2008年のコンシューマ向けパソコン(PC)市場でブームを巻き起こしたネットブック。BCNランキングによれば、PCの販売が低迷するなか、低価格を武器にノートPC販売台数の30%を占めるまで成長している(今年5月時点)。一方、需要が一巡し、コンシューマ市場での勢いは鈍化するとの観測が出始めており、メーカーでは不況でコスト削減に取り組む企業を新しいユーザー対象として照準を合わせ始めた。ネットブックで法人市場を開拓できるのか。メーカーやディストリビュータ、SIerなどの動きを追った。
[メーカーの動き]
市場開拓に意欲的な海外勢
国内メーカーは静観の構え
法人開拓に積極的なのは、コンシューマ市場でネットブックのムーブメントを引き起こした台湾メーカーだ。米国メーカーも国内PC市場のシェア拡大のために、台湾勢と同様の動きを展開している。一方、国内メーカーは静観の構え。法人向けネットブックビジネスは、海外勢と国内勢に温度差が生じている。
国内シェア拡大を図る 日本エイサーは、コンシューマ向けモデルを法人にも展開。今年6月に発売した最新機種の「Aspire one 751」を筆頭に、既存モデル「Dシリーズ」などを売り込む。瀬戸和信・事業支援部マーケティングコミュニケーション課マネージャーは、「今年は法人向けノートPCの導入要件が、『セキュリティ確保』一辺倒から、『コスト削減と導入のしやすさを重視』というように変化している。低価格のネットブックは、非常に注目されている」と話す。
同社は、チャネルビジネスの販売戦略を徹底。ディストリビュータとして丸紅インフォテックとダイワボウ情報システムを確保している。昨年8月にコンシューマ向けの第1弾モデルを投入して以来、大手のグループ企業や中小企業など100社ほどが導入したという。今も1か月に10~20件の問い合せがあり、「法人市場での手応えは十分」と、瀬戸マネージャーは断言する。2011年には国内のPC販売台数で5位以内に入る目標を掲げており、安定した販売が見込める法人市場の攻略に踏み切った。「現状では売上高全体の2割程度が法人向けの売り上げ。それをいかに引き上げるかに重点をおいている」。その一環として、ディストリビュータへの支援を手厚くするなど、パートナーシップを深めることで販売目標を達成する方針だ。
デルは、教育機関に特化した製品として「Latitude 2100」を今年5月に発売。文教分野の攻略に乗り出した。ターゲットは大学や一部研究機関だが、なかでも小・中学校への販売に力を入れる。「高機能ではない分、小・中学生が使うPCとして最適」(垂見智真・北アジア地域公共事業マーケティング本部クライアントソリューションマーケティングマネージャー)というのが理由だ。
また、「文教分野は手つかずで、市場拡大の可能性が高い。経済環境にも左右されず、非常に安定した市場」と説明する。昨年3月末で7人に1台だった生徒用PC保有率を、10年3月末までに3.6人に1台まで引き上げる追加補正予算が成立。2491億円の予算追加など、新しいビジネスチャンスが広がる。専用モデルで需要を取り込むことで、現在国内3位という文教市場でのシェア拡大を図る。
日本HPは、デモ機で使い勝手を確かめてもらい、購入につなげる手法を展開している。すでに、「HP2133」「HP2140」を200社以上に貸し出した。「この取り組みは当社だけ。手間はかかるが、市場開拓には非常に有効」と、山上正彦・パーソナルシステムズ事業統括モバイル&コンシューマビジネス本部プロダクトマネージャーはアピールする。実際、「企業から『思ったより使いやすい』という反応が多く、評判は上々」と手応えを感じている。
同社は、ダイワボウ情報システムや丸紅インフォテック、大塚商会など幅広いディストリビュータ経由で販売。「『HP2140』は、OSとして『Windows XP Pro』のモデルを用意したほか、バイオスのパスワード機能を備え、セキュリティが高い。サポートも充実し、差異化は十分にできている」と胸を張る。
メイン商材にはなり得ない NECは、法人向けモバイルPCとして「VersaPro UltraLite タイプVS」を販売している。伊藤正文・ビジネスPC事業部長は、「法人のリプレース需要を掘り起せる」としている。CPUがインテルの「Atom」、メールやインターネット、資料作成の用途に最適と謳っているが、「ネットブックとは一線を画す」という。販路がディストリビュータやSIer経由であるため、「当製品をきっかけに、さまざまなソリューションを提案する。企業のIT投資意欲を促進できるようになる」とみている。しかし、PCのメイン商材とは判断しておらず、「あくまで“呼び水”の位置づけ」といった姿勢で販売していく。
富士通は、「ネットブックは、まだ個人向けのPCという意識。企業向けの販売は静観している」(平野和敏・パーソナルビジネス本部パーソナルマーケティング統括部プロジェクト部長)という。加えて、「企業向けのノートPCはビジネスOSで、持ち歩いて使うため稼働時間は10時間以上が必要。ネットブックはOSが『Windows XP Home Edition』で、約3時間の稼働時間と機能に制限がある。安いだけでは企業が購入に傾くとは考えにくい」と指摘する。
ネットブックとは? 実勢価格を5万円前後に設定した小型ノートPC。液晶画面のサイズが12インチ以下、メモリが1GB以下、CPUがインテルの「Atom」、OSに「Windows XP Home Edition」を採用していることが、ネットブックの一般的な要件とされている。国内市場では、台湾メーカーのアスーステックコンピュータやエイサーが火つけ役となった。その後、デルやヒューレット・パッカード(HP)といった米国メーカー、NECや東芝、富士通など国内メーカーも相次いで参入している。
現段階では、主にコンシューマ向けとして販売されている。しかし、法人向けとしても営業社員の持ち出し端末や、SaaS(Software as a Service)を利用したテレビ会議システム用の端末、デスクトップPCなどを置くスペースがない小さな店舗での利用が想定されている。
企業のネットブックに対する注目度は高い。IDC Japanによる今年4月の調査では、従業員1000名以上の企業で11.5%が導入済み、31%が導入を前提に検討中だ。100~499名の中堅企業でも導入済みが7.6%、検討中が24.3%と高い導入意欲を示していることがわかった。IDCではネットブックのビジネス用途について、さらに詳しく調査を続けるという。
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