Special Feature
エンジニアじゃなくてもわかる ブロックチェーン超入門(1)
2016/05/12 21:33
週刊BCN 2016年05月09日vol.1627掲載
なんとなく聞いたことがあるけれど、実は何なのかよくわからない──。「FinTechの代表的な技術イノベーション」という触れ込みで急激に注目が高まっている「ブロックチェーン」も、少なくとも現時点では、多くのITビジネス関係者にとってそうした類の技術といえよう。いま、最も旬なキーワードの一つであるブロックチェーンとは一体何なのか、法人向けITビジネスの市場にどんな影響をもたらすのか、週刊BCNでは2週にわたり、ゼロからでも理解できる“超初心者”向けの解説を試みる。(取材・文/本多和幸)
ブロックチェーンのしくみ
ブロックチェーンは、ビットコインとともに生まれたP2P方式のデータ処理基盤技術だ。日本語では、分散型台帳と表現されることが多いが、文字通り、ネットワーク内のすべてのトランザクションを記録する台帳の役割をもち、かつ、ネットワークに参加しているすべてのノードが同じデータを保持する。改ざんがほぼ不可能で、可用性にもすぐれているといわれる。
複数のトランザクションデータの塊を一つの「ブロック」とし、ブロックごとに整合性を検証してハッシュ値(任意のデータを演算処理して求める値で、必ず一定の長さのデータになる)を求める。ブロックには、一つ前のブロックのハッシュ値を含めるため、ブロックが鎖のようにつながっていくことから、「ブロックチェーン」と呼ばれる。
特定のトランザクションデータを改ざんしようとすると、次のブロックに含まれるハッシュ値が変わってしまい、そこから連なるすべてのブロックのデータも変わってしまうため、ハッシュ値は記録改ざん対策として機能している。
序
本紙の読者であれば、ブロックチェーンという言葉を耳にしたことがないという人は、もはやかなりの少数派だろう。と思っていたのだが、取材で出会うさまざまな人に話を聞くと、実情はどうも違うようだ。ブロックチェーンは、完全にバブル状態に突入した「FinTech」の重要な技術イノベーションという位置づけで語られることが多いために、金融業界と接点があるビジネスに携わっているなどの事情がない限り、IT業界内での認知度すら、実はそれほど高くないのではないかという印象だ。
しかし、昨年末あたりから、国内でもさまざまな実証実験が立ち上がり、株式市場での注目度も急激に高まっている。株式公開企業がブロックチェーンという言葉が入ったリリースを出しただけで株価が急騰するような状況だ。さらに、金融分野にとどまらず、ブロックチェーンは情報システム全般に大きな革命を引き起こす技術だと指摘する声も多く聞かれるようになってきた。
その結果、ITや金融の専門メディアなどを中心に、ブロックチェーンに関する情報も、質・量とも充実度が増してきている。ただし、ブロックチェーンは新しい技術、概念であるため定見が確立されていない部分も実は多い。そんな状況も相まって、とくにセールスやマーケティングなどの領域でキャリアを積んできた“非エンジニア”系のITビジネスパーソンにとっては、仕組みや特性を把握し、ブロックチェーンとは何なのかというアウトラインを理解するのがそれほど容易ではない。しかし、ブロックチェーンが真に世の中を変革する技術になるかどうかは、そうしたいわば「ビジネスサイド」の人材が、新しいビジネスやサービスにブロックチェーンを活用するアイデアをどれだけ出せるかによる部分も大きい。
では、非エンジニアのブロックチェーン初心者は、どのようにブロックチェーンを理解すればいいのか。まずは、詳しい人に聞いてみるのが一番の近道だ。ということで、ブロックチェーンに関する専門的な知見をもつカレンシーポートの杉井靖典・代表取締役CEOに解説をお願いした。ちなみにカレンシーポートは、みずほフィナンシャルグループ、電通国際情報サービス、日本マイクロソフトとの4社協働実証実験や、野村総合研究所の株式情報管理強化を目的とした実証実験などで、ブロックチェーン技術の開発や実装をサポートしている(次号で詳報)。また、経済産業省の「ブロックチェーン検討会」には、専門の知見をもつ5人の委員が参画しているが、杉井代表取締役CEOに加え、志茂博・同社取締役CTO(ブロックチェーン専門企業のコンセンサス・ベイス代表を兼務)も委員に名を連ねている。
なお、念のため断っておくが、ブロックチェーンはまだまだ発展途上で、汎用的なテクノロジーとしての市場はこれから立ち上がろうとしている段階だ。ブロックチェーンの定義そのものや特性、適用できる領域や新しいサービスを生み出す基盤となる可能性などについて、専門家の間でもさまざまな意見が飛び交っている。本記事では、国内のブロックチェーン市場を牽引するスタートアップのトップがブロックチェーンをどう捉えているかに焦点をあて、あくまでも杉井代表取締役CEOの視点をベースにブロックチェーンを紐解いていく。 ページ数:1/1 キャプション:Q.杉井さん、ブロックチェーンて一言で説明すると何ですか?
