中国国内は生存競争が激化
●日系マーケットは伸びない 「中国13億人の巨大市場」は確かに存在するが、日系IT企業はこの巨大企業にリーチできていない。本紙でこれまで何度も触れてきた通り、ほとんどの日系IT企業は、中国の日系企業向けITサポート事業が売上高の大部分を占めている。そして、2020年の日系IT企業の中国国内ビジネスを予測するにあたっては、この日系企業マーケットの動向を考慮しておく必要がある。
外務省によると、14年の日系企業の拠点数は前年比3.2%増の3万2667社。伸びてはいるものの、ピーク時の3万3420社を下回っている。帝国データバンクの調査では、15年6月時点で中国の日本企業数は1万3256社と、前回調査の12年9月から1200社減少。中国商務部によると、15年の日本の対中直接投資額は同25.2%減の32億1000万米ドルで、3年連続で減少している。現時点では、日系マーケットは伸び悩んでいる印象が強い。
では、今後はどうなるか。日本貿易振興機構(JETRO)の15年度調査によると、今後1~2年の中国の事業展開について、縮小もしくは第三国(地域)への移転・撤退(1.7%)と回答した日系企業は10.5%。一方、拡大は38.1%だった。依然として拡大路線の企業が多いが、縮小傾向は増えている。11年度調査と比べてみると、拡大は28.7ポイント減少、縮小は6.1ポイント上昇した。仮に今後5年間、これと同等の推移が続くとしたら、単純計算で20年には拡大が9.4%、縮小が16.6%と逆転してしまうことになるのだ。
また、多くの日本企業は現在、中国の購買力に高い関心を示しているが、中国に現地法人を設立するよりも、インバウンド需要を取り込んだり、越境ECを活用して商品を販売したりすることに力を注いでいる。すでに日本の大手企業の大部分は中国に進出しているが、これからの進出が期待される中小企業は、こうした現地に拠点をもたないやり方で中国ビジネスを推進するケースが増えるだろう。そうなれば、現地でのIT投資が大きくなることは期待しにくい。
これらを考慮すると、日系企業マーケットが大きく増えるとは考えにくい。IT投資の増加も見込めない。すでに日系IT企業では、「日系マーケットだけで2ケタ成長は難しい」との見方が強いが、5年後には、現状維持すら手いっぱいになる可能性がある。
●日系IT企業数は減少 そして、当の日系マーケットでは、すでに競争が激化している。BCN上海支局が50社を対象に行ったアンケートでは、72%が日系マーケットでの「ITベンダー間の競争が激しい」と回答している。また、日系マーケットの「開拓余地が小さい」との回答も58%と過半数あった。この激戦エリアで、共存共栄をしていくことは簡単ではない。このところ、日系IT企業の中国への新規進出は増えている状況にないが、すでに「赤字を垂れ流し続けていて、不必要なベンダーがたくさんある」(大手SIer総経理)との声もある。競争が厳しく、価格競争に陥り、受注できた案件も不採算で、その結果、赤字決算という企業は少なくない。日系マーケットでの競争がさらに過熱すれば、企業淘汰が進む可能性がある。
ただし、日系企業マーケットがなくなることはない。企業数が急速に減少するとは考えにくく、中国法人にIT担当者を抱えない企業が多いため、ITサポートの需要も根強い。すでにITインフラや基礎的な会計ソフトなどのシステム導入は一段落している企業が多いため、今後は生産管理や情報系のCRMやBIなどの領域で、既存顧客との関係を深めて、いかに大きな取り引きにつなげるかがカギとなる。iVision、SCSKなど、日系マーケットに専念している企業では、特定の大手顧客との取引によって、安定した収益を上げているケースが多い。
また、日系IT企業にとっても、日系企業が重要な顧客であることに変わりはない。ユーザーによっては、海外法人のITサポートを依頼できることを、日本国内でのシステム案件の発注の必須事項とするケースもある。日系IT企業のなかにも、中国単体では不採算でも、グローバル全体でその顧客からの利益を出せれば問題ないと判断している企業はある。
日系マーケットを主戦場とするIT企業は、今後5年間で大きく成長するとは考えにくい。日本の地方支店と同等の事業規模にとどまるところが大部分だろう。売上規模では、SIerで50億円未満、ISVでは10億円未満にとどまり、日本本社の売上高の10%に満たない規模となりそうだ。
●ローカル市場での成功者は一部のみ 日系マーケットでの成長が難しくなった後に、日系IT企業が事業拡大の目を向けるのは、中国のローカル市場だ。しかし、残念ながらほとんどの日系IT企業は、今後もローカルビジネスを成功させるのは難しいと思われる。ローカル企業の顧客比率は増えるだろうが、それを売上高の大部分を占める規模までに成長させられるのは、ほんの一部に限られる。
まず、そもそも外資系IT企業が海外のローカル市場で成功することは簡単ではない。日本を例に考えてみれば、外資系で成功しているのは、マイクロソフトやIBM、オラクル、SAP、アクセンチュアなど、グローバルIT大手ばかり。欧米では中堅ベンダーだが、日本では一流ベンダーという企業はほとんどない。とくにSIerでは難しく、ほとんどがハードウェア・ソフトウェアのメーカーだ。
また、中国では「去IOE(IBM、Oracle、EMCなど外資企業からの脱却)」などがトレンドとなっており、国産IT製品の導入が推進されているなど、外資系がローカルビジネスをやりづらい状況にある。そして日系IT企業では、それ以前の問題として、ローカルビジネスに対する意識の低さと、体制整備の遅れが足かせとなる。日系IT企業には、「日系マーケットが主流で、ローカルビジネスもいずれやりたい」という意識の総経理が多い。しかし、文化・商慣習の違うローカルビジネスは、オペレーションが日系企業向けのそれとは異なるため、日系企業向けの事業体制をそのまま適応させることが難しい。ローカルビジネスの体制を“いずれ”整備しても、実際に事業が軌道に乗るのは、その数年後になるのだ。

