SIoTのあるべき姿
IoTは「Internet of Things」の略文字だが、モノがインターネットにつながるだけではおもしろくない。モノが賢くなってこそ意味がある。IoTを「Intelligence of Things」とするケースがあるのはそのためだ。モノにインテリジェンスを与えられるのは、裏側の処理、つまりそこはSIerの出番となる。2社の取り組みから、その可能性を模索する。
ACCESS
BaaSでSIerとともにSIoTを推進
●モノをネットにつながない ネスレ日本のコーヒーメーカー「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」(以下、バリスタ)では、インターネットに直接的にはつながっていない“IoTデバイスモデル”がある。インターネットにつながっていないにもかかわらず、なぜ、IoTデバイスなのか。
バリスタでの仕組みはこうだ。バリスタには、Beacon(ビーコン)デバイスが装着されていて、それとバリスタユーザー向けスマートフォンアプリ「ネスカフェ アプリ」が連携する。インターネットに接続するのはスマートフォンであって、バリスタをネットワークに接続する必要はない(図を参照)。このシステムを構築したのは、組み込み系などで実績があるACCESSだ。
「Beaconで使用しているのは、Bluetoothだ。Bluetoothは、ローエナジーでペアリング(認証)の必要がない。通信の範囲も調整できるので、IoTデバイスとして扱いやすい」と、ACCESSの植松理昌・取締役 執行役員CTOは、IoTにおけるBeaconのメリットを語る。
Beaconはペアリングが不要なことから、ユーザーはバリスタにスマートフォンを近づけるだけで、コーヒーのでき上がりを待っている間、今日の運勢などの情報を入手することができる。ユーザーからみれば、バリスタが情報を発信していると思いがちだが、バリスタはユーザーを認識するだけで、情報はアプリがネットワークの向こうのサーバーから入手している。また、バリスタのBeaconデバイスは、スマートフォンのアプリ経由でサーバーに情報を送ることができる。どのコーヒーが飲まれているかなどの情報も、サーバーに蓄積することが可能だ。
で、何を言いたいのか。
この事例を取り上げたのは、Beaconデバイスとスマートフォンアプリとの連携さえできれば、残りはシステム開発の世界ということを明らかにするためである。Beaconデバイスさえ入手できれば、他の設備を必要とすることなく、IoTのソリューションを導入できてしまう。データの取得さえできれば、後はSIerの得意な領域となる。
「これからのSIerは、サーバーなどのハードウェアメーカーとの関係と同様に、センサメーカーとの連携が求められるようになる。Beaconデバイスなど、新しいハードウェアを勉強したほうがいい」と植松取締役はアドバイスする。
●IoTの適用範囲は広い IoTが注目される理由の一つに、デバイスの低価格化が挙げられる。「以前はセンシング(センサによる観測)が大変だった。現在では、IoTデバイスが普及し、かなり敷居が下がっている」(植松取締役)。例えば衣料品店。加速度センサがついたハンガーを顧客が手にすると、それをトリガーにして店舗スタッフに情報がいくようなシステムが考えられる。店舗スタッフは、適当な間を判断して、接客に向かう。
衣料品店の顧客は、店舗スタッフが常に近くにいると落ち着かないが、商品を手に取ったときはアドバイスを必要とする。その判断にIoTを利用するというわけだ。また、サイネージを利用すれば、店員がいなくても、画面で顧客が手にした商品に関連する情報を提供することができる。
そして、その先に顧客管理システムや売上管理システムなどがつながるのであれば、SIerの得意分野となる。

ACCESS 植松理昌・取締役 執行役員CTO
並んでいるのはBeaconデバイス。一番左が、持ち運び用の最新Beaconデバイス もう一つ、事例を紹介したい。ACCESSでは、東京ドームの座席にBeaconデバイスを設置し、その席に座った観客にサービスを提供するというシステムを構築した。観客は席に座ったまま、スマートフォンのアプリからビールなどを注文することができる。注文には座席情報が含まれるため、迅速に注文の品を運ぶことができる。
ありがちな事例だが、このシステムを構築するにあたっては、IoTならではのニーズがあった。「会員サービスなどのための既存システムを生かして、付加するかたちで新たなサービスを導入してほしい。それも低予算かつ短期間でというものだった」と植松取締役。IoT分野では、このようなニーズが多いという。既存システムのカスタマイズはSIerの得意分野だが、“低予算かつ短期間”のところは、IoT分野に慣れていないSIerにとっては重荷になる。
そこでACCESSは、IoT関連のシステムを構築するためのBaaS(Backend as a Service)である「ACCESS Connect」を提供している。BaaSによって、IoT分野に慣れていないSIerとの協業を模索していく考えだ。
「IoTの開発では、センサの登録や管理、アプリケーションとの紐づけ、セキュリティポリシーなど、毎回違う対応が必要になる。IoTでは、低予算かつ短期間での開発が求められることから、常にゼロからつくるのは現実的ではない」と、植松取締役はみる。ACCESSがBaaSとして、IoTの開発環境を提供しているのはそのためだ。
「IoTはじっくり構築するのではなく、話題性を重視する」(植松取締役)ことから、低予算かつ短期間なのだそうだ。これがSIerにとって未体験の世界であるのなら、これまでのSIモデルを変えるチャンスだともいえそうだ。
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