日本人と中国人の関係は、水と油である。同じアジア人で、外見もよく似ているが、実際の中身はまったくの別物。一つの容器に注いでかき混ぜても、分離してしまう。中国の日系企業にとって、このことは重要な課題の一つだ。日本人と中国人社員との間には、簡単には乗り越えられない壁が存在する。言葉で説明することはできても、文化や価値観が違えば、相手に伝え切れないことは多い。
「日本語と中国語のバイリンガル人材は山ほどいる。しかし、言語だけでなく、日中両国の文化や価値観までを深く理解している“バイカルチャー”の人材はほとんどいない」。だから松原彩子は、自身の強みを生かし、顧客企業内のコミュニケーションの橋渡し役となって、ITソリューション以上の付加価値を提供する。日本人の父と中国人の母の間に生まれた松原。幼少期は上海、青年期は日本で過ごし、学生時代には国際交流に熱を注いだ。日中バイカルチャーとしての素養を十分に磨いた現在、「日本人と接するときは日本人、中国人と接するときには中国人になりきる」。
日本人総経理が自分では伝えきれない事業拡大への想いや、中国人社員が抱える将来への不安や意見を松原は代弁する。自分にしかできないことだから、「やりがいは大きく、仕事は楽しい」。こうして獲得した顧客の信頼は厚く、実績が追いつくのも時間の問題だった。一流大学や理系の出身者が多い日立解決方案(中国)のなかで、松原は異業種の出身ながらも5年連続で優秀な成績をおさめ、今年には日系企業向け事業部の責任者に抜擢された。
「中国の日系企業では、製造業を中心にIoT導入の需要が高まっている。この商機をつかみ、事業を拡大していきたい」。水と油を融和させる力を用いて、顧客もチームも成長に導く。(敬称略)
プロフィール
松原彩子
(まつばら あやこ)
中国・上海市出身。日本人とのハーフ。拓殖大学商学部国際ビジネス学科を卒業後、日本のアパレル業界に就職。2009年、生活の拠点を上海に移し、日立解決方案(中国)上海分公司に入社。現在は、華東地域の日系企業向け事業を統括している。趣味は、愛犬(シーちゃん)の散歩と旅行。