日本の労働人口は確実に減っていくので、それを補う何かが必要とされている。その解決策の切り札になりそうなものが、人の代わりに働くロボットだ。日本政府もロボットに可能性を感じて、成長戦略のなかに盛り込んだ。IT業界とは無縁のように思えるロボットだが、そうではない。ITシステムとの融合ソリューションを提案できる“ロボットインテグレータ”が求められる時代が来る。(取材・文/木村剛士)
新たな産業革命を起こすロボット ものづくりニッポンに必要不可欠
20万円で買えるロボットが登場
ソフトバンクの孫正義氏が2014年に仕かけた最も大きな事業戦略は、ロボットビジネスへの参入だろう。6月、ソフトバンクは記者発表会を開き、世界初という感情認識パーソナルロボット「Pepper」を、2015年2月に発売すると発表した。驚くのは19万8000円という破格の低価格(税別)だ。ロボットは、民生(家庭での利用)分野では用途も必要性もまだおぼろげでしかない。購入者は少数だろう。ただ、遠い未来のメカだと思っていたロボットが、20万円ほどで手に入ることに衝撃を覚えた。ソフトバンクに追随する民生用ロボットメーカーは、これを機にきっと出てきて、価格と技術の両面で切磋琢磨する。ロボットは想像よりも早い時期に身近な存在になると、この発表で感じた。そして、知名度を高めたロボットが、産業用(ビジネス用途)ロボットマーケットを刺激するとも思った。その観点でみれば、孫氏の新たなチャレンジは重要な意味をもつ。

ソフトバンクが発表したロボット「Pepper」。「人によりそい、その人を笑顔にしてくれる」という労働人口の減少を補う切り札
Pepperのような民生分野は話題性は抜群だが、ビジネスの観点でみればマーケットとして成立するのはまだ先の話。市場規模が大きく、ロボット産業をけん引するのは、今と変わらず産業分野だろう。
製造業の工場、運輸業の物流倉庫、農業・林業・水産業での生産・収穫現場……。これまで人がこなしていた作業の代行者として、または、人間では困難な作業の担い手として、ロボットが活躍する場面は増える。
それは、コストの削減や効率化のためだけではない。今後は、もっと大きな課題を解決するためにロボットが注目される。大きな理由は、労働人口の減少だ。
日本の労働人口は確実に減る。内閣府の「平成26年版高齢社会白書」によると、15~64歳の生産年齢人口は、2015年は7681万8000人で、2020年には341万人減って7340万8000人になると予測している。もっと先を見通せば、2030年には6772万9000人になる見通し(図1参照)。マンパワーの減少を何かで補わなければならないのは自明の理で、ロボットはその切り札になる。政府もそう考えて、ロボット産業の振興に力を入れようとしている。
安倍首相も期待する産業
今年6月24日、安倍政権は「日本再興戦略」の改訂版を発表した。そのなかで、新たにロボット産業の育成を盛り込んだ。理解しにくい「お役所言葉」が羅列されていることが多い政府資料だが、このロボット産業育成に関連する記述は比較的理解しやすい文章で、このように述べられている。
「イノベーションの象徴とも言える技術は、ロボット技術である。近年の飛躍的な技術進歩とITとの融合化の進展で、工場の製造ラインに限らず、医療、介護、農業、交通など生活に密着した現場でも、ロボットが人の働きをサポートしたり、単純作業や過酷労働からの解放に役立つまでになっている。ロボットは、もはや先端的な機械ではなく我々の身近で活用される存在であり、近い将来、私たちの生活や産業を革命的に変える可能性を秘めている」(「『日本再興戦略』改訂 2014 ─未来への挑戦─」の一部を抜粋)。
安倍晋三首相は「ロボットで新たな産業革命を起こす」とし、2020年の東京五輪開催時に「ロボット五輪の同時開催を目指す」とまで言っている。首相のこの発言で政府が動き出し、9月11日、有識者を募って第1回の「ロボット革命実現会議」を開催。「ロボット革命の実現に向けた取り組みの現状と課題」をテーマに意見が交わされた。また、経済産業省の製造産業局産業機械課は、10月8日にロボット活用のニーズや規制改革に関する意見の公募を開始(締め切りは11月13日)。産業育成に必要な民間の声を集め始めた。目標は、年内に2015年からの5か年のアクションプランを作成して来年から実行に移し、2020年にロボット五輪を日本で開催し、世界にその技術力を見せつけることだ。
20年先まで成長が見込める
ロボット産業規模の現在と未来はどうか。経済産業省が調べた「ロボット産業の市場動向」の最新版(2013年7月発表)によると、2012年の国内市場規模は約8600億円。IT産業の規模は約17兆円であることを考えれば、相当小さい。しかし、成長率予測は驚異の伸びだ。2015年には1兆5990億円、2020年には2兆8533億円、2025年に5兆2580億円、2035年に9兆7080億円になると読む。この先20年間、猛スピードで拡大するとみられているわけだ(図2参照)。
現時点での内訳をみると、自動車や電気機械、食品などをつくる製造業向けが圧倒的に多い。2012年の時点で、製造業が全体の約75%を占めている。2020年では62%ほど。2025年以降は、サービス業(医療や介護・福祉、警備、物流など)や農林水産業分野も増えていく。マーケットサイズの拡大とともに、利用する業種が広がる。
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