世界同時不況の端緒となった“リーマン・ショック”が起きてから、この9月で1年となる。この間、世界の経済ルールは大きく様変わりした。ユーザー企業の経営を支えるITもまた変革を強く求められるようになった。この特集では、IT業界がこの1年の間にどのような変革を遂げてきたのか、変化の先にはどのような業界の将来像が見えるのか――。
自社DCのクラウド転用が進む
「クラウド/SaaS」は、大手ベンダーだけが提供できるサービスではない--。世界同時不況の衝撃を受け、地元企業や自治体の間では、運用保守料がかさんで手間のかかるITシステムを「もたない」傾向が高まってきた。そのため、地域の地場ITベンダーは、従来の「売り切り」モデルからの脱却を図る動きが顕著になっている。地域のなかでも有力ベンダーは、とくに5年ほど前に投資して整備したデータセンター(DC)を「クラウド/SaaS」サービスを提供する基盤へと、段階的に転換しているのだ。
一時期、アウトソーシングやバックアップセンターの受け入れ先として整備されたこれらのDCは、思ったほど首都圏などから顧客を受け入れることができず、“だだっ広い客間”と化しているケースが散見された。ところが、ここに変化が現れてきた。「クラウド/SaaS」はASPなどに比べて設備投資が少なく、顧客数が増えるほどにストックが溜まる仕組みであることを知った地場ITベンダーは、こぞってそちらになびいているのだ。
一方、DCをもたないベンダーでも、DCの新規設備投資に二の足を踏みながらも他社のDCを利用した「クラウド/SaaS」を模索する動きが活発化している。こうしたベンダーの多くは、全国展開する大手メーカーや業務ソフトウェアベンダーにはない独自の業種・業務向けアプリケーションを有する場合がほとんどだ。
しかし、最近起こっている「クラウド/SaaS」の“ムーブメント”に、焦燥感を抱くベンダーも依然として少なくない。クライアント/サーバー型の「売り切り」モデルと異なり、イニシャル(初期投資)の売り上げで収益を高めるモデルを指向しているため、従量課金制の「ストック型」収益モデルに転換することに躊躇があるからだ。大型の「クラウド/SaaS」基盤を保有するNECや富士通、日本IBMなどの大手メーカーやNTTデータなどの大手SIerは、こうしたベンダーをケアし、自社ビジネスを拡大する方向性を見いだす機会が到来したといえる。
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