伊澤諒太はボクサーだった。「ぱっとしなかった」中学以前の自分を変えるために、進学した作新学院高校でボクシング部の門を叩く。「何もやってこなかった分、人の3倍は頑張らないといけない」。全国レベルの選手を輩出する強豪校で厳しい練習を積んできた。その甲斐があって、インターハイや国体に出場できるまでの選手に成長。大学も特待生として入学し、五輪出場を目標にボクシングに打ち込む日々を送っていた。
しかし、大学2年の時に負ったケガが災いし、思うような戦果を上げることができなくなった。「このまま続けていても仕方がない」と、ボクシングを諦め、新たな道を模索。そして、見出したのがITだった。
「起業家はアスリートに似ている」と語る伊澤。独学でプログラミングを勉強しながら参加したDeNAの長期インターンシップで、創業者・南場智子氏らと出会い、話をするなかで感じた。「リスクをとって世界にチャレンジし、実力さえあれば若手でも評価される。アスリートも同じで、年齢は関係なく、結果さえ出せば評価される。そういうことがしたい」。これを機に本気で起業を志し、設立したのがハタプロだ。
今年に入り、AIを搭載したフクロウ型のマーケティング支援ロボット「ZUKKU(ズック)」を開発した。小売店などで実証実験も始まり、「自分たちでつくったものがいろんなところから評価されるのはうれしい」と、控えめながらも喜びをあらわにする。「ボクシングを始めたときも『できるわけがない』とまわりからいわれてきたが、結果を出すと周囲の反応も次第に変わった。何かを辞めたり、始めたりすることで、一時的に批判を浴びたとしても、結果さえ出せばいい」と経験から認識している。挑戦を続ける起業家の伊澤に、「ぱっとしなかった」あの頃の姿はもうみえない。(敬称略)
プロフィール
伊澤諒太
(いざわ りょうた)
1987年、栃木県生まれ。高校時代は強豪・作新学院高校でボクシングに打ち込む。大学卒業後、2010年にIoT、AI関連の開発を手がけるハタプロを創業。代表取締役を務める。最近は、フクロウ型のミニロボット「ZUKKU」に力を入れている。