part 2
販売系SIerの動き
「WiMAX」に二の足を踏む
主導権狙うベンダーも
パソコン(PC)やサーバーなどハードウェア機器販売を展開する販売系SIerが「WiMAX」のような高速ブロードバンド化に向けて新規事業に着手すると明確に表明している例は、現段階でほとんど見られない。ハード機器販売力のある販売系SIerは、ネットワーク(NW)よりも情報システムのハードを「売る」ことを優先する傾向があるからだ。しかし、一部には、他社に先行して事業化に着手、「商用開始」と同時に主導権を握ろうと画策するベンダーが登場している。
法人モバイル、転機のはず
勤務スタイル・環境の変化で 販売系SIerは、モバイル先進技術の「WiMAX」に疎い面がある。某SIerの幹部はこう打ち明ける。
「(WiMAXという)名前は聞いたことは確かにある。だが、具体的にどんなメリットがどうあるのか、正直分からない」と述べ、現時点では法人向けビジネスで旨味を見出せず、商用サービスが提供されたとしても、すぐに立ち上がる領域ではないとの見方を示す。自社ビジネス拡大の“即効薬”ではなく、「近未来的な技術」と判断しているのだ。こうした意見がハード販売主体の販売系SIerで大勢を占めている。UQコミュニケーションズなど運営会社が描く戦略とは、全く逆の反応だ。
「WiMAX」はADSL並みの通信速度が屋外のワイヤレス環境で使えることが最大の特徴。さらに、時速60km程度のスピードならば移動中でもネットワークが途切れず高速通信環境を維持できる。いままで、法人向けモバイル端末は「ハブ機」として使われるだけで、社内システムと密接に連動した用途で使われず、「屋外用」に限定されていて販売が伸びなかった。パソコンやサーバーを「売る」販売系SIerならば、ちょっと頭を捻ればビジネスチャンスが生まれるはずなのにである。
ユーザー企業にとっては、モバイル環境による社内システムへのアクセスがこれまで以上に容易になる。営業担当者などの外出が多い「モバイル・ワーカー」や「在宅勤務者」などへの提案で幅が広がるはずだ。ここに新規案件の芽が潜んでいる。企業で働くスタイルが多様化する昨今、ユーザー企業の導入ニーズが高まることが考えられるのだ。モバイル端末やモバイル環境からアクセスするのに必要なネットワーク機器、セキュア・アクセスに不可欠なセキュリティソフトウェアなどをセット販売する機会は確実に増える。
ネット構築に課題、NIerと連携
大塚商会は商用で即事業化へ とはいえ、企業システム開発を得意としてきた販売系SIerは、モバイルネットワークの新技術に足を踏み入れるのは「容易ではない」と口を揃える。現時点では「WiMAX」の可能性を見極めながら、ネットワークインフラ構築に強いNIerなどとのアライアンス体制を敷くことも考えるべきだ。このように販売系SIerの大半が「WiMAX」ビジネスに消極的な一方で、いち早くビジネス化に着手したベンダーが存在する。
大塚商会はUQコミュニケーションズから回線を借りて「MVNO」となり、商用サービス開始と同時に中堅・中小企業向けにパッケージ販売を開始する。「モバイル端末の企業利用が本格化する時代になる」(伊藤昇・テクニカルプロモーション部部長代理)と、「次のストック・ビジネス」として期待しているのだ。同社では、「WiMAX」規格のチップを搭載したモバイル端末に高速回線、セキュリティ環境、業務アプリケーションをセットにしたパッケージを早々に準備。「単なる回線売りでは、この先のビジネスは広がらない」(同)と、「WiMAX」向け事業に大きな望みを託している。
調査会社の矢野経済研究所によると、「国内WiMAX関連市場規模」はサービスが開始される08年以降から伸び続け、2012年に約1500億円程度の市場にまで成長すると予測されている。これは国内IT市場全体の100分の1程度にすぎない。だが、ハード機器販売はサービス利用が増えるにつれ、じり貧の状態にある。
ネットワークインフラ構築などに二の足を踏み、そこに収益源を求めてこなかった販売系SIerにとっては、「WiMAX」が普及することで事業領域を拡大する機会を得る可能性を期待できることになる。
part 3
開発系SIerの動き
地域WiMAXは即始動へ
インテック、事業化に熱い視線
