スタートラインに並び、号砲を待つ。騒がしい会場が、静寂に包まれる。子どもの頃から陸上の短距離を続けてきた戸井田隆は、この瞬間が大好きだった。
小学5年生の頃、たまたま校舎内の掲示版を見て、校内の陸上大会に出場。初めての挑戦で表彰台にあがり、地元の大会でも好成績を収めた。本格的に競技を始め、翌年には4×100メートルリレーの走者として全国で3位に入った。
中学、高校、大学でも陸上を続け、最終的に400メートルと400メートルハードルに打ち込む。短距離のなかでも「最も過酷」といわれる種目を選んだ理由について戸井田は、「自分を厳しく戒めるのが好きだった」と冗談めかして笑う。
短距離の魅力は、「自分がやってきた結果が、タイムという形ですぐにわかること」。100分の1秒を競う世界で培った「誰よりも前に行く」という気持ちは、自身の根幹になっていると実感する。
大学卒業後、税理士・公認会計士向けシステムの専業メーカーに入り、営業マンのキャリアをスタート。2016年4月に鈴与シンワートに転職し、会計システムや業務系パッケージソフト、自社のデータセンターサービスを武器に全国を飛び回る日々を送っている。
仕事に対しては厳しい性格だが、三児の父として子煩悩な一面も。「どんなに仕事で疲れていても、子どもの笑顔をみれば吹き飛ぶ」と笑顔で話す。子どもたちも陸上に取り組んでおり、地元のクラブに親子二代で通っている。
慣れ親しんだオレンジ色のタータントラックをみると、「血が騒ぐ」が、「結果に愕然とするのが嫌」と一歩を踏み出せていない。それでも、子どもに触発されて、再び熱い気持ちがこみ上げている。目標は、マスターズ陸上のスタートラインに立つことだ。(敬称略)
プロフィール
戸井田 隆
(といだ たかし)
1978年10月、千葉県船橋市生まれ。大学卒業後、税理士・公認会計士向けシステムの専業メーカーを経て、2016年4月に鈴与シンワートに入社。小学5年生から大学まで、陸上の短距離走に打ち込む。