「縁の下の力持ち」「黒子役」――。そんな表現が似合うシステム運用管理ツールのビジネスが熱い。複雑で大規模なシステムを運用する大企業を中心に導入が進み、その後は飽和感を指摘する向きもあったが、そんな声とは裏腹に伸び盛りの様相だ。情報システム管理者向けツールで、経営者や従業員がメリットを感じにくいにもかかわらず、なぜ市場は盛り上がるのか。不況下でも着実に成長する有望市場を探った。
不況でも伸びる成長株
中長期的な拡大が見込める有望市場
どこもかしこも不況、不況でITベンダーの嘆きが聞こえる現在、運用管理ツールは、世界同時不況が国内で悪影響を与え始めた昨年度も好調だった。それだけでなく、有力調査会社の調べでは、中長期的な成長が見込めるという予測が大勢を占めている。
2013年までの
年成長率は約5% 2008~2013年までの年平均成長率(CAGR)は4.7%、2013年の市場規模は3486億円に達する――。調査会社IDC Japanが2009年8月11日に発表した、情報システムおよびネットワーク管理ソフト市場の予測データである(図1参照)。
不況の影響を受けて、複数のIT調査会社はIT産業全体と大半の各IT製品・サービス分野で、マイナス成長を予測するデータを発信している。IDC Japanが7月30日に発表した09年の国内IT産業全体の市場規模予測は、前年比5.6%減の11兆9365億円。前回予測時(09年3月)の3.8%減からさらに1.8ポイントも悪化するとみている。株価は1万円台まで回復し、「底を打った」との声をチラホラ聞くようになったが、IT産業界は依然として厳しい。だが、そんな苦しい環境でも、運用管理ツールは数少ない有望株として、中長期的に伸びるとIDC Japanではみている。
別の調査会社も、この分野にはポジティブな見解を示す。大企業向け調査に強いアイ・ティ・アール(ITR)は09年6月11日、08年度の国内運用管理市場は前年度比5.9%増で伸びたと分析。今年度もほぼ同様の伸びを見込めるとしている。
両社の成長予測データは、ともに3か月以内に公表されたデータで、不況の影響をモロに受けている状況下で分析したもの。ユーザー企業・団体がIT投資を抑制しているなかでも、両者は「運用管理ツールはプラス成長」と踏んでいるのだ。
多種多様な
ツールが商品化 「運用管理ソフト」とは、簡単にいえば、コンピュータや通信機器の動作状態を監視し、その情報を一元管理するツールを指す。ウイルスに感染したり、正常に動作しなかったりした場合に通知する機能をもつ。システム管理者向けのソフトで、情報システム部門以外の従業員や経営者は、そのメリットを感じる機会は少ないが、業務システムを安定稼働させるためには必須で、システム管理者の業務負担を軽減するためには欠かせないソフトだ。
ひと括りに運用管理ソフトといわれるが、その範囲は広い。ハードの動作状況を管理する「イベント管理」やネットワークを管理する「ネットワーク管理」、クライアントPCの情報・動作状況を把握・監視する「PC資産管理」など多岐にわたる。各ベンダーや調査会社、業界団体によって、その範疇はさまざまだが、ITRのカテゴリを引用すれば、図2のようになる。運用管理ツールのなかでも売れている分野と、そうでない分野が分かり、ストレージやサーバーなどのハード管理機能を求めるユーザー企業が、運用管理ツールを中心であることが見てとれる。製品も複数の運用管理機能をもつ統合管理パッケージツールもあれば、各機能に特化したソフトまで存在する。
これらを総称する運用管理ツールは、分野によって登場時期は異なるものの、決して新しい分野ではない。情報システムがオープンになり、マルチベンダー化し、肥大化・複雑化した頃から、大規模な情報システムでクライアントPCの台数が多い大企業を中心に十数年前から導入が進み、市場が広がった。
大企業向けは
需要一巡!? ただ、大企業には、ある程度の導入が一巡したとの見方が強い。システム統合運用管理ツール「JP1」で、11年連続トップシェアを誇る日立製作所の後藤邦仁・販売推進本部JP1販売推進センタ主任技師は、「大企業が情報システムの運用をツールなしでやっていることは絶対にないと言っていいはずだ。100%のユーザー企業が何らかの運用管理ツールを導入している」と断言する。
また、管理するシステムが大規模でなければあまり効果を発揮しないという特性上、小規模システムやPC台数が少ない中小規模事業者にはなかなか浸透しない。それがこれまでの流れだ。それゆえに、運用管理ツール市場は飽和したとの声が広がったのだ。
では、なぜそんな声もあるなかで、市場は今後も成長するのか。そこには、複数の要素がある。次ページ以降で、キーワード別に伸びる理由とその具体的な分野を解説する。
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