ストレージ「統合化」の波が押し寄せている。サーバーの「統合化」「仮想化」が進むなか、ユーザー企業が次のステップとしてストレージ機器の最適化を改めて求めているからだ。さらに、「統合化」から「仮想化」といった流れにつながり、ITベンダーにとっては大きなビジネスチャンスとなる。ただ、一口に「統合化」といっても、ベンダーによって切り口はさまざまだ。そこで、メーカー、販売系SIer、ネットワーク系販社に分類し、各プレーヤーそれぞれの取り組みを検証する。
メーカーの取り組み
「統合化」で主導権を握る
SMB開拓で販社支援の強化も
ストレージメーカー各社は、「統合化」を切り口に市場での主導権を握ろうとしている。これは、SMB(中堅・中小企業)でニーズが高まっているためで、各社ともニーズに対応した取り組みで拡販を図っている。ただ、ストレージ「統合化」は、ブレード型で集約する方法を主流とするサーバー「統合化」とは異なることから、販売代理店にとっては「統合化でブレードサーバーを売る」ようにはいかない。そのため、販売代理店への手厚い支援策を講じるメーカーも出てきている。
好調なストレージ事業
SMBニーズで販社に意欲 2008年は、ストレージメーカー各社にとって、事業が好調に推移した年だった。
NECは、SMB向けストレージビジネスが前年比で2ケタ成長を記録。日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は、今年4月からSMB向け製品を拡充したことで2ケタ近い成長を達成した。日本IBMでは、サーバーと比べてストレージのほうが伸びるなど、ハードウェアのなかではストレージ事業が拡大した。EMCジャパンは、SMB向け事業の売り上げ規模がまだ小さいものの、5倍以上に伸びた。アイ・オー・データ機器は、最近になって法人向け事業の拡大を本格化しており、SMBを中心にユーザー企業を獲得。出荷量が大幅に伸びたという。
各社の事業が好調だったのは、ユーザー企業にバックアップのニーズが高まっていることが大きく影響したからだ。このニーズに対し、ストレージを軸としてサーバーやソフトウェアを組み合わせた「ストレージソリューション」を提供することができたわけだ。しかも、「DAS」ではなく、より高額な「NAS」や「SAN」を導入したいというニーズがSMBの間で高まっていることから、ベンダーの収益率が高くなってきている。
また、ストレージが単なる「データを貯めるだけ」という位置づけから、さまざまな選択肢が出てきているようだ。大企業に限らず、SMBでも単にデータを貯めているだけでは逆に手間がかかるという考え方をするようになり、アプローチの仕方は製品販売というよりもソリューション提案を行っていくことが重要なポイントになっている。
SMBでストレージを購入する傾向が高まっていることを勘案すれば、ディストリビュータやSIer、ネットワーク系販社などといったメーカーの販売代理店に位置づけられるベンダーが、ストレージ機器を中心に積極的にビジネスを手がける動きが活発化しそうだ。実際、拡販に意欲を見せ始めているSIerも出てきており、サーバーを中心とするベンダーとの差別化を図っている。
ストレージ統合とは? デジタルデータが主流になりつつあり、社内のデータ量が急速に増大している。ユーザー企業の多くはストレージ容量の効率的な管理やバックアップの見直しなどといった課題に頭を悩ませている。導入コストや管理の簡便性などから、サーバーにストレージを直接接続する「DAS(ダイレクト・アタッチド・ストレージ)」という方式を採用しているケースが多いためだ。
そのような課題の解決策として、「DAS」で接続された複数のストレージを集約し、直接ネットワークに接続することで1台のストレージをサーバー複数台の共有ディスクとして活用する「NAS(ネットワーク・アタッチド・ストレージ)」とか、1台のストレージを多拠点間で共有できるようにする「SAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)」などという接続方式を導入する動きが高まってきている。
「NAS」や「SAN」は、最近になって出てきた接続方式ではなく、すでに数年前から登場していたものだ。しかし、ブレードサーバーが市場投入されたことで、サーバーの「統合化」「仮想化」が進み、「DAS」では対応し切れないことから、改めて注目を集め始めたというわけだ。また、最近では地球環境を意識した「グリーンIT」の観点や、先行き不透明な景況感によるコスト削減などで、ITインフラの消費電力量などのランニングコストを効率的に活用する動きも出ており、「NAS」や「SAN」が再浮上したという事情がある。
販社との協業を強化する動き
サーバーとのセット販売も継続 販売代理店が拡販を積極化するのに伴い、メーカー側では販売支援策を強化する動きが出てきている。
日本HPでは、1次店へのパートナーシップ深耕だけでなく、2次店への支援強化を進める。製品ラインアップが増加しているなか、メーカーとして支援する販売代理店層を広げることで直接的に販売契約を結ぶ1次店へのメリットにつなげていく。
日本IBMは、「VAD(バリュー・アディッド・ディストリビュータ)」やSIerなど、1次店経由のスキルアップを図るための教育制度を強化する。「バリュープログラム」と呼ばれる支援制度でストレージのトレーニングを拡充。ある一定のレベルに達した販売代理店に対して技術情報や販売面を含めた支援を強化する方針だ。
アイ・オー・データ機器は、パソコンやソフトウェアを含めたセット販売で販売代理店の基盤を固めていく。また、地方のSIerに対するパートナーシップ振興策として「ストレージフェア」などと称したセミナーや展示会を積極的に開催する計画だ。
EMCジャパンは、サーバーを持っていないことから、他社製サーバーとEMC製ストレージを組み合わせて販売してもらうためのプログラム策定を検討している。また、2次店向け支援策や販売代理店との共同セミナーの開催なども進めていく。
NECでは、大手のディストリビュータの全国に広がる販売網を活性化するため、同社の支社や支店が販売代理店を支援する体制を整える。ディストリビュータと共同で地場SIerとのパートナーシップを固めることで、新規顧客の開拓を図っていく考えだ。
これまでサーバーのついでに導入するという傾向が高かったストレージ機器。ベンダー各社は、サーバーとのセット販売という手法も引き続きとっていくが、ストレージをベースとしたシステム提案で大きな案件を獲得する方向に力を注いでいる。
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