
機械学習の研究者である藤巻遼平は、「自分の研究を研究だけで終わらせたくない。ビジネスとして大きく育てたい」と学生の頃から思い描いていた。夢の実現には、「自分と同じかそれ以上の優れた頭脳と志を持った人とともに仕事をすることが近道」だと考える。就職先に民間企業であるNECを選んだのは、「事業化への道が開けやすいのと、自分がいっしょに仕事をしたいと思える先輩がいた」からだ。
折しも、機械学習の分野では、ディープラーニング(深層学習)などの技術革新が急速に進展。藤巻は従来のディープラーニングでは実現が難しかった予測結果の根拠を可視化する「異種混合学習」の技術開発で中心的な役割を果たす。こうした取り組みが評価され、NEC史上最年少で主席研究員に抜擢された。
しかし、AI領域の技術進展は速い。事業化までのスピードに関して、「まだ納得できる速さには達していない。このままでは取り残されてしまう」と危機感が募る。藤巻が勤務する米シリコンバレーのNEC研究所の周囲には、「AIスタートアップで一旗揚げてやろう」と考える研究者が多く集まっている。なかには「仲間に迎え入れたい」と思う人材もいる。
だったら、「研究と事業化をスピード感をもって同時に進めていくスタートアップを立ち上げよう」と思い至り、この4月、NECの支援を受けつつ、AIスタートアップの「dotData(ドットデータ)」を興した。目指すは企業価値10億ドル超の日本発のユニコーン企業。自分たちの持てる「技術」に、事業化に向けた「スピード」を加えることができれば、「十分に達成可能な目標」と、事業拡大への野心を燃やす。(敬称略)
プロフィール
藤巻遼平
(ふじまき りょうへい)
1981年、新潟県生まれ。東京育ち。2006年、東京大学工学系研究科修了。同年、NEC入社。11年、米シリコンバレー(クパチーノ)のNEC研究所で勤務。15年、NEC史上最年少で主席研究員に就任。18年4月、NECの支援のもとdotDataを創業。