SIerの事業改革が本格化している。景気後退で業績悪化に歯止めがかからないなか、これまでのビジネスモデルを徹底的に見直すことで回復への道筋をつけるのが狙いだ。本特集では、一連の改革から“伸びるSIer”の要素を分析する。
弱点が一気に表面化
旧来ビジネスは通用せず 情報サービス業界全体に、減収減益の嵐が吹き荒れている。受託ソフト開発への偏重や独自商材の欠如、受け身の営業など、開発系SIerが抱える弱点が一気に表面化。これまでIT投資は比較的順調に増えてきただけに、SIerの“ぬるま湯体質”が助長されてきた側面もある。だが、今後、再び景気が回復したとしても、以前と同じビジネスが通用する保証はない。実際、ユーザー企業の強いコスト削減の要求に後押しされる形で、クラウド化などのアーキテクチャの変化は、「予想を上回る速度」(大手SIer幹部)で進む。
暗いトンネルを抜けたら、見える風景はまったく違ったものになる──。不況明けの情報サービス産業は、従来のビジネスモデルが通用しない別の世界に変わると、SIer幹部は異口同音に述べる。こうした環境変化に対応するため、経営陣の刷新や事業構造の再編、クラウド・SaaSなどサービス化の推進など、ポスト不況を視野に入れたSIerの構造改革が本格的に始まっている。
業界トップのNTTデータはグループ再編や自社ソフトプロダクトの強化、グローバル戦略を打ち出し、富士通ビジネスシステム(FJB)は富士通の完全子会社になることで、本体との連携をより強める。ITホールディングス(ITHD)はサービスビジネスを強化するためデータセンター(DC)の増強に乗り出し、JBCCホールディングスはM&Aを加速。住商情報システムや日立システムアンドサービス、日本システムディベロップメント(NSD)、TDCソフトウェアエンジニアリング、コア、情報技術開発(tdi)などは、4~6月にかけてトップ交代を行い、経営体制を刷新している。
日立システムや住商情報システムのトップは、親会社の経営力強化のため本体に引き戻されるケースで、コアは創業メンバーから若手にバトンタッチをするパターンだ。多くのSIerが今期(2010年3月期)に減収減益の見通しを示すなか、経営トップには経済環境の変化に対応するビジネスモデルの再構築が早急に求められている。
従来の開発系SIerのビジネスモデルは、顧客のシステム開発案件を受託する“受託ソフト開発”偏重の傾向が強かった。だが、これからは(1)クラウド・SaaSなどのサービス化(2)独自プロダクトを切り口とした攻めの経営(3)グローバル戦略の三つの要素が欠かせない。グローバル展開は海外顧客の開拓だけでなく、オフショア開発など生産体制の見直しも含んでいる。この特集では、一連の事業構造の変革を追っていく。
NTTデータ・山下徹社長が見通す
五つのチャンス
経済の潮流を捉えよ
半値で買える優良企業!
NTTデータの山下徹社長は、不況の今、五つのチャンスがあると考えている。ユーザー企業の強いコスト削減意欲や政府の景気浮揚策、グリーンITなど経済の潮流を巧みに捉えることで自らのビジネスを伸ばす方針だ。
(1)アウトソーシング……ユーザー企業内にコスト削減の意識が高まるなか、情報システムの共同アウトソーシングの需要が拡大する。地方銀行などの金融機関や自治体の共同アウトソーシング需要を念頭に置いたものと思われる。
(2)ユーザー企業の業界再編に伴うIT需要拡大……不況でユーザー企業が属する業界再編が促進され、統合・合併による情報システムの再構築などの特需的な需要が高まる。
(3)政府のデジタル新時代に向けた新たな戦略~三か年緊急プラン~に伴うIT投資増……向こう3年間で官民合わせて3兆円の投資がなされ、40万~50万人の雇用が見込まれる。
(4)グリーンIT……電力消費の削減、CO2削減などの“環境経営”が強く求められるなか、グリーンITを実現する新世代のデータセンター(DC)で新たなビジネスが生まれる。
(5)M&Aのチャンス……円高や株価安の傾向によって、主に海外の有力SIerにM&Aを仕掛けるのに絶好のチャンスが到来。過去にM&A対象として検討した海外SIerをみると、将来性があるにもかかわらず、「当時検討した価格の半値でM&Aが可能になるほど、値頃感が高まっている」(山下社長)と、実感している。
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