杉井靖典
代表取締役CEO 無茶ぶりとは理解しつつも、最初に、ブロックチェーンを一言で説明するとどうなるかという質問をぶつけてみた。「一言で説明するのは非常に難しい」と前置きしつつ、杉井代表取締役CEOは、「言ってみればデータベースみたいなもの」と表現した。確かに、ブロックチェーン関連ビジネスを手がけるベンダーからも、既存のITシステムとの対比でいうとDBにレイヤが近いという説明や、リレーショナルデータベース(RDB)や分散型データベースを代替する可能性について言及するのを聞くことは少なくない印象だ。
杉井代表取締役CEOは、市場の立ち上がり方も、とくにRDBに似ていると指摘する。「30年くらい前は、RDBなんて机上の空論で使い物にならないと言われていた。それが実用化され、企業システムの黒子としてあたりまえのように使われるようになった。(商用RDBのパイオニアで最大手の)オラクルが黒子かは議論があるだろうが(笑)、ブロックチェーンのコア技術の開発に取り組んでいる企業は、そういう存在になり得るかもしれない。実際に稼働しているシステムがあるのに、エンタープライズ寄りの人からはまだまだよちよち歩きだねと斜に構えてみられているところも、当時のRDBと似ている」。
ただ、ブロックチェーンを取り巻く環境で特筆すべきなのは、ユーザー企業、とくにFinTechの文脈で、金融機関が早くから強い関心を示したことだ。杉井代表取締役CEOは、「単純にスタートアップが騒いでいるだけなら、こんなにビッグなキーワードにはならなかっただろう。でも、金融業界の方々が興味をもたれたので、エンタープライズITの大手ベンダーでも、(何とかキャッチアップしようと)焦っている人は多いように思える。そんなこともあって、IT業界も上から下まで大騒動という感じになっている」と感想を漏らす。
こうした状況が生まれた背景には、ブロックチェーンの成り立ちが大きく関係していると杉井代表取締役CEOはみている。
Q.既存のDBに取って代わるものなの?
そもそもブロックチェーンは、暗号通貨であるビットコインの基盤技術として開発された。杉井代表取締役CEOは、「その成り立ちからいって当然のことではあるが、ブロックチェーンの最初の実装がビットコインだったために、暗号通貨から割と短絡的な連想で、まずは金融業界が騒ぎ始めたのだろう。よくも悪くもビットコインの存在が現在の状況をつくりだした」と思っている。
しかし、現在ブロックチェーンがここまで注目を集めているのは、新しい金融サービスのための技術基盤にとどまらず、より汎用的な技術として普及していく可能性が指摘されているからだ。杉井代表取締役CEOも、「ブロックチェーンをよく知ると、ビットコインをはじめとする暗号通貨、もっと広くいえば金融分野というのは、実はブロックチェーンが適用できる分野の一つに過ぎないことがわかる。これもRDBと同様に、いろいろな分野に将来的には使われるようになるだろう」と、ブロックチェーンの可能性を評価する。
では、ブロックチェーンは、RDBをはじめとする既存のDB技術に取って代わるものとして普及していくのだろうか。杉井代表取締役CEOの答えは、明確に「ノー」だった。「ブロックチェーンと従来のRDBや分散型DBを比べると、根本的な違いがいくつかある。その“違い”こそがブロックチェーンのもつ特性であり、その特性を従来のデータベースに付加して、併用していくことが現実解だと考えている。ブロックチェーンは万能な技術というわけではなく、既存のDBを使うほうが明らかに適しているシステムも当然ある。DB VS ブロックチェーンのような説明をする人がいるとしたら、それはミスリードだ」。
Q.まずは技術の原理から理解すべきですか?
