五輪大会が開催される2020年の東京はどんな街なのか──。人々がスマートフォンを片手に、買い物、観光、スポーツ観戦を楽しむ。後方でシステムが稼働して、都市生活の「安全」や「便利」を支える。そんな未来都市にあって、ITビジネスにはどんな可能性が生まれてくるのか。将来構想をもとにレポートする。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
2015
2月19日、都内のホテル会場。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が、NECを「Tokyo 2020」のゴールドパートナーとして発表した。NECは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会とスポンサーシップ契約を締結し、東京五輪の開催を「セーフティ」と「ネットワーク」の面で支援する。生体認証やSDN(ソフトウェアで制御するネットワーク)など、NECが研究開発に力を入れている技術を活用し、「大会の安全面をサポートいただきたい」。発表会で、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長は、NECへの期待感を表した。
同日、富士通も東京五輪のゴールドパートナーとして発表された。富士通は、ハードウェアメーカーとしての強みを生かして、データセンター(DC)でサーバーやストレージを用意し、競技運営に必要なアプリケーションやデータを扱うためのインフラを提供する。東京五輪のゴールドパートナーは、ほかにキヤノン(スチールカメラなど)やアサヒビール(ビール&ワイン)といった有力企業が務めるが、IT大手のNECと富士通も仲間入りしたことによって、東京五輪の開催をきっかけに、情報技術で都市生活の基盤を築く「シティIT」が普及する気運が高まっている。
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The Games of the XXXII Olympiad(第32回オリンピック競技大会)。開催されるのは、2020年7月24日~8月9日で、東京各地で会場建設などの準備が始まっている。みずほ総合研究所は、スポーツ施設や都市インフラの整備をエンジンとして、東京五輪の経済効果を30兆円規模と見込んでおり、「実質GDP(国内総生産)は年平均+0.3ポイント押し上げられる」(チーフエコノミストの高田創・常務執行役員)ことになるという。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が打ち出している計画では、新宿区で新設するメイン会場に加え、江東区の豊洲や夢の島を中心とする「東京ベイゾーン」に競技場が集中する。NTTデータやSCSK、日本ユニシスなど、構築系の大手ITベンダーが本社を構える場所の“玄関”だ。各社は水面下でプロジェクトを走らせ、商材を揃えることで、東京五輪による商機をつかもうとしている。

NECの遠藤信博社長(左)と東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長。2月19日、「Tokyo 2020」のスポンサーシップ契約を締結した 「シティIT」を普及させるためには、東京五輪はあくまで「引き金」。開催を機に、日本を訪れる外国人観光客を増やしたり、便利で震災に強い街をつくったりする動きが本格化して、そのプラットフォームとして、ITに注目が集まる。キーワードは、「IoT」、すなわち「モノのインターネット」だ。スマートフォンや自動販売機、冷蔵庫など、人々の生活環境にあるあらゆる機械が「端末」になってインターネットにつながり、ビッグデータの世界を形成する。これらの情報を「保存」「処理」「分析」「活用」することによって、ITベンダーにとって商機が生じるなか、ハードやソフト、解析サービスなどをいかに組み合わせてソリューション化するかの力が問われる。
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