富士通やNECなど大手ITメーカーが傘下の系列SIerの再編を急いでいる。クラウド普及に伴う「売り方」の変革、未開拓の中堅・中小企業(SMB)へのアプローチ見直し、海外展開の三つの課題を解決し、次世代の成長を確かにする「戦略改革」といえる。オフコン→オープン化→クラウド化と辿ってきたIT変遷のなかで、改革を進める各社。だが、直系・系列販社を含めたSIerの思惑が錯綜する状況で、再編に向けた難しい舵取りを強いられている。
再編テーマはクラウド、SMB、海外
カニバリ現象の解消、現在進行形
系列販社の反発も見え隠れ ここ1~2年で、富士通、NEC、日立製作所が、相次いで中堅市場攻略部隊を再編したことは記憶に新しい。日本IBM系では、付加価値ディストリビュータ(VAD)と呼ぶ系列販社が体制を見直した。富士通と日立に関しては、中堅SI(システム構築)業界での実績を誇ってきた株式上場のSIerを完全子会社化し、本体機能に引き入れた。日本IBMのVAD改革を含めれば、ハードウェアとソフトウェアなどの「商流」を、子会社化したSIer経由に一本化することで、仕入・卸で得る収益をも一本化しようという戦略にもみえる。
本体の事業部と一体になって改革を断行する直系SIerや、この改革により影響を被る「旧オフコンディーラー」である系列SIerの思惑が交錯し、なかなか計画通りに再編が進まない。
もともと大手ITメーカーの直系SIerは、独自の製品やITサービスを展開し、時にはグループ内の直系・系列SIerと競合しながら、案件を獲得してきた。ところが、リーマン・ショックによる景気後退のあおりで、国内企業のIT投資自体が大きく減少した。 ただでさえ少ないパイを“仲間同士”で案件を争う「カニバリ状況」が繰り返されれば、グループ全体の収益にも影響が及ぶ。このことを警戒し、各大手ITメーカーは、大幅な改革・再編を断行したのだ。
もう一つ大きな潮流として「クラウドコンピューティング」がある。大手ITメーカー各社は、急ピッチでクラウド基盤を整え、「プライベートクラウド」というITサービスで中堅・大企業のシステムをオフコン時代のように“丸抱え”する体制を整えた。しかし、SMBに向けては、依然攻めあぐねているのが実際のところだ。この「ブルーオーシャン」と呼ばれるSMB市場には、従来のように“兵糧・物量”を投入するのではなく、直系・系列SIerの英知を結集し、手数を少なく頭を使った攻略方法に転じているようだ。
これら、国内IT業界を取り巻く変化を受け、メーカー各社とも、取り組み方法は異なるものの、同じような方向へと向かい始めている。
富士通
FJBへのSMB集約、まだ途上
富士通は、中堅・中小企業(SMB)向けビジネスを強化するため、あるグループ会社1社を中心に事業拡大する方針を示し、新組織体制の構築に乗り出した。その1社とは富士通ビジネスシステム(FJB)である。
2009年5月、富士通はFJBを完全子会社化。富士通グループ内のSMBビジネスを担当する部門・人員、系列パートナーへのモノの商流もFJBに集約させ「SMBに特化したSIer」として、FJBを生まれ変わらせる計画だった。新体制でのスタート時期は子会社化から5か月後の10月1日。しかし、その計画はもろくも崩れることになる。
この計画で具体的に示した計画はこうだった。中堅企業向けの(1)営業(2)商品企画(3)パートナーとの連携・協業機能をFJBに一本化。営業は東名阪地区から順次FJBへの一本化を進め、商品企画では中堅企業向けERP(統合基幹業務システム)「GLOVIA smart」をFJBに移管するという内容だ。
一方、パートナーとの連携・協業では、パートナーが従来富士通と連携していた体制を変更。FJBがパートナーの窓口となる体制に見直した。しかし、FJBで当時会長兼社長を務めていた鈴木國明・会長は、09年12月に本紙編集部がインタビューした時点で、新体制への移行に問題があることを口にしていた。
ここでネックになっていたのが、パートナーとの連携だ。鈴木会長はこう語っている。