従来のRDBや分散型DBとブロックチェーンの根本的な違い=ブロックチェーンの特性。杉井代表取締役CEOは、まずはその特性の内容を理解することこそ、“非エンジニア”がブロックチェーンの理解に一番重要なことだという。ブロックチェーンについては、国内でも実証実験が続々立ち上がっていて、一部成果も発表されているが、商用のテクノロジーとしてどう市場が形成されていくのかは、まだまだ予想しづらい状況だ。杉井代表取締役CEOは、「ブロックチェーンの特性をきちんと分析できている人が少ないことが問題」だと指摘する。
「ブロックチェーンの仕組みはシンプルではないが、それでも理解しようという“苦行”に耐えた人しか、特性の把握というところまでたどり着けなかった。これまでは、ブロックチェーンのコミュニティの中心はエンジニアで、技術そのものに関心がある人が多かったので、それでもよかった。しかし、ブロックチェーンはすでに、ビジネスサイドの人も巻き込んで市場をつくっていくフェーズに入っている」。
「これからブロックチェーンの世界に入ってくる人には、まず、ブロックチェーンだからこそ実現できる技術の特性をはじめに知ってもらうことが大切。特性さえ理解すれば、技術に詳しくなくても、何に使えるかという発想はできる。技術の原理を知っていることも大事ではあるのだが、そこをとっかかりにするのはビジネスサイドの人には苦しい。ブロックチェーンの特性をまずは知り、とくに関心をもったものから、じゃあそれを支える技術ってどんな仕組みなのという順番で理解していったほうが健全だと思う。新しい革新的なサービスに活用するアイデアを出すのは、エンジニアは不得意で、ビジネスサイドの人への期待が高い」。
●貨幣×監査機能の実現がキモ
ここで、杉井代表取締役CEOが考えるブロックチェーンの特性をチェックしてみる。別表1は、杉井代表取締役CEOが、「RDB、分散型DBとの違いを徹底的に追求して導き出した」ブロックチェーンの特性のリストだ。
杉井代表取締役CEOは、「これらのブロックチェーンの特性を応用して実現できる機能は、突き詰めると貨幣(代用貨幣、トークン)と監査証跡の二つだけ。逆にいうと、貨幣と監査の機能をデータベースに追加する技術がブロックチェーンだといってもいいと私は考えている」とも話す。情報の記録のみに特化したブロックチェーンも出現しており、ブロックチェーンの技術そのものにトークンが必須の要素ではないにせよ、「貨幣と監査」機能の実現こそが、ブロックチェーンだから実現できる固有の価値であるというのが、杉井代表取締役CEOの見方のようだ。
さらに、別表2は、現時点でブロックチェーンの活用が想定されるビジネス分野をまとめたものだ。エンタープライズITで旬のキーワードでもあるIoTでも、ブロックチェーンで実現できる「スマートコントラクト」、わかりやすくいえばデバイス間の自動取引などは、大いに活用の可能性がありそうだ。杉井代表取締役CEOは、ブロックチェーンの特性を理解する人が増えるほど、こうした分野で実際にブロックチェーンを使った新しいサービスが立ち上がったり、これ以外の分野でエンジニアが想定もしなかったような新しい使い方が考え出されたりというふうに、市場は広がっていくと考えているようだ。
Q.価値の発行機能を担保する技術は?
