2009年7月、高速無線通信サービス「WiMAX」がスタートした。企業のノートPCの利用では、通信環境の整備は今や必須になっている。そうしたなか、サービスエリアはまだ限定されるものの、3.5G(3.5世代携帯電話)よりも大容量の通信が定額で利用できるWiMAXは魅力的なサービスだ。PCメーカーも対応PCの投入を表明。コモディティ化が進むPCで、新たな付加価値製品として期待する。はたしてWiMAXは法人市場でITベンダーにビジネスチャンスをもたらすのか。各社の動きを追った。
通信事業者・NIerの動向
WiMAXを提供するUQコミュニケーションズ(UQ)は、多くのITベンダーが指摘するエリア拡大に向け基地局の増強を加速し、法人市場開拓の新施策を打ち出す。一方、NIerではWiMAXを利用する企業のインフラに商機を見出そうとしている。
基地局設置の拡大進めるUQ WiMAXの運営会社であるUQコミュニケーションズが主力事業に据えているのは、基地局の設置。現行ではITベンダーの多くが指摘する一部エリアに限定されているサービスエリアを、いかに多く、しかも早い段階でカバー率を高めるかが最大のミッションだ。 今年7月の有料サービス開始時に設置した基地局は500程度で、当初の予定より2分の1以上も下回った。設置予定の場所で許可が下りなかったことなどが原因だが、今では順調に基地局設置を進めており、「今年度末に見込んでいた4000強から設置可能な範囲で6000基地局は固い」(小池竜太・コーポレート部門長)と、今年度末(10年3月期)には予想を大きく上回る予定で、エリア拡大に自信をみせる。

UQコミュニケーションズ 小池竜太 コーポレート部門長
UQでは基地局設置数の問題解決にメドがついたことから、「つながらないなどの問題が発生する可能性があるため、これまでは積極的に加入者を増やそうとは考えていなかったが、今後は加入者の増加策を視野に入れていきたい」(同)と話す。
MVNO向け新サービスで法人を開拓 今後、加入者の広がりとして需要が大きいと見込むのが法人市場。UQでは自前のサービス以外に、回線を企業に貸し出す事業も行っている。UQから回線を借りてサービスを行うMVNO(仮想移動体通信事業者)には、家電量販店やISPなど個人向けにサービス提供する会社などを含め、現段階で26社が名乗りを上げているが、なかでも「ディストリビュータやSIerなど法人ソリューションを提供するベンダーが目立つ」(小池部門長)。その多くが法人市場でWiMAX活用を検討している状況だ。そのため法人にターゲットを定め始めたのだ。
市場開拓に向け、UQでは料金プランのラインアップを拡充し、MVNOを通じて法人顧客の獲得を図る方針だ。小池部門長は「現段階で1種類の料金体系を、法人向けにバリエーションを増やす必要がある」と強調する。
具体的には、1回線で複数デバイスの接続が可能なオプション機能で「複数回線でマルチデバイスの接続が可能なサービスを、近く法人向けに提供する」(小池部門長)予定だ。
UQにとっては、いかにWiMAXのメリットや魅力を訴えられるかが事業拡大の決め手になる。小池部門長は、「将来的には、工場のFA(ファクトリー・オートメーション)をWiMAXを使い無線で操作するMtoM(マシン・トゥー・マシン)での利用法も一つとして挙げられる」と展望を語る。
WiMAXとは? Worldwide Interoperability for Microwave Accessの略で、IEEE(米国電気電子学会)が承認した標準規格。固定通信向け「802.16-2004」と高速移動体通信用の「802.16e」がある。米国や韓国、台湾など世界141か国でサービス提供や導入が検討されている。日本ではKDDI、インテル、東日本旅客鉄道(JR東日本)、京セラなどが出資したUQコミュニケーションズが09年7月に有料サービスを開始した。
同社の規格は「802.16e」で、固定用サービスと区別するために「モバイルWiMAX」とも呼ばれる。通信速度は下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsで、スポット的に利用される無線LANとは異なり、広いエリアで利用できるのが特長だ。ただし、現在のサービスエリアは東名阪など一部の地域に限定されている。UQでは、09年度末までに全国の政令指定都市と主要都市までにエリアを拡大する計画だ。
NIerはMVNOのインフラ構築に期待 一方、ネットワークインフラ構築に強いインテグレータ(NIer)では、WiMAXを切り口にしたインフラ構築にビジネスチャンスを見いだそうとしている。
通信事業者やISP(インターネットプロバイダ)へのインフラビジネスを主力に据えるネットワンシステムズでは、WiMAXのMVNOに進出したISP事業者のインフラ構築案件を狙う。
同社では、ISPがMVNOでWiMAXを提供する場合にはインフラの増強が不可欠とみており、「トップレベルのノウハウを生かして提案している」(吉野孝行社長)。ネットワーク監視といったサービスも付加し「ユーザー企業の信頼性を確保している」(同)という。
最近では、ユーザー企業がWiMAXを利用したアプリケーションサービスを拡充できるように、コンピュータシステムまでを網羅したインフラ増強の提案も始めた。「WiMAXは、まだ新しい回線サービスだから、提供する側にとっては安全で確固たるネットワークが必要。こうした課題を解決することが案件の獲得につながる」と吉野社長は強調する。
データセンター(DC)を所有するITベンダーなども、サービス拡充の一つとしてWiMAXの提供を視野に入れている。ネットワーク機器販売のネットマークスでは、ITベンダーがネットワークインフラの増強を図る動きが出てくると見込んでおり、「リモートでのネットワーク監視などの新しいサービスを強化していく」(藍隆幸・技術本部企画推進部商品企画室長)方針だ。
一般オフィスがネットワークインフラをリプレースする動きは鈍化傾向にあり、NIerにとっては厳しい状況にある。新しいネットワークサービスを切り口とした提案を矢継ぎ早に提案していくことが、今後の事業拡大のカギを握る。そうした状況のなかで、WiMAXでの新たな需要を期待しているのだ。
ネットワークでは通信のセキュリティも重要になるが、UQが勧めるセキュリティソフト「InterSafe(インターセーフ)」を販売しているアルプスシステムインテグレーションの松下綾子・営業統括部特販営業課課長は「WiMAXに紐づく需要は、商用サービスが始まって間もないこともあり、まだこれから」と市場の動向を注視している状況だ。
[次のページ]