freeeやマネーフォワードなど、クラウドネイティブな新興ベンダーの活躍により、近年、市場の動きが活発化しているようにみえるスモールビジネス向けの業務ソフト市場。最大手の弥生が、今夏にも法人向けクラウド会計ソフトをリリースする方針で、市場に及ぼす影響が注目される。有力ベンダーの動きを追い、市場の“いま”をレポートする。(取材・文/本多和幸)
登録ユーザー数は急伸しているが……
現状は個人事業主向けが中心
●freee30万、マネーフォワード12万 今年4月、クラウド会計ソフトのfreeeは、登録ユーザー数が30万事業所を突破したと発表した。2013年3月のリリースから、わずか2年での実績だ。スモールビジネス向けの業務ソフト最大手である弥生の登録ユーザー数が、2014年6月末現在で約120万件であることを考えれば、驚異的な数字であることがわかる。一方で、freeeと並んでクラウド会計市場をけん引する存在に挙げられることも多いマネーフォワードは、今年1月に同社のクラウド会計ソフト「MFクラウド会計」のユーザーが、12万件を超えたと発表した。正式版のリリースからわずか1年後の実績であることを考えれば、こちらも驚異的な数字で、freeeが13年8月に有料版をリリースしてから1年後の数字とほぼ同水準といえる。
このように、主要ベンダーの登録ユーザー数の推移をみると、急成長しているようにみえるクラウド会計の市場だが、実際はどのようなユーザーがどう利用しているのかが、まだはっきりしないところがある。freeeもマネーフォワードも、個人事業主や中小零細企業をターゲットにしていることは明確にしているものの、ユーザーの詳細な内訳は明らかにしていない。
昨年12月に、調査会社のシードプランニングが運営するデジタル領域専門の市場・サービス評価機関であるデジタルインファクトが、クラウド会計のシェアを発表した。ここではfreeeがシェア1位という結果になったが、回答者の属性の内訳は明らかにしていない。
●クラウド率は10%未満 一方で、「クラウド会計ソフトの市場が成立しつつあるのは個人事業主向けの申告ソフトの領域だけで、法人向けの会計ソフトはその段階に到達していないと考えている」のが、弥生だ。同社の岡本浩一郎社長は、「法人向けの会計ソフトは、会計事務所が顧問先に推奨するというチャネルなしには広がっていかない」と指摘する。freeeもマネーフォワードも、すでに会計事務所のパートナーネットワークを構築し始めているが、「われわれもさまざまな調査や情報収集を行っているが、実際に顧問先にクラウド会計ソフトを積極的に推奨するケースはそれほど多くないとみている」(岡本社長)という。
弥生も、昨年、個人事業主向けの「やよいの白色申告 オンライン」「やよいの青色申告 オンライン」をリリースして、クラウド会計市場に参入した。そして、確定申告時期の前後(1月と3月)に、楽天リサーチに依頼して、個人事業主を対象にした独自の市場調査を行った。確定申告を行った個人事業主1万6074人を対象とした3月の最新の調査では、会計ソフトの利用率は25.7%。そのうちクラウド会計ソフトの利用率は7.7%(1月の調査時点)という結果が出ている。デジタルインファクトの調査でも、クラウド会計の利用率は4.4%という結果で、それほど違わない。また、クラウド会計ソフトのメーカー別シェアは、弥生がトップだった。弥生の独自調査である点は考慮する必要があるだろうが、「デスクトップ版の市場は依然として確固たるものがあって、そこにクラウドの市場が上積みされている」という岡本社長の説明には説得力がある。
●アクティブユーザーはまだまだ少ない さらに岡本社長は、「クラウド会計のアクティブユーザーにも注目する必要がある」と指摘する。今年3月末時点での、弥生のクラウド会計2製品合計の登録ユーザー数は4万5499件で、うち白色申告の有償プラン契約ユーザー数が1万1844件、青色申告の有償プラン契約ユーザー数は1万5800件。さらに、今回の確定申告でこれらのソフトを使ったユーザーは、白色申告が7927件、青色申告が8082件に過ぎなかったという。
岡本社長は、「当社のクラウド会計ソフトは、課金情報を入力するなど登録するまでにそれなりのステップが必要で、登録以降の脱落率は他のベンダーよりも圧倒的に低いはず。会計ソフトの利用率やクラウド会計の利用率がもっともっと上がらないと、実質的なユーザー数が数十万に育つまでにはならない」と話す。これはつまり、freeeやマネーフォワードが発表している登録ユーザー数とアクティブユーザー数にはかなりの乖離がある可能性を指摘していることになる。これに対して、freeeの佐々木大輔代表取締役は、自社のアクティブユーザー数について「登録ユーザー数と同じようなカーブで成長曲線を描いている」と話しているが、実際の数値は公表していない。
いずれにせよ、先行する個人事業主向けの領域ですら、クラウド会計はキャズム(溝)を越えたとは言い難い状況にありそうだ。ただ、ここにきて、弥生を含む主要ベンダーは、法人向け市場での成長に、より注力する姿勢を鮮明にしつつある。例えば、経理専任の人員が存在するような法人であれば、アクティブユーザーの割合も個人事業主とは比較にならない水準になる可能性は高い。クラウド会計ベンダーにとって法人向け市場は、成長のための固い基盤にもなり得る。以下、各社の法人向け市場の戦略をレポートする。
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