爆発的な普及に不可欠なインテグレータの存在

ミツイワの羅本礼二専務取締役。
新規ビジネス担当で、あらゆる可能性を探っている ロボットの普及でカギを握るのは、一部の大手企業や先進ユーザーだけでなく、ロボットに詳しくない中堅・中小企業(SMB)でも購入・利用できる環境をつくること。そのために欠かせないのはインテグレータだ。オフコン(オフィス・コンピュータ)が登場したとき、それを担いで全国のSMBに普及させたシステムインテグレータのような存在がロボット産業にも必要となる。
「オフコン普及前夜」と同じ!?
年商約440億円(2014年3月期)で今年創業50周年を迎えた中堅SIerのミツイワは、今年度からロボット事業を本格的に開始した。ミツイワのビジネスは、受託型のソフト開発やシステムインテグレーション、パッケージソフトやハードの販売といった典型的なシステムインテグレータのモデル。しかし、それだけでは成長を持続することはできないとみて、「既存事業にとらわれない新領域にチャレンジする」(羅本礼二・専務取締役新規プロジェクト本部本部長)としている。魚介類をネットで流通させる仕組みを構築したり、蓄電池や非常用飲料水装置といった非IT機器を販売したり……。そのなかで、新たに着眼したのがロボットだ。
「今のロボット業界は、およそ30年前のコンピュータ業界にそっくり。オフコンが爆発的に普及する直前のような雰囲気だ。ビッグビジネスの可能性を感じる」と羅本専務取締役は期待を寄せる。
「オフコンが普及した背景には、メインフレームよりもはるかに安価なコンピュータをつくったメーカーの努力がある。だが、それと同じくらいに大きかったのは、ユーザー企業の要望に合わせてソフトをつくり、オフコンに搭載して利用できる環境を用意した『システムインテグレータ』の存在だ。メーカーも製品を開発・販売するだけでなく、多くのシステムインテグレータを育て、ともに儲かる仕組みを築いた。今のロボット業界にはコンピュータ業界でいうシステムインテグレータがいない」と続けた。これが、ミツイワがロボット事業に参入した理由である。
目標はフルオートメーション
ミツイワは、製造業にターゲットを絞った。コンセプトは、「ITとロボットの融合」。販売・生産・在庫管理や会計といった基幹システムと、CAD/CAM、シミュレーションソフトといったものづくりの現場で利用するソフトやソリューション、そしてロボットを組み合わせて提供するというもの(図3参照)。
「システムインテグレータがオフコンとソフトを組み合わせたように、ロボット業界ではITとロボットを組み合わせる存在が必要。これまではそれぞれが個別に製造業向けに提供していた。私たちが理想としているのは、製造現場を可能な限り自動化するためのトータルでフルなオートメーションソリューションだ。融合することに価値がある」(羅本専務取締役)。
ミツイワの理想はこうだ。生産ラインにいるのはすべてロボットで、ロボットの動作をITが制御して自動生産。その工程を、ICタグとネットワークカメラ、センサを用いて把握してログを収集。使用した部品情報や完成品情報、使用した電力情報などを基幹系システムに送信し、万一トラブルが起きた場合には管理者に知らせる。こうした一連のプロセスをすべて自動化する──。モノとモノが人を介さずに通信し合うM2M(Machine to Machine)を実現し、価値を生み出す姿を描いている。IoT(Internet of Things)の概念を現実にしようとしているのだ。
もっと野心的なのが、このモノとモノが通信し合う際の標準ソフトの開発や、メーカーによって異なるロボットに搭載するOSの標準化を提案し、その開発を主導しようとしていること。「まだまだ道半ばだし、すべて自前でやろうとは思っていない。必要に応じて、ロボット、ITそれぞれの業界のプレーヤーと手を組むつもりで、その体制の一部は築いている。また、官公庁の手を借りることも重要で、経済産業省の関係部門と定期的に打ち合わせをしている」という。
ドイツが主導する「Industry 4.0」
ミツイワが描いているようなフルオートメーション工場の実現に向けて、実は海外先進国ではすでに動きがみられる。最も先進的なのが、シーメンスやボッシュ、SAPなどを擁するドイツだ。自動化の仕組みをフルに取り込んだ次世代の工場のあり方を「Industry 4.0(第4次産業革命)」としてさまざまな取り組みを推進。複数の製造業者やITベンダーが集結して議論している。「ドイツの取り組みは、日本よりも相当先を行っている。私たちだけでは、追いつくのは無理だ。他社や官公庁との協力体制を敷いて、日本としてどうしていくかが求められている」と、羅本専務取締役はアライアンスの重要性に言及している。