「営業と商品企画の移管は、スムーズに話が進んでいる。現時点でも移管しようと思えば、難なくできる。問題はパートナーとの協業体制だ。地域やパートナーが手がけているビジネスによって協業体制はさまざまで、個別に協業のあり方を検討する必要がある。パートナーごとに話し合うことが求められているため、時間がかかっている」。
そんな混沌とした状況のなかで、2010年3月には、発表した計画を改めて推進することを発表。FJBは社名変更を行って新会社、新体制としてスタートすることを明確にした。今年4月にFJBは、富士通本体の執行役員専務でグループ全体の中堅ビジネス改革を推進してきた古川章氏を新社長に迎え入れた。具体的な計画の遂行時期は今年10月1日。果たして、今回はどうなるか。分かっているのは、再び遂行時期を延ばすようなことがなく、パートナーとの新たな有効的な連携体制を示すことができなければ、富士通のSMBビジネスは、以前の結束を誇った体制が崩壊しかねないということだ。
NEC
ネクサに中堅集約、SMB手薄の心配も
NECは、富士通と同じく09年10月1日から中堅・中小企業(SMB)市場開拓に向けて新たな組織体制を動かしている。NECだけでなく、SMB向けビジネスに関連するグループ企業を巻き込んだ大きな組織改革だった。その中心にいるのは、グループのSMB開拓を一手に任されることになったNECネクサソリューションズだ。
NECネクサは今回の組織改革で、主要商圏内のSMB市場をNECから任されている。東京・名古屋・大阪(東名阪)に位置する年商500億円以下で中堅企業にメインターゲットを絞ったわけだ。NECほかグループ企業からSMB向け製品・サービスに強い人員・技術・営業担当者問わずに集めて、その一方で大企業などSMB以外のビジネスを手がけるスタッフは、NECなどに出向・転籍させている。東名阪以外の拠点に在籍していたスタッフも他のグループ会社に移し、北海道や東北、岡山、中国、四国、熊本の拠点は閉鎖した。
同社では、ターゲットとなる東名阪の中堅企業・団体は2万2000社・団体と試算。このうち、すでに基幹システム分野で、すでに同社顧客になっているのは600社ある。NECネクサの森川年一社長は、「4~5年後の長期目標として基幹システムで1200社、売上高目標は4~5年後に2000億円に到達させる」と、中期で2倍となる拡大方針を示す。売上高も同様に昨年度(2010年3月期)比で2倍に引き上げる算段だ。
新組織が動き始めて約10か月が経過した。今年5月に森川社長は組織改革の成果について、「シンプルな組織体制に変更したことで、ビジネスが展開しやすくなった。従業員の意識も変わりつつある」と、手応えを感じていると胸を張ってみせた。具体的な数値に関しては明言を避けたものの、東名阪を中心としたビジネス戦略は好転しているとの現状報告があった。
ただ、NECグループ全体をみると、新たな問題が浮上しているように映る。東名阪“以外”のビジネスだ。NECネクサは、4月1日付で「中堅事業戦略室」という新部門を設立した。この部門は、NECグループ全体のSMB事業拡大計画を考案する。社長直属の部門で、室長には森川社長が就任している。森川社長はNECの執行役員2人に参加を要請し、メンバーに加えている。
昨夏の発表後、「NECは、東名阪以外のSMBに対するアプローチが手薄になるのではないか」という話題が持ち上がった。東名阪以外のSMBは、基本的にNECが抱える各地域の支社・支店、あるいはパートナー販社を活用して市場開拓することになっている。この方針について、あるNEC子会社の幹部は、「NEC本体が地方の小さな企業向けビジネスを本気で手がけるわけがない」と漏らしていた。
ターゲット市場を絞ったことで、NECネクサのビジネスは好転しているようにみえる。だが、今回の組織体制がNECグループとして有効的に機能としていないという問題も顕在化させたともいえる。
しかし、NECグループ内の本社組織内や直系・系列販社で案件がバッテイングする「カニバリ現象」が起きていたことは事実。ハードウェアとソフトウェア部隊が縦割りで柔軟に組織が動かなかったことを考えれば、一歩前進したと考えるほうが妥当かもしれない。
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