主要業務ソフトベンダーはマイナンバー商戦をどう捉えるか
この項からは、主要ベンダー各社のマイナンバー需要開拓の戦略をみていく。
応研
ユーザーの意識の薄さに危機感
4月以降は実務に即したセミナーを

上野眞宏
取締役開発部長 応研がマイナンバー対応を予定しているのは、給与計算ソフトの「給与大臣NX」、人事管理ソフトの「人事大臣NX」の2製品だ。マイナンバーの通知が始まる今年10月に先駆けて、9月にマイナンバー対応版を先行リリースする予定。保守サービスであるDMSS会員ユーザーには無償提供する。上野眞宏・取締役開発部長は、「法律で決められていることが多いので、まずはシステムに求められる基本的な機能はしっかりカバーする」と話す。
商機としては、昨年の消費税特需のような大きな需要の盛り上がりにつながる実感はないという。「とくに給与計算は、当社の顧客となる規模の企業では何かしらのパッケージやシステムを入れているケースがほとんど。人事労務関連のシステムも含めたクロスセルの案件は出てきているし、他社パッケージからの乗り換えも狙うが、それほど大きな動きにはならないとみている」(上野取締役)。
それでも、ユーザーにマイナンバー対応への意識が浸透していない状況に危機感を抱いている。1月から3月にかけて、全国で11回のマイナンバー関連セミナーを開いていて、各会とも盛況だが、ユーザーのマイナンバー対応は未着手なのが実状だという。上野取締役は、「情報収集も、制度の概要までにとどまっているユーザーが多く、具体的な業務のイメージがあるユーザーはほとんどいない。業務ソフトのパッケージベンダーとしては、そうした部分をサポートする取り組みをしていく責任がある」と、力を込める。まずは、「4月以降のセミナーで、民間企業におけるマイナンバーの利用に関する実務にフォーカスする。特定個人情報の取り扱い規定をどう定め、安全管理措置をどう講じるか、そして大臣シリーズがどの範囲をカバーするのかを啓発していく」(上野取締役)という。
OSK
消費税特需を超えるインパクト
大塚商会など大手販社との連携がキー

石井ふみ子
営業本部本部長代理 OSKの石井ふみ子・営業本部本部長代理も、ユーザーへの注意喚起が業務ソフトベンダーが果たすべき大きな役割だと指摘する。「消費税対応はシステムを入れ替えれば済んだが、マイナンバーはシステムだけの問題ではない。実際に関連業務を担当するのは人事・総務の人たちになるわけだが、住基ネットと同じようなものだと考えていて、それほど準備が大変だと思っていない節がある」。
一方で、石井本部長代理は、応研の上野取締役とは対照的に、「既存ユーザーへは保守の範囲内で対応するのでリプレース需要はないが、それでもマイナンバー対応のIT需要は、消費税特需よりもむしろインパクトがあるかもしれない」との見解を示す。OSKが特徴的なのは、大塚商会やリコージャパンといった大規模な販社が、率先してセミナーなどの啓発活動をリードしていることで、「大手の販社は幅広いサービスを商材としてラインアップしているので、ネットワーク系のセキュリティ製品など親和性の高い製品と組み合わせたアップセルも十分に可能。マイナンバー対応はユーザー側の負担が非常に大きく、最終的に大混乱に陥る可能性もある。大手販社が早めにユーザーとコミュニケーションを取って、OSKがソフトベンダーとしてそれをサポートし、補完的な役割を果たしているという現在の状況は、大きなアドバンテージになる」(石井本部長代理)とみている。
「SMILE」シリーズの人事給与が当面のマイナンバー対応製品となるが、石井本部長代理は、製品力にも自信をみせる。「他社の給与計算システムのなかには、セキュリティやログ管理の機能がないものもあって、そうした製品はマイナンバー対応でのバージョンアップを試みたとしても、相当難しいはず。しかし、SMILEは両方すでに備えており、十分に機能要件を満たしている」と話す。社内のコンサルティンググループと販社の連携などで、新規顧客獲得のための提案活動も強化していく。
オービックビジネスコンサルタント
マイナンバー対応製品を提供
事業範囲拡大のきっかけに

