企業内のデータ増大に伴って、国内で中堅・中小企業(SMB)向けストレージ市場が成長軌道に乗る機運が高まっている。ITベンダーにとっては、ストレージ関連ビジネスがSMBを開拓する柱になりそうだ。ユーザー企業によるストレージのリプレースに対応する、あるいはユーザー企業のビジネスに“旨味”をつけるための製品・サービスを提案するなどの、ベンダー各社の動きを探った。
《市場の状況》
インテグレーションは伸びる 年平均成長率は3.8%
コンピュータシステムとネットワークインフラの双方から提案が可能なストレージ。関連製品を扱うディストリビュータやSIer、NIerは、それぞれの立場からビジネス拡大を図っている。これまでストレージを導入するユーザー企業は、システムやインフラをリプレースする際にデータを貯めておくための“ついで買い”のケースが多かったが、ここにきて意識が変わったようだ。内部統制に関連するデータ管理の観点からリプレースしたり、コスト削減の観点から新しいストレージシステムを導入する傾向が高まっている。こうしたニーズが、ITベンダーの案件獲得につながっているのだ。
調査会社のIDC Japanは、国内ストレージサービスの市場規模は2008年で2027億2100万円(前年比1.8%増)と成長し、08年から13年までの年平均成長率は3.8%と予測している。同社が定義したストレージサービスは、「コンサルティング」「導入・構築サービス」「管理・運用サービス」「保守サービス」の四つのカテゴリに分類される。
景気悪化の影響で、07年以前の7%を超える成長率からみれば減速した感はあるものの、サーバーの統合化がユーザー企業のITインフラ運用コストの削減に効果をあげているのに伴い、さらに効率性を高めるためにストレージをリプレースするといった再構築案件が増えているという。しかも、サーバーが仮想化環境へと移行する流れが出ていることから、ユーザー企業はストレージに対して可用性や信頼性、事業継続性などを求めているとIDC Japanではみている。そのニーズを満たすため、今後はシステム構築を前提としたプロフェッショナルサービス、構築・運用を支える保守サービスなどを求める声がユーザー企業からあがるだろうとしている。
IDC Japanの鈴木康介・ストレージシステムズ リサーチマネージャーは「07年まで国内ストレージサービス市場でプロフェッショナルサービスが順調に拡大していたが、08年の景気後退によってその成長は停滞した。一方、ストレージに関連する保守サービスは、多くのシステム更改の先送りによる保守契約延長のため売り上げが拡大した面もあるが、新規販売に伴う契約は減少している。しかし、こうした傾向は経済状況による一時的なものであり、ストレージの効率化やミッションクリティカル化に伴うストレージサービスへの需要拡大は景気とともに回復するだろう」と分析している。ITベンダーにとっては、ストレージ事業が業績伸長の決め手になる可能性を秘めているというわけだ。ハード販売が厳しいといわれているなか、ストレージをベースとして、いかに製品・サービスを提供できるかがポイントになる。
《NIerの状況》
クラウドの“黒子”を演じる ストレージ仮想化のノウハウ生かす
NIer(ネットワークインテグレータ)は、PaaSやSaaSなどクラウドサービスを提供する事業者に対してストレージを提供するケースが多い。ストレージ仮想化の技術力を生かし、クラウドサービス事業者のイネーブラー(黒子)としてのポジションを獲得することが狙いだ。
日商エレクトロニクスでは、NASをはじめとしてFC-SANやIP-SANなど接続方式や企業規模に応じて製品のポジショニングを決めており、「さまざまなニーズに対応している」(エンタープライズ事業本部マーケティング統括部プロダクトマーケティンググループの青木俊氏)という。ストレージ製品としてネットアップと3PAR、HPなどを販売。通信事業者や金融機関、一般オフィスなど、さまざまなユーザー企業を獲得している。「ハイエンド向けにネットアップや3PAR、用途に応じた提案にネットアップやHP、価格重視のユーザー企業にHPなどに分類している」と、青木氏は話す。

ネットマークスの黒田卓爾・シニアエキスパート(左)と大槻晃助・統括部長
ネットマークスでは、すべてのストレージメーカーを扱っていることを武器に、「知恵を絞りながら提案している」(市場開拓統括部ICTサービス基盤営業部の黒田卓爾・シニアエキスパート)という。最近はバックアップのニーズが高まっていることから、EMCの「データドメイン」や「Avamar(アバマー)」の提供に力を入れている。「バックアップのシステム構築の経験は豊富にある」(黒田シニアエキスパート)とする同社は、ストレージ技術に関するノウハウを多くもっていることから、事業拡大を図るために需要を掘り起こして最適なストレージ構築を提案。黒田シニアエキスパートは、「本腰を入れて案件を獲得する」としている。また、一方で「クラウドサービス事業者の“黒子”として新しいストレージソリューションを提供することを将来構想として描いている」(大槻晃助・市場開発統括部部長)と今後の展開を語る。
クラウドサービス事業者への提供に関しては、日商エレでも「クラウドストレージ製品の取り扱いを検討しており、海外で最適な製品を見つけた。年内には国内で販売する」(青木氏)ことを計画している。NIerは、ネットワークインフラ構築に長けていることから、さまざまな接続方式を提供する術をもっている。だからこそ、サービス事業者のイネーブラーとして地位を確立することが可能なのだ。
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