今夏以降、ワイヤレス高速ブロードバンド「WiMAX」の商用サービス提供が始まる。SIerやNIerではモバイル環境を激変させる「WiMAX」を使った製品・サービスで「新たなビジネスモデル」が生まれそうだ。新しい通信機能デバイスを搭載したモバイル端末と業務アプリケーションなどのセット販売が可能になるからだ。ただ、新しい通信規格だけに「夢は広がれど」知恵の出し方が成否を分ける。はたして「WiMAX」でITビジネスは変わるか。回線運営会社やSIerなどの「Xデー」に向けた取り組みを追う。
「MVNO」拡充で新規開拓へ
SIerにソリューション販売委ね part 1
運営会社の動き
「2.5GHz帯」運営会社であるKDDIのUQコミュニケーションズとウィルコムの2社は、法人市場を開拓するうえで「MVNO(仮想移動体通信事業者)」の拡充を、立ち上げ普及の重要な柱に据えている。これにより収益面ではまず、「再販事業者」ともいえる「MVNO」向けにシステム案件を掘り起こすことができるからだ。対象ベンダーとなるのはインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)やモバイル端末メーカー、SIerで、これらを早期に獲得することを目指す。このため、両社は「ソリューション型」の提案を掲げ新規開拓を図ろうとしている。
SIerが「通信事業者」になる日 総務省は2007年秋、広帯域移動無線アクセスシステム「2.5GHz帯」の周波数(固定系地域バンド)を使用する「WiMAX」免許の割り当てを公募した。同省は「2社だけに割り当てる」としたことで通信事業者の獲得合戦が激化。07年12月には、激戦を制してKDDI子会社「ワイヤレスブロードバンド企画(現・UQコミュニケーションズ)」と「ウィルコム」の2社が免許を取得した。ウィルコムは「次世代PHS」という名称で「2.5GHz帯」を利用した新しい回線サービスを提供する予定。「WiMAX」と「次世代PHS」の特徴は携帯電話と同程度に運営会社となる両社が基地局を設置することだ。建物内部での通信利用を想定した「無線LAN」と異なり、ワイヤレス環境で「どこでも」高速ブロードバンド接続が使えるようになる。ITベンダーにとっては、同回線を利用したビジネスモデルを構築することに加え、「MVNO(仮想移動体通信事業者)」として自社ブランドで新事業領域に参入できるメリットがあり、「新しい収益モデルが生まれる」と期待されている。
「MVNO」提携先150社へ
UQとウィルコム合計で UQコミュニケーションズはこれまでに、ニフティなどISPを中心に20社程度の「MVNO」を獲得した。「検討中を含めれば70~80社に達している」と、田中孝司社長は出だしの好調さに満足げだ。一方、ウィルコムは現段階で「MVNO」契約を交わしたベンダーは皆無だが、「折衝中の対象が70社を超えた」(上村治・次世代事業推進室長)と、こちらも上々の滑り出しという。
「MVNO」に参画するのはISPが中心になるが、「さまざまな企業と交渉を進めている」というのが運営会社の両社に共通した戦略。自社が回線事業者となりユーザー企業向けに製品・サービスを提供するSIerやIT機器の販社のほか、個人ユーザー向けに新たなサービスを模索する企業も多数存在するという。総務省が「無線設備の開放」と「2.5GHz帯」を付与する条件に据えた一つを遂行するためだ。しかし、個人ユーザー向けと異なり、「法人市場で回線サービス導入を促すには、ITベンダーによるソリューション提供が必須になる。ISPに加え、モバイル端末メーカーやSIer、データセンター保有の企業などに『MVNO』に参画してもらうことが普及のカギを握る」(ウィルコムの上村室長)とみられる。
UQコミュニケーションズでは、「回線とモバイル端末を提供するだけの、携帯電話のようなビジネスモデルのみでは新たな顧客を開拓できない。ソリューション提供は『MVNO』側に委ねるとしても、当社サイドの支援も重要」(田中社長)と策を練っている。そこで、同社は親会社のKDDIと組んで「MVNO」とパートナーシップを深めることを模索中だ。一つの策としては、KDDIの「法人事業部」を活用しSIerやユーザー企業などと協業関係を築くことを検討。KDDIでは今年4月から、SaaS基盤などを活用し、ソリューションメニューを体系化した法人向けビジネス強化策を講じる。このタイミングでグループ各社でタッグを組み、法人市場に切り込むことを構想している。
法人向け体制整備、急務
端末販売だけでは不足 UQコミュニケーションズとウィルコムの両社は今春から「試験サービス」を開始する。UQコミュニケーションズは2月26日、ウィルコムが4月の予定だ。本格サービスの時期は、前者が7月、後者が10月を計画。初期の提供エリアは両社とも首都圏、名古屋、大阪の人口密集地を検討している。
当面は、パソコン(PC)のデータカードを中心に個人ユーザー向けサービスが優先される。法人市場を掘り起こすのは次のステップになりそう。「『MVNO』へ参加を促すには、法人市場に合った体制を整える必要がある」(ウィルコムの上村室長)というのがその理由だ。また、UQコミュニケーションズがKDDI陣営として携帯電話、ウィルコムがPHSを、この先もビジネス展開するには、モバイル関連の製品・サービスを拡充することも求められる。携帯電話、PHSとも、これまではシステム案件で導入されるケースが稀だったからだ。「多くのユーザーにWiMAXによる『真のモバイル・ブロードバンド』を提供する」(UQコミュニケーションズの田中社長)と、単なるモバイル端末販売だけではこの事業が立ち行かなくなると指摘する。
KDDI陣営にはこれまでに、大企業のオフィスシステム案件を獲得した実績がある。ウィルコムは医療など特化市場の大企業に強みをもっていた。「MVNO」を獲得し、これらを経由して中堅・中小企業(SMB)などへシステム提案するためには、個々のユーザーにマッチした「商材」をいかに増やすかが問われる。
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