今年3月、全国人民代表大会で2020年までの「第13次5か年計画」が正式に採択された中国。同計画では、クラウド、IoT、ビッグデータなどのICT活用の推進が重大プロジェクトに掲げられており、中国のIT産業は今後も堅調に成長するものとみられる。一方、中国に進出している日系IT企業は、巨大なローカルIT市場にくい込めていないこともあって、中国ビジネスに苦戦気味だ。日系IT企業は、今後5年間でどう変わるのか。対日オフショア開発と中国国内ビジネスの2020年を予測する。(取材・文/真鍋 武(上海支局))
対日オフショア開発は産業 集約が進む
●中国の人月単価が日本超え 2020年、日本向けオフショア開発は産業集約が進む。上昇するコスト構造に耐え切れず、従業員数100人以下の対日オフショア会社は激減。自社でリソースを抱えず、規模の大きい中国資本のオフショア開発会社へ委託する日系IT企業が続出する。
中国における対日オフショア開発の5年後を予測するうえでもっとも重要な要素は、中国国内の人件費の高騰や為替レートの変動に伴うコスト構造がどのように推移するかだ。世界マクロ経済の動向によって変動する為替は5年後の予測が困難だが、人件費は今後も年率10%程度の上昇が確実視されている。中国政府は、20年までに都市・農村住民一人あたりの所得を10年比で2倍にすることを目標に掲げている。今年1月にBCN上海支局が実施したアンケート調査でも、オフショア開発を手がける日系ITベンダーは、72%が15年度に「人月単価が上昇した」と回答している。
オフショア開発に特化したポータルサイトを運営するResorzの調査によると、15年の中国の平均人月単価は30万5700円。これが年平均10%の伸び率で推移すると仮定すると、20年には50万円近い人月単価となる。一般的に、日本の地方都市の人月単価は40~60万円程度といわれており、中国は今後5年でこの水準に達することになる。小規模の開発案件であれば、中国に発注せずに、日本の地方都市を活用したニアショア開発や、ベトナムなどの新興国でのオフショア開発にシフトする企業が増えるだろう。中国のオフショア開発会社は、人件費が安い内陸の活用、単価が高い上流工程へのシフト、生産性の向上をコスト対策の3大柱として推進しているが、この変動に耐えられるだけの対策を今後5年間でどの程度施すことができるのかが明暗の分かれ目となる。
もちろん、上記のResorzの調査は平均人月単価なので、北京や上海、大連などの沿岸部と内陸部とでは、実際の人月単価に差がある。しかし、例えば現在、内陸部で沿岸部の70%程度のコストで賄えていたとしても、年平均10%上昇するのであれば、5年後には5年前の沿岸部のそれを超える。そして、沿岸部では現時点ですでにオフショア開発で利益を捻出することが困難になっており、中国の地場IT企業に現地法人の株式や事業を譲渡するなどして、オフショア開発から撤退する日系IT企業が増えている。ここ1~2年では、シーイーシー(CEC)やキヤノンITソリューションズ、NTTデータ イントラマート、JBCCなどがオフショア開発事業から撤退した。
●システム特需の反動あり 次に考慮しなければならないのは、オフショア開発の需要そのものだ。つまり、日本側のIT企業が、中国にアウトソーシングする開発量の推移である。これには、中国国内の市場環境以上に、日本側の事情が大きく関わってくる。
日本では現在、大手金融機関のシステム改修プロジェクトや、マイナンバー関連のシステム構築など、巨大プロジェクトが目白押しの状況で、エンジニアが慢性的に不足。この状況は、東京五輪が開催される20年まで続くとみられている。そこで、コストが高くなっていても、安定した人材の確保を目的として、中国のオフショア開発は利用されている。

北京智明創発軟件
時崇明
総経理 しかし、20年に向けて、この特需は陰りをみせてくる。日本の大手IT企業が、自社で大量にIT人材を確保せず、外注しているのはそのためだ。大規模案件が落ち着いた20年以降に、余剰人員が発生することを避けているのである。このシステム特需の反動は、中国のオフショア開発にも少なからず影響をもたらすことは間違いない。つまり、中国に発注する開発量は減る。
また、人材確保の観点でも、対日オフショア開発は苦戦を強いられる。すでに対日オフショア開発は、中国の学生からの人気が凋落。離職率が高いばかりか、採用も難しくなっている。しかし、オフショア開発というビジネスの特質上、高い賃金を提示することは現実的ではない。野村総合研究所(NRI)グループの北京智明創発軟件の時崇明総経理は、「今後3~5年経てば、人材を集められる新たな拠点の設立も検討する必要がでてくるだろう」と語る。この発言には、コスト低減のために人件費の安い内陸部の活用を進めるという意味だけでなく、「内陸でなければ、もはや人材を集められない」という2重の意味が含まれている。
●ローカル企業への委託が主流に ただし、対日オフショア開発の需要がなくなると判断するのは早計だ。システム特需の反動はあるにせよ、日本のIT市場が成長し続けるのであれば、開発量が急激に落ち込むとは考えにくい。日本の地方都市へのニアショア開発や、ベトナムなどのASEAN諸国への発注は増えるだろうが、人材リソースの供給量と、過去に蓄積されてきた技術・ノウハウを考慮すれば、中国のオフショア開発を無視することはできない。コストは高くても、日本にとって必要な人材リソースとしての活用は5年後も一定のボリュームで残る。

東忠集団
丁偉儒
董事長&CEO それでも、その際のシステム開発の発注先は、日系ではなく、ローカル系のオフショア開発会社が中心になる可能性が高い。将来のコスト上昇とシステム開発量の減少を考慮すれば、日系IT企業が、中国の現地法人で固定費を抱えてオフショア開発を担うメリットは薄れてくる。そこで、オフショア開発会社の集約が進み、規模感でコストメリットを出せるいくつかのベンダーへの委託が進むと考えられる。東忠集団の丁偉儒・董事長&CEOは、「今のコスト負担増大の時期こそが、産業集約のときだとして、逆にチャンスだと捉えている」と話す。
実際、ローカル系システム会社に委託する企業は増えている。中国の日系オフショア開発会社は、コスト低減対策として人件費の安い内陸部の活用を進めているものの、自社で新たに拠点を設けるケースはほとんどない。固定費を抱えることを避けて、内陸部にある現地のシステム開発会社とパートナーシップを組んで委託するやり方が増加中だ。沿岸部にある現地法人はプロジェクト・マネジメントや品質管理に徹するとともに、中国の国内ビジネスを推進して、下流工程はすべて内陸にアウトソース。そんな未来がやってくる。
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