富士通、虎視眈々 自社のロボット活用ノウハウをビジネスに
ITベンダーであり、製造業者でもある富士通。ロボットそのものこそ自社開発してはいないが、コンピュータや携帯電話を生産する工場でロボットを活用している。富士通もITとロボットの融合にビジネスチャンスを見出そうとしていて、自社のロボット活用ノウハウと自前のITソリューションを組み合わせてビジネスにしようと目論んでいる。
●携帯電話工場の約半分は自動化 
富士通の熊谷博之
プリンシパルコンサルタント 富士通は、大手ITベンダーで、精密機器のメーカーでもある。パソコンや携帯電話などの生産でロボットとITシステムを組み合わせている。携帯電話の工場では「ロボットを活用したこともあって、生産工程の約半分が自動化できている」と、次世代のものづくり手法を研究している熊谷博之・産業・流通営業グループプリンシパル・コンサルタントは、自信を示す。
富士通はおよそ2年前から「ものづくり革新隊」という専門チームを組織し、ロボットを活用する新たなものづくりを調査・研究している。そして、そのなかで効果が得られると確信した技術や仕組みを、各工場で取り入れている。「海外の先進国で言っている『Industry 4.0』を、富士通はだいぶ前から注視している。私たちは彼らが目指す姿に近づいている。『Industry 3.6』くらいまでには到達しているのではないか」と熊谷プリンシパル・コンサルタントは手応えを感じている。
富士通が先進的なのは、工場でロボットを導入する前の徹底的なシミュレーションだ。生産ラインのなかでどのようにロボットを配置するのが最も効果が出るのか、ロボットと人がどのように役割分担すればいいかをシミュレーション。ミリ単位のロボットの動作確認をすべてコンピュータで検証する。そのうえで工場に落とし込む。これらで経験したシミュレーションと実際の工場の稼働情報を巨大なデータベースに格納している。こうすることで、過去のノウハウを生かしながら、ムダのない工場を建設して稼働させることができるという。
●大半のロボットは「半完成品」 富士通は今、こうしたノウハウを本格的に販売しようと社内関係部門との連携、社内上層部との交渉を急いでいる。これまでも大手の一部顧客に対して、富士通の自社ITソリューションとロボットを活用した工場づくりのノウハウをセットにして個別対応してきたことがあったというが、今後は体系立てたメニューをつくって、広く拡販しようとしているのだ。
熊谷プリンシパル・コンサルタントは、「ロボットこそもっていないが、ロボットを活用する技術とITソリューションの両方をもっていることは富士通の強み。今後、労働人口の減少で、ロボットが求められる機会が相当増える。一部の個別対応ではなく、広く販売する時期にきている」と説明する。
また、ロボットを導入する際の課題について「今のロボットの大半は、端的にいえば『半完成品』。どの業種にも共通するコアな部分のみを提供し、実際に組み立て作業をする『ハンド』の設計やシミュレーションに必要なソフトは、別に開発しなければならない。私たちは自社にそのリソースとノウハウをもっているからこそロボットを比較的容易に導入して、ITシステムと連携させることができるが、SMBのユーザーに果たしてそれができるかといわれれば、疑問だ。この課題解決にもビジネスチャンスがある」。
富士通が全国のSMBに対して直接、ロボットの導入ビジネスを展開することはないだろう。だとすれば、必要不可欠になるのがパートナーだ。富士通のスキルとノウハウをパートナーに移植してロボットとITを組み合わせてSMBに提供するロボットインテグレータを育成する可能性は十分にある。かつてオフコンが一気に普及した、あの頃のような状況が起こるのかもしれない。
記者の眼
日本政府がロボット産業の育成に力を入れているのは、労働人口の減少を食い止めるだけではない。世界に売れるイノベーションになる可能性があることも理由だ。2011年のデータになるが、産業用ロボットの市場規模が最も大きいのは日本で、先進的な取り組みをするドイツよりも30%以上大きい。国内の利用だけでなく輸出も盛んで、5年間で80%以上の率で伸びた。今後、多くの企業がロボットをつくり、売り、使うようになれば諸外国の追随を許さず、日本はロボット先進国の地位を確立して、イニシアティブを握れると考えているのだ。新たなイノベーションを起こすためには、ロボット業界のプレーヤーだけでは足りない。ロボットとITを組み合わせて新たな価値をもたらすITベンダーの力が必要なはず。「ロボット+IT」を提案できるロボットインテグレータの出番である。