販社I ハード/ソフト等
文教得意ベンダーの伸長明らか
文教市場の“特需”をつかもうと工夫を凝らして商品を企画し、体制を整備するメーカー。これに対し、当然のことながら学校向けにシステム販売・構築するSIerも負けず劣らず期待を寄せている。
公立学校のシステム構築で国内シェア10~20%程度を獲得しているといわれる内田洋行も、その1社だ。大久保昇・取締役専務執行役員は「パソコンが2分の1補助で学校に導入された時と同じインパクトがある」と、久々に訪れた“特需”の波に身を引き締める。
今回の整備事業は、教育用・校務用だけで4081億円。内田洋行の市場規模を換算すると、400億円程度はモノにできる。同社の年商は約1500億円。この4分の1程度を今回の措置で叩き出せる可能性があるからだ。ただ「モノを納めるだけが仕事ではない。使われてこそ当社の役割が果たせる」(大久保取締役)と話す。同社の文教市場での売上高に占める自社製品の割合は1割弱。他社の有用製品をソリューションにまとめ、各学校に適したシステムとして提案することで、文教を得意とする地域ベンダーも巻き込み、自社に限らず全文教市場を盛り上げる役目を果たす考えだ。
一方、NECの文教分野での最大販社である日興通信は、「各自治体の予算については営業活動を通じて情報を収集中。とくにパソコン関連では金額・台数も多く予算が付いており、非常に期待している」と、企画部営業企画部ネットワーク推進課の織田裕子氏は切り出した。
同社はこれまで、公立小・中学校を中心に約3000校にパソコンなどを導入した実績があり、売上高の3分の1が文教部門で占められている。ゴールデンウィーク明けからは、今回措置された整備事業の情報をキャッチ。すぐさま自治体への営業活動を開始した。昨年度に比べ、20~30%の売り上げ伸長を見込む。
ただ、パソコンは競合ベンダーも多いことから、単にハードを売るだけでは「値引き交渉になり、(利益的に)厳しい」(織田氏)とみる。そこで、強みである通信技術と組み合わせたソリューション提案をすることで他社との差異化を図る考えだ。提案の基本は「いかに使いやすいかという生徒の目線」(同)。例えば教室のネット接続環境には、配線の煩わしさがなく簡単にネットにアクセスできる無線LAN環境の導入をパソコンとセットで提案している。
一方、無線LANは安全性に問題があり、使い方も難しいと消極的な教育委員会や学校も少なくない。日興通信ではこうした懸念を払拭するため、営業と技術者が出向いて安全性や使い勝手のよさを丁寧に説明。その結果、「拒否感はなくなっている」(織田氏)という。
内田洋行や日興通信のように学校の利用環境を熟知するベンダーが、教育委員会と学校現場の先生らの間を橋渡しするバイパスにならない限り、「使われるICT」にはならないだろう。
ただ、SIerの多くが、この整備事業を冷静に見つめている側面があるのも見逃せない。1年という期間で大量のハードウェアが流通すれば、それに付随する構築作業も付いてくる。短期間であるだけに、各社がさばくことができる案件数には限りがあり、「結局、文教市場に強いSIerが、それぞれ均一に恩恵を受け、どこかのベンダーが突出してビジネスを伸ばすようなことはない」(某ベンダー担当者)というのだ。また、「教育機関には、民間企業よりも価格を安くした“文教プライス”で納入する場合が多い。利幅はその分薄い」という懸念がないわけではない。
「ビジネスチャンスはある」。売り上げ伸長に寄与するという感触では一致しているが、その一方で“利益薄き繁忙”を危惧する声があるのも事実だ。
販社II ネットワーク
校内LAN・関連需要あり
今回の整備事業予算には、「校内LAN整備」が盛り込まれ、ネットワーク関連機器のメーカーや販社が積極的に動いている。パソコンやサーバーなどコンピュータシステムの導入・リプレースで、校内LANなどネットワークインフラを増強する必要性が出てくるためで、案件獲得に向けた準備が急ピッチで進められている。
通信機器メーカー世界最大手のシスコシステムズの日本法人では、テレビ会議システムなどアプリケーションを含めた提案で、各地域の学校が求めるニーズに対応する方針。基本的には、自社製品でシステムやネットワークインフラを構築する“オールシスコ”で学校ICT環境の整備を促すため、対応可能な販社とアライアンスを強化しているという。
だが、富士通やNECなど公立学校に影響力のあるベンダーがシステム構築の主体社で、ネットワークインフラ側のベンダーがプライマリー(元請け)になるケースはまずない。公立学校のICT環境整備は、基本的にパソコンなどコンピュータシステムの導入で学習や校務を効率化することが前提。このため、通信機器メーカーは、富士通などメーカーや系列販社などとのパートナー関係構築を進めている。
販社III 家電量販店
ヤマダ、ビックも動く
一方、文教市場を得意とするベンダーが「次の勢力」として警戒しているのが、企業システム提供でも市場を伸ばす家電量販店だ。
整備事業で667億円を措置された地デジ関連製品の販売を巡っては、大手量販店が動き始めている。ビックカメラでは、薄型テレビやレコーダー、チューナー、パソコンなど地デジ対応のデジタル機器の販促を計画している。「教育機関などから問い合わせや引き合いなど、新規になる需要を見込み、非常に期待している」(田島憲一・法人営業室長)と、正直な感想を述べる。
現在は文部科学省や地方自治体の動きを睨みながら、各自治体教育委員会の入札情報を収集。同時に「取り扱う地上デジタル関連機器を充実することで、(入札に)素早く対応できるよう体制を整えている」(同)という状況だ。
公立学校への機器販売は公募入札方式。同社では「各自治体の入札参加資格の取得と参加条件などを広く収集し、対応策や参入方法を検討する」(同)ことが受注獲得のカギを握るとみている。
業界最大手のヤマダ電機も電機メーカーやパソコンメーカーと組んで文教市場に参入すると囁かれている。だが、同社は「今のところ、そういった動きはない」(広報室)と否定している。しかし、SIerやメーカーなどのベンダーに聞くと「一部で競合が予想される」(某社幹部)という。「安さ」と大量販売によるメーカー側との“握り”に定評のある量販店の動きは、ベンダーにとって気になるところだ。
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