杉井代表取締役CEOがブロックチェーンの特性として挙げたすべての項目について詳細を説明するのは、紙面スペースの関係上避けるが、いくつか要点のみ紹介する。
「価値そのものを、デジタルデータとして発行できる」「発行されたある価値を、特定の利用者のみに保有させることができる」「保有しているある価値を、別の利用者に宛て移転させることができる」という三つの特性は、共通した技術基盤で担保されているものだという。杉井代表取締役CEOは、「ごく簡単にいうと、暗号ピースの組み合わせで、これらの特性を実現している」と説明する。
具体的には、公開鍵暗号基盤やハッシュ値の利用だ。公開鍵暗号方式とは、暗号化と復号でペアとなる二つの異なる鍵、自分だけが知っている「秘密鍵」とネットワーク上に公開する「公開鍵」を使う方式だ。ビットコインを例に考えると、公開鍵は口座番号にあたり、ペアとなる秘密鍵を使った場合のみ、その口座内にあるビットコインを移動させることができる。Aの口座からBの口座への送金は、Aの秘密鍵がなければ絶対にできない仕組みになっているのだ。ブロックチェーンの上のプロセスでみると、AからBにいくら送金するという内容のトランザクションをAが作成し、Aの秘密鍵を使って電子署名するかたちになる。秘密鍵をもっていなければ価値を移転できない状態をつくりだすとともに、ハッシュ値を改ざん対策に活用する(別記事参照)ことで、トランザクションの正しさを担保している。ネットワーク上のすべてのノードは同一のデータを保有するため、監査も容易だ。
「同一価値の複数同時利用や、多重移転を排除する機構をもつ」という特性に関しては、「防止ではなく“排除”と表現しているのがポイント」だという。
ビットコインのようなオープンなネットワーク上のブロックチェーンでブロック生成が多数のノードによって行われると、ブロックチェーンが分岐しまうことがある。この場合、結果的に一番長く続いたチェーンが正しいチェーンとして残り、短いチェーンは破棄される。悪意のあるノードが不正なブロックをチェーンにつなげて“正しいチェーン”にしてしまうことを防ぐ方法(Proof of Work、Proof of Stakeなど)も考案され、ビットコインではProof of Workを採用している。
Q.パブリックとプライベートをどう使い分けるの?
プライベート・ブロックチェーンの国産プラットフォーム「mijin」を開発・提供するテックビューロの朝山貴生代表取締役は、「当社がいま世界で一番進んでいるブロックチェーンのプラットフォームを提供している」と、自信をみせる。事実、業務システムにブロックチェーンを採用するには、プライベートなネットワークのほうがニーズが高いのではという声もある。
これに対して杉井代表取締役CEOは、「価値そのものをデジタルデータとして発行できるようにするためには、信頼できる第三者を仲介する中央管理的な仕組みではなく、無信頼の分散合意形成の仕組みや高度な外部監査性が重要であり、それはパブリックなブロックチェーン、もしくは大規模なコンソーシアム型のブロックチェーンでなければ実現できない」と話し、完全に閉じたネットワーク上では、ブロックチェーンを使う必然性や、ブロックチェーンならではのメリットは享受しづらいと考えているようだ。
ただし、「相互を連携させるやり方、とくにプライベートなブロックチェーンに外部監査性を付与するような使い方はかなり有効だと考えられる」ともしており、ハイブリッド・ブロックチェーンで双方の弱点を補完できる可能性も示唆している。
ブロックチェーンのしくみ
ごくごく簡単な解説
ブロックチェーンは、ビットコインとともに生まれたP2P方式のデータ処理基盤技術だ。日本語では、分散型台帳と表現されることが多いが、文字通り、ネットワーク内のすべてのトランザクションを記録する台帳の役割をもち、かつ、ネットワークに参加しているすべてのノードが同じデータを保持する。改ざんがほぼ不可能で、可用性にもすぐれているといわれる。 複数のトランザクションデータの塊を一つの「ブロック」とし、ブロックごとに整合性を検証してハッシュ値(任意のデータを演算処理して求める値で、必ず一定の長さのデータになる)を求める。ブロックには、一つ前のブロックのハッシュ値を含めるため、ブロックが鎖のようにつながっていくことから、「ブロックチェーン」と呼ばれる。
特定のトランザクションデータを改ざんしようとすると、次のブロックに含まれるハッシュ値が変わってしまい、そこから連なるすべてのブロックのデータも変わってしまうため、ハッシュ値は記録改ざん対策として機能している。
序
ブロックチェーンて、なんか難しい?