ソフトウェア開発が事業主体の開発系SIerでは、ケーブルテレビ会社などが進める「地域WiMAX」に加わる動きがみられる。インテックは、「地域WiMAX」サービスの運営会社「湘南オープンワイヤレスプラットフォーム合同会社(湘南OWP)」に参画。2009年4月をめどにサービスを開始する計画だ。神奈川県藤沢市を中心とした地域限定のサービスで、ここでの取り組みを通じてビジネスモデルを確立し、収益化への道筋をつける。
「地域WiMAX」の免許は、現時点で40社程度が取得するといわれている。その多くは、地域密着のケーブルテレビ事業者が事業着手に乗り出すケースだ。こうしたなか、神奈川県藤沢市を中心に「地域WiMAX」を手がける「湘南OWP」が設立された。出資会社には、ケーブルテレビ統括事業者であるジュピターテレコム(J:COM)などが参画。サービス開始に向けて着々と準備が進められている。
同事業に参画したインテックは、本社を置く富山県のケーブルテレビ会社である「ケーブルテレビ富山」の運営に参加しており、上記の湘南OWPで得たノウハウを応用できると判断している。
「WiMAX」は、無線LANよりセキュアな通信が可能で、電波が届く範囲が広い。携帯電話より安価に通信網を構築できるなど利点があるからだ。ただ、ビジネス化に向けた課題は多い。例えば先行する公衆無線LANサービスが開発系SIerにとって収益力のあるビジネスに育っていないこと。また、現行より高速なデータ通信が可能な「3.9世代」の携帯電話網整備に向けた準備が進んでいるため、携帯電話との差別化が難しいことも課題として挙がっている。
湘南OWPでは、慶應義塾大学SFC研究所のプロジェクト「アンワイヤード研究コンソーシアム」との産学連携で、「WiMAX」のビジネスモデル創出を進行中だ。例えば、デジタルサイネージ(電子掲示板)やWiMAX端末に地元商店街の特売情報を配信するなど、広告や販売促進に関わる収入を得るといったビジネスモデルなどが検討されている。
インテックの鈴木良之・執行役員常務技術本部長は「『WiMAX』を無線LANと携帯電話の中間的な位置づけと捉えてビジネスモデルを考案する」と、WiMAXの特性を生かした収益モデルをつくる。
無線LANより広範囲で、携帯電話より狭い「地域WiMAX」の特性をどう生かしてビジネスモデルを組み立てるか。その課題をクリアできれば、「地域WiMAX」を手がける他事業者向けのシステム構築やサービス面での協業によるビジネス創出に期待が広がる。インテックの例にある「地域WiMAX」関連プロジェクトへの参画が新たなビジネスを生む可能性がある。
「WiMAX」成功のカギは?
ビジネスモデルが成否分ける
BBタワー取締役・古田敬氏 「技術に合った使い方」の発想を捨て、「使い方に合った技術活用」へと発想を転換する必要がある――。無線通信に詳しいブロードバンドタワー(BBタワー)の古田敬・取締役は、過熱気味の「WiMAX」論議に警鐘を鳴らす。 無線は帯域が限られており、有限の資源である。「WiMAX」を巡っても帯域の制限から全国規模で2社、「地域WiMAX」の申請でも実質“早い者勝ち”になり、排他的にならざるを得ない。ただ、免許を取得したといっても利益を生み出すかどうかは「別問題」だ。帯域そのものに価値があるのではなく、この上に「ビジネスモデルを構築してこそ価値が生まれる」と、古田取締役は指摘する。
インターネットへの接続料金は大幅に下がっており、「WiMAX」で単純なネット接続サービスを提供しても需要は限られる。この点は、先行する公衆無線LANで経験したことだ。通信料金をメインに発想するのではなく「『WiMAX』を広く安く開放し、その基盤上で展開されるサービスやコンテンツ、広告・販促などで収益を上げるネット的な発想」(同)の重要性を説く。例えば、「MVNO」など他事業者やコンテンツプロバイダとの連携を積極的に進め、「多彩なサービスを生み出せる環境を作る」ことだという。
BBタワーは湘南OWPに参加しており、「地域WiMAX」ビジネス化を通じ同社の主力事業であるデータセンターと「WiMAX」向けコンテンツ配信を連動させることなどを視野に入れている。既存事業との相乗効果を高めることにより、新規ビジネスを構築できると考えている。