ネットワーク時代といわれながらも、爆発的な市場の伸びを示していない国内「L2/L3」スイッチ市場。しかし、ネットワークインフラ構築で重要なアイテムであることは確かだ。需要を拡大するため、ネットワーク関連のインテグレータやディストリビュータなどは、単なる“箱売り”ではなく、L2/L3スイッチをベースとしたソリューションの提供により事業拡大を図る動きをみせている。
「L2/L3」スイッチとは
「L2/L3」スイッチはネットワーク構築に不可欠な機器で、頭に付く「L」はレイヤを表す。L3が基幹スイッチとしてLANの中核に位置づけられ、L2はLAN内で中継地点の役割を果たす。
「L2/L3」が「低いレイヤ」と称されるのに対して、「高いレイヤ」は「L4-7(マルチレイヤ)」スイッチとなる。アプリケーション配信の最適化が可能で、ロードバランサーやWAN高速化機器などが挙げられる。「L4-7」がなくても社内LANの構築が可能だが、トラフィック(ネットワーク上のデジタルデータ)処理を最適に配信したいとのニーズの高まりから、「L4-7」市場は拡大傾向にある。その一方で、「L2/L3」の市場は成熟化しつつあり、機器を販売するディストリビュータなどは“箱売り”からの脱却を図っている。
市場は成熟期の入り口に
キーワードを軸に事業拡大へ 調査会社のIDC Japanによれば、国内L2/L3スイッチ市場規模は、年平均成長率が2012年まで3.7%と予測されている。この成長は、NGN(次世代ネットワーク網)を中心に通事業者やサービスプロバイダのネットワークインフラ増強が進むためだ。通信事業者をメインターゲットにビジネスを手がけるネットワーク系販社にとって、安定的にビジネスを維持する可能性があることを示している。
一方、一般オフィスを中心とした法人市場に目を移すと、ネットワーク系販社が厳しい状況を強いられている状況だ。
IDC Japanでも、オフィス移転などに伴う社内LANの更改では、需要が出てくるものの、全体では落ち着きをみせているほか、一般オフィスによるネットワークインフラの増強に関しては市場拡大に寄与するまでに至っていないとしている。
しかも、市場環境は昨年秋から景気後退が色濃くなっており、ますますユーザー企業がネットワークインフラに対する投資意欲を抑えるケースが出てくるだろう。これまでL2/L3スイッチを中心にビジネスを手がけてきたネットワーク系販社にとっては、厳しい状況に追い込まれる危険性が大きい。こうした環境の下で、インテグレータやディストリビュータなど多くのネットワーク系販社に対して、L2/L3スイッチのビジネス状況と、これから先のビジネス展開について尋ねた。そこから浮かび上がったのが「仮想化」「ユニファイドコミュニケーション(UC)」「セキュリティ」「リプレース」「新技術」という五つのキーワードで事業拡大を図る動きだった。それらのキーワードをもとに、販社がどのようなビジネスを手がけているのかをレポートする。
KEY WORD
仮想化
仮想化でネットワーク増強へ
DCや階層フロア企業が導入
多くのネットワーク系販社がビジネスチャンスと捉えるのが「仮想化」である。ブレードサーバーを中心に仮想化の需要が増えているなか、ネットワークインフラの増強を求めるユーザー企業も出てきているようだ。なかでも、データセンター(DC)や階層フロアの企業にニーズが高まっている。そこで、ネットワーク系販社は「ネットワークの仮想化」の提案で案件獲得につなげる。
日商エレクトロニクスは、データセンター事業を手がける電算からジュニパーネットワークス製スイッチ「EX4200」シリーズの受注獲得をはじめ、50社程度に導入した実績をもっている。同シリーズの売りである「バーチャル・シャーシ」機能が、ユーザーに受け入れられたようだ。「バーチャル・シャーシ」は、複数のスイッチをつなげることで1台の大型スイッチのように動かすことができる。ユーザー企業にとって、拡張性の高さがメリットになる。電算は、長野県内で提供するケーブルテレビのインターネット接続サービス「avis」のトラフィック増大に備えて柔軟なインフラを構築したのである。
通信事業者向けビジネスを主力とするジュニパーは、2008年から法人市場への参入を図り、EXシリーズで09年末までに国内L2/L3スイッチ市場のシェア5%を目指している。それだけに、日商エレクトロニクスの実績は大きい。坂田義和・サービスプロバイダ事業本部マーケティング統括部プロダクトマネージャーは、「バーチャル・シャーシを切り口に、DCのほか、金融や製造など多くの業種で導入を促す。1年間で(ジュニパーが掲げる)シェアの達成は夢物語ではない」と自信をみせる。
大型スイッチでDC仮想化を実現するケースとしてネットマークスは、日本ユニシスのデータセンターをシスコシステムズ製の基幹スイッチ「Nexus」シリーズをベースにしてネットワークインフラを構築した実績をもっている。同製品は、データセンター内のインフラ簡素化を実現するもので、「ユーザーが急激に増えても十分に対応できるインフラを備えた」(藍隆幸・技術本部企画推進部商品企画室室長)ということになる。
回線サービスやSaaSなどを手がけるDC事業者がネットワークの仮想化を意識するのは、クラウド・コンピューティング時代を見据えているからだ。シスコの有力販社として「Nexus」シリーズの拡販に力を注ぐネットワンシステムズは、「ネットワークインフラは過渡期を迎えた。ネットワークの仮想化は主流になる」(飯田健二・営業推進グループネットワークテクノロジー本部営業推進部長)とみる。
多層階フロア向けに仮想化を提案することに力を注ぐのは、国産メーカーのアライドテレシスで、「日本特有のもの」(中島豊・マーケティング本部第1プロダクトマーケティング部長)と、外資系の対抗策として打ち出した戦略だ。
同社は07年秋、基幹スイッチとして「X900」シリーズを発売し、同製品のキャッチフレーズとして「日本企業のLAN環境に最適」を掲げた。日本の建物事情を認識したうえでのアピールだ。「各フロアごとに大型スイッチを導入しても、ユーザー企業はうまく活用できない。ならば、冗長性が高いスイッチを基幹スイッチとして提供していくことがユーザー企業のメリットにつながる」と判断した。また、米国が機器を冗長化する反面、日本では回線の冗長化が求められていることも調査結果で判明したという。そのため、同シリーズは回線冗長機能を備えることでインフラの簡素化を可能としている。
同製品を市場投入し、販売が本格化した08年度(08年12月期)は、L2/L3スイッチの売上高が前年度比20%増となった。今後はハイタッチ営業の強化で販売代理店とのパートナーシップ深耕を進める。
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