することをうっすらと思い浮かべながら、数社を渡り歩き、営業活動のあり方やITの活用の仕方など、企業経営に必要なエッセンスを吸収。起業の意志が明確になったところでグロービス経営大学院大学の門をたたくとともに、時間管理メソッドのサービス化を構想し始めた。ところが、ビジネスコンテストではまったく結果を出せず、資金調達もうまくいかなかった。10年以上温めてきたアイデアも、事業としては成立しないことを認めざるを得なかった。
しかし、グロービスでの経営者のコミュニティとの交流や、これまでのキャリアでITの可能性に触れたことは、新しいアイデアを呼び起こし、エンジニアのすそ野を広げ、テクノロジー教育のエコシステム構築を目指すDive into Codeのビジネスを導いた。「ITがあらゆるビジネスを変えていく時代になり、経営者は優秀なエンジニアを常に求めている。過去の後悔を潰すことだけに固執してきたが、未来の可能性を広げるために新しいスキルを身につける手助けをすることも、時間の価値を上げるための事業であることに変わりはないことに気づくことができた」。成功体験により手段が目的化していくことは世の常だが、自らの信念という原点に立ち返り、それを乗り越えた。(敬称略)
プロフィール
野呂浩良
(のろ ひろよし)
1980年生まれ。リクルートやワークスアプリケーションズなど、異業種・異職種への転職を4度経験。2014年にグロービス経営大学院大学でMBAを取得。その経験と学習法を生かし、15年4月、非エンジニア人材のエンジニアへの転向を支援するプログラミング・スクール「Dive into Code」を創業した。