本紙の読者であれば、ブロックチェーンという言葉を耳にしたことがないという人は、もはやかなりの少数派だろう。と思っていたのだが、取材で出会うさまざまな人に話を聞くと、実情はどうも違うようだ。ブロックチェーンは、完全にバブル状態に突入した「FinTech」の重要な技術イノベーションという位置づけで語られることが多いために、金融業界と接点があるビジネスに携わっているなどの事情がない限り、IT業界内での認知度すら、実はそれほど高くないのではないかという印象だ。 しかし、昨年末あたりから、国内でもさまざまな実証実験が立ち上がり、株式市場での注目度も急激に高まっている。株式公開企業がブロックチェーンという言葉が入ったリリースを出しただけで株価が急騰するような状況だ。さらに、金融分野にとどまらず、ブロックチェーンは情報システム全般に大きな革命を引き起こす技術だと指摘する声も多く聞かれるようになってきた。
その結果、ITや金融の専門メディアなどを中心に、ブロックチェーンに関する情報も、質・量とも充実度が増してきている。ただし、ブロックチェーンは新しい技術、概念であるため定見が確立されていない部分も実は多い。そんな状況も相まって、とくにセールスやマーケティングなどの領域でキャリアを積んできた“非エンジニア”系のITビジネスパーソンにとっては、仕組みや特性を把握し、ブロックチェーンとは何なのかというアウトラインを理解するのがそれほど容易ではない。しかし、ブロックチェーンが真に世の中を変革する技術になるかどうかは、そうしたいわば「ビジネスサイド」の人材が、新しいビジネスやサービスにブロックチェーンを活用するアイデアをどれだけ出せるかによる部分も大きい。
では、非エンジニアのブロックチェーン初心者は、どのようにブロックチェーンを理解すればいいのか。まずは、詳しい人に聞いてみるのが一番の近道だ。ということで、ブロックチェーンに関する専門的な知見をもつカレンシーポートの杉井靖典・代表取締役CEOに解説をお願いした。ちなみにカレンシーポートは、みずほフィナンシャルグループ、電通国際情報サービス、日本マイクロソフトとの4社協働実証実験や、野村総合研究所の株式情報管理強化を目的とした実証実験などで、ブロックチェーン技術の開発や実装をサポートしている(次号で詳報)。また、経済産業省の「ブロックチェーン検討会」には、専門の知見をもつ5人の委員が参画しているが、杉井代表取締役CEOに加え、志茂博・同社取締役CTO(ブロックチェーン専門企業のコンセンサス・ベイス代表を兼務)も委員に名を連ねている。
なお、念のため断っておくが、ブロックチェーンはまだまだ発展途上で、汎用的なテクノロジーとしての市場はこれから立ち上がろうとしている段階だ。ブロックチェーンの定義そのものや特性、適用できる領域や新しいサービスを生み出す基盤となる可能性などについて、専門家の間でもさまざまな意見が飛び交っている。本記事では、国内のブロックチェーン市場を牽引するスタートアップのトップがブロックチェーンをどう捉えているかに焦点をあて、あくまでも杉井代表取締役CEOの視点をベースにブロックチェーンを紐解いていく。 ページ数:1/1 キャプション:
Q.杉井さん、ブロックチェーンて一言で説明すると何ですか?
A.データベース……みたいなものです。

杉井靖典
代表取締役CEO
杉井代表取締役CEOは、市場の立ち上がり方も、とくにRDBに似ていると指摘する。「30年くらい前は、RDBなんて机上の空論で使い物にならないと言われていた。それが実用化され、企業システムの黒子としてあたりまえのように使われるようになった。(商用RDBのパイオニアで最大手の)オラクルが黒子かは議論があるだろうが(笑)、ブロックチェーンのコア技術の開発に取り組んでいる企業は、そういう存在になり得るかもしれない。実際に稼働しているシステムがあるのに、エンタープライズ寄りの人からはまだまだよちよち歩きだねと斜に構えてみられているところも、当時のRDBと似ている」。
ただ、ブロックチェーンを取り巻く環境で特筆すべきなのは、ユーザー企業、とくにFinTechの文脈で、金融機関が早くから強い関心を示したことだ。杉井代表取締役CEOは、「単純にスタートアップが騒いでいるだけなら、こんなにビッグなキーワードにはならなかっただろう。でも、金融業界の方々が興味をもたれたので、エンタープライズITの大手ベンダーでも、(何とかキャッチアップしようと)焦っている人は多いように思える。そんなこともあって、IT業界も上から下まで大騒動という感じになっている」と感想を漏らす。
こうした状況が生まれた背景には、ブロックチェーンの成り立ちが大きく関係していると杉井代表取締役CEOはみている。
Q.既存のDBに取って代わるものなの?
A.「DB VS ブロックチェーン」はミスリードです。
そもそもブロックチェーンは、暗号通貨であるビットコインの基盤技術として開発された。杉井代表取締役CEOは、「その成り立ちからいって当然のことではあるが、ブロックチェーンの最初の実装がビットコインだったために、暗号通貨から割と短絡的な連想で、まずは金融業界が騒ぎ始めたのだろう。よくも