ムロオシステムズ
潘忠信
社長 ローカルビジネスに興味をもちつつも、積極的にやらない理由として、「売掛金の回収が難しい」と答える総経理が多いが、これでは永久にローカル市場では成功できない。「ローカルビジネスに興味はあるが、現地のやり方がわからないので挑戦しない」と言っているに等しいからだ。国が違えば、ビジネスのやり方も「郷に入っては郷に従う」のが鉄則。中国の地場企業は、同じ条件でビジネスをこなしている。日系IT企業がローカルビジネスで成功するには、時間をかけて、現地のやり方に適合することは避けて通れない。だから、・いずれ”ではいけないのだ。15年にオフショア事業を廃止し、中国ローカルビジネスに舵を切ったムロオシステムズの潘忠信社長は、「“背水の陣”との思いで中国市場を開拓する」と強い意志をもって臨む。
また、中国のローカル市場では厳しい競争に迫られることになる。中国では、すでに金融業ならA社、製造業ならB社、サービス業ならC社と、各業種に強い地場のITベンダーが確立されている。こうした競合に打ち勝つには、他社にない差異化要因が必要だ。そのためには、中国市場のニーズを研究し、市場に適合した商材を企画・開発するための戦略的な投資が求められる。しかし、こうした体力をもつ日系IT企業はほとんどなく、日系企業向けビジネスの片手間でR&Dをやろうとしているのが現状だ。商材も日本で提供しているものを中国語対応させただけのケースが多い。一方、IBMやマイクロソフトなどのグローバルIT大手は、中国に大規模なR&Dセンターを有して戦略投資を行っている。
●未開拓領域も今後5年で決着 
李克強
首相 今後、ローカル市場でとくに伸びるのは、クラウド、IoT、ビッグデータなどの先端IT分野だ。今年3月の全国人民代表大会(全人代)政府活動報告で、李克強首相は「ビッグデータ、クラウドコンピューティング、IoTの幅広い応用を促進する」と明確に述べた。20年までの「第13次5年計画」では、イノベーションを中心とした経済発展が重要なテーマとなっており、先端IT分野の活用推進が重大プロジェクトに掲げられている。

世存信息技術(上海)
張圃
総経理 日系ITベンダーにとってうれしいことに、こうした先端分野では、まだ市場の覇権を握るベンダーが確立されていない。早期に取りかかれば、これらの先端領域で市場を開拓できる可能性はある。セゾン情報システムズの中国法人は、ローカルビジネスが軌道に乗っている数少ない日系IT企業のうちの1社だが、今年夏頃にIoTデータ連携プラットフォーム「HULFT IoT」の販売を開始する。世存信息技術(上海)の張圃総経理は、「16~17年は大きなチャンスだ。ここで攻めなければ、競合にIoT市場を先取りされる」とみる。
中国のローカルITベンダーの動きも早い。昨年にインターネットを活用した産業改革「互聯網+(インターネットプラス)」行動計画が国家戦略に掲げられて以降、とくに先端IT分野をビジネスに取り込もうとする機運が高まっている。20年までには、未開拓市場も成熟する可能性が高い。それまでにローカル市場にくい込めなければ、日系IT企業の商機は薄くなる。

NTTデータ(中国)
松崎義雄
総裁 中国工業和信息化部(工信部)によると、15年の中国ソフトウェア・情報技術サービス産業規模は前年比16.6%増の4兆3249億元。日本のIT市場規模のそれが15兆円規模であることを考慮すれば、すでに中国は日本の4倍近いIT市場規模を誇っている。そしてこの市場は、今後5年間も、2ケタ近い成長率を維持する可能性が高い。先端IT分野の活用が一気に進めば、その時はもう「日本のIT市場は遅れている」状態になる可能性もある。すでにECやモバイル決済、スマートフォンアプリなどは、日本市場以上に進んでいるとの見方が強い。NTTデータ(中国)の松崎義雄総裁は、「日本には、中国よりも日本の方がすぐれているのだという幻想をいまだにもっている人がいる」と語る。
中国ローカル市場での成功を望むならば、早急に体制を整備しなければならない。今、のろしを上げなければ、20年は明るくならない。
[次のページ]