大原泉
取締役 「人事給与系のシステムのマイナンバー対応は、軽微な改修では済まない。帳票だけでも、80から90くらいの改修が必要」と、オービックビジネスコンサルタント(OBC)の大原泉取締役は指摘する。今年1月から3月にかけて、マイナンバー対応をメインテーマに据えた総務・人事業務特化のセミナー「奉行 HR Conference」を全国で30回以上開催しているが、「参加者は、奉行シリーズの採用前提というよりも、各社の情報と比較するなど、情報収集の場として活用している段階。ただ、既存システムをスクラッチでつくり込んでいるユーザーなどは、動きが速い印象だ」(大原取締役)という。
OBCも、既存ユーザーに対しては、保守サービスの「OBCメンテナンスサポートサービス(OMSS)」の一環としてマイナンバー対応製品を提供する。ただし、OBCのマイナンバー戦略で他の業務ソフトベンダーと明確に異なるのが、マイナンバーの取得を中心とした新たなBPOサービスのリリースを示唆している点だ。大原取締役は、「マイナンバーの取得から廃棄までのプロセスで、どこまでをシステムでカバーできるのかを考えると、取得の部分はどうしても人的対応が必要な業務として残ってしまう。しかし、複数の事務所をもつ企業などは、この部分の事務が非常に煩雑になってしまうので、これをカバーする手立てを考える必要がある。マイナンバーの保管、運用も含めて、BPOサービスを提供すると表明するSIerなどが出てきているが、一部競合するようなサービスを考えている。ただ、OBCのユーザーは非常に幅広いので、彼らと協業するケースもあるだろう」と説明する。
同社は、この新サービスを新規顧客の開拓にもつなげていく意向で、マイナンバーの活用範囲が広がった場合、さらなる関連新製品、新サービスも検討していく。マイナンバー需要を、事業範囲拡大のきっかけとして活用する方針だ。
ピー・シー・エー
セキュリティを最重要視
クラウドを武器に新規顧客開拓
ピー・シー・エー(PCA)も、他の業務ソフトベンダー同様、マイナンバーに関するセミナーを全国各地で展開している。折登泰樹専務取締役は、「ある会場では、地方自治体の総務部門の担当者が聴講に来ていた。自治体ですら確定した情報が降りてきていないということだ。マイナンバー対応は、システム対応だけではカバーできないことが多く、とくに中小企業には負荷が大きい。当社のユーザーに目を向けても、20万社のうち80%が50人以下の企業であり、啓発のニーズは高まっている」と、危機感をあらわにする。4月以降のセミナーでは、特定個人情報の取扱規定のひな形なども提供する。また、民間企業が給与計算などを社労士や税理士などに委託している場合も、自社で業務を行う場合と同等の安全管理措置を講じる必要があるため、委託に関する契約書や委託先の選定基準についても参考になる情報を提供し、ユーザーがマイナンバー対応の準備に取りかかることができるような支援策を打ち出す方針だ。
既存ユーザーに保守契約の範囲内で対応製品を提供するのは他社と同様だが、PCAが対応製品の開発にあたって最も重視しているのは、セキュリティだ。田邨公伸・営業本部戦略企画部プロダクトマーケティングセンター係長は、「マイナンバーのセキュアな運用は、システム内でデータをどう保持するかがポイントになる。詳細は言えないが、万が一漏えいしたとしても、個人情報の特定にはつながらない仕組みをつくっている。また、パートナーがもっているセキュリティアプライアンス製品や資産管理ソフトなどと組み合わせて提案してもらうことも重要」と話す。
また、折登専務取締役は、「社内にデータを置かなくてもいいということを考えれば、『PCAクラウド』のメリットはユーザーにとっては大きい。PCAクラウドは、セキュリティや可用性、機密保持について、グローバルで高水準なセキュリティへの対応が保証されている」としており、マイナンバー需要についても、クラウドを武器に新規顧客開拓に動く意向を示している。

(左から)折登泰樹 専務取締役、田邨公伸 営業本部戦略企画部 プロダクトマーケティングセンター 係長弥生
税理士・社労士との連携を重視
既存ユーザーへの情報発信を手厚く
ここまで登場した四つの業務ソフトベンダーに比べて、小規模なユーザーを多く抱える弥生も、保守契約の「あんしんサポート」で既存ユーザーにマイナンバー対応製品を提供する方針は同じだ。一方で、菊池龍信・マーケティング本部マーケティング部ビジネス戦略チーム担当マネジャーは、「当社のユーザーの中心層である中小零細企業では、給与計算を税理士や社労士にまるまる委託しているケースがかなり多い。だから、事業会社だけではマイナンバー対応を完結できない状況にある。会計事務所のパートナーであるPAP会員への啓発活動も積極的にやっていかなければならない」と、独自の課題があることも強調する。現時点では、会計事務所や税理士事務所でも、マイナンバーへの対応にどれだけの労力を要するかという点については意識の差は大きいという。
具体的な今後の展開として、吉岡伸晃・マーケティング本部マーケティング部副部長兼ビジネス戦略チームシニアマネジャーは、「例えばSIerなどが提供するマイナンバー関連のBPOサービスなど、高コストなワンポイントのサービスは大規模なユーザーだからこそ効果があるわけで、当社のユーザー層にはなじまないだろう。ただし、税理士や社会保険労務士が収集も含めて関連業務を代行するケースは考えられるので、ユーザーのニーズをみながら、PAP会員と連携して取り組みを進める」と展望を述べる。
弥生は人事管理ソフトをラインアップしていないので、当面のマイナンバー対応製品は「弥生給与」だけだが、売り上げに対するインパクトは未知数だという。吉岡副部長は、「現状は影響を検証している段階。給与計算ソフトを使っていなかったユーザーをどの程度新規に獲得できるかはわからないが、少なくとも弥生会計のユーザーからは多くの引き合いがある。まずは、そうした既存ユーザーに対する情報発信をしっかりやっていく」と話している。

(左から)吉岡伸晃 マーケティング部 副部長、菊池龍信 ビジネス戦略チーム 担当マネジャー
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