国内情報サービス市場はおおむね良好な景況感が続いている。しかし、SIerトップに取材してみると「危機感」を抱いている経営者が少なくない。緩やかな拡大基調がピークに達し、景気の後退局面に差しかかったとき、その逆境に耐え、業績をいかに継続的に伸ばせるかが、経営陣の大きな関心事になっている。そのためには、今の段階から“勝ち残る”ための投資先の見極めが経営手腕の見せどころとなる。(取材・文/安藤章司)
独自商材とM&Aの2大投資
主要SIerの投資先をみると、「独自性の強い自社新商材の開発」と「海外M&A(企業の合併と買収)」の大きく二つに分けられる。
前者は、新商材に対応するための組織や人材育成、あるいはデータセンター(DC)を活用したクラウド/SaaS型の商材ならば、そのIT基盤への投資も伴う。後者は、自社の支社・支店的な位置づけの現地法人では、日系ユーザー企業への対応は可能でも、地場の市場に食い込んでいくことが難しいことが明らかになりつつある。そこで、NTTデータや日立システムズ、CAC Holdingsのように地場の有力SIerを自社グループに迎え入れることで、地場市場に根を下ろしたビジネスを指向する傾向が強まっている。
「独自性の強い自社新商材の開発」で、大手SIerが注目するのは、金融とITを融合させた「FinTech(フィンテック)」や、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ分析領域での活用が期待されている「ロボティクス/AI」、組み込みソフト開発に強いSIerならば、自動車の自動運転支援などを見越した「車載向け組み込みソフト」領域が挙げられる。金融系に強いSIerは、決済サービスを大きく変える可能性のあるFinTechは外せないだろうし、IoTやビッグデータに注力するならば、ロボティクス/AIをうまく活用することで、他社との差異化につなげられる可能性が高い。
これらの投資先をみると、従来ありがちだった“業務効率化”に重点を置いたものではなく、顧客の売り上げや利益を伸ばす“ビジネス創出型”であることを、より鮮明に打ち出している点が見逃せない。自社新商材の開発~その1~
【FinTech編】業種の垣根が低くなる

NSSOL
謝敷宗敬
社長 新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)の謝敷宗敬社長は、FinTechの登場によって「金融と流通・サービス、製造といった業種の垣根が低くなっていく」とみている。融資や決済サービスは、これまで金融機関の独擅場のイメージが強かったが、こうした金融機関との境目が一部重複するオーバーラップ現象がより強まるというのだ。
例えば、ネット通販会社は、どの商品が売れ筋なのかリアルタイムで把握し、これからどれほど売れるのかの予測が立てやすい。製造元の事業規模が小さいケースでは、ネット通販会社が売れ行きに応じて必要な資金を提供したり、製造・販売のサプライチェーンとビッグデータ分析を組み合わせることによって導き出した予測をもとに、クラウドファンディング的な融資を行う。FinTechの技術革新によって、B2B(企業間取引)領域においても、新しい金融サービスを生みだす可能性が高まっているとNSSOLではみている。
B2C(一般消費者向け)の領域では、EC(電子商取引)サイトのオンライン決済で消費者保護に対応したサービス「Alipay(アリペイ)」のように、海外で新しい決済サービスが次々と登場している。日本国内では、乗り越えなければならない法的規制があるにせよ、業界の垣根を越えた融資や決済サービスの多様化は加速する。
謝敷社長は、「金融機関の仕事が奪われるのではなく、金融機関自らそうした領域に進出していくことも可能」と指摘するように、融資や決済サービスを強みとするSIerは、FinTechの潮流を上手く活用することで、既存の金融業の顧客に加えて、流通・サービス業や製造業も、自社の金融向けで培ってきたシステム構築(SI)のノウハウを応用できる可能性が高まっている。
●「APIエコノミー」に商機 
NI+C
廣瀬雄二郎
社長 日本IBMビジネスパートナーの日本情報通信(NI+C)は、IBMのミドルウェア・アプリケーション群の「Bluemix(ブルーミックス)」を活用したAPI(アプリケーション・インターフェース)エコノミー・プラットフォームを活用したFinTechビジネスに力を入れている。金融機関の顧客接点は、古くは支社支店の窓口対応、その後、フリーダイヤル(電話)が加わり、インターネットの登場後は“ネット・バンキング”があたりまえになっている。IBMでは、インターネット・ウェブベースのサービスの次に来るのがFinTechをベースとした「APIエコノミー(経済圏)」だと予測。NI+Cは、このAPIエコノミーを支える基盤としてBluemixを活用していく方針を示す。
日本IBMは、銀行やクレジットカード、電子マネーなどの明細データを管理するアプリ開発会社のマネーツリーと協業するとともに、他にも会計・経理クラウドサービスや電子決済サービス、ビットコイン系といったアプリ・サービスを提供するFinTechパートナーを国内で増やしている。NI+CはBluemixビジネスを推進するIBMビジネスパートナーとして、「大きなビジネスチャンス」(NI+Cの廣瀬雄二郎社長)を見出しているのだ。
具体的には、FinTech推進の一環として日本IBMと「地方銀行向けBluemixコンソーシアム」を発足。金融機関とFinTech系のアプリ・サービス会社とのAPIエコノミーの活性化を推進していく。NI+Cは、そのクラウド基盤を担うことで、FinTech絡みのビジネスチャンスをつかんでいく構えだ。
NI+Cといえば、UNIX系の大型サーバーの旧RS/6000シリーズ(現IBM Power Systems)の販売で有名だが、今やそれに加えて、IBMクラウド基盤の「SoftLayer」の国内トップセラーだ。そのSoftLayer上で稼働するBluemix、さらにBluemixと密接な関係のあるFinTechのAPIエコノミーをビジネスの柱に据えようとしているのだ。まさに、ビジネスの大きな変化に直面しているといえる。廣瀬社長は「まだ(従来型ビジネスの延長線上から)方向転換しきれていない」と厳しい自己評価を下すが、着実に新しい方向へ進んでいるのは確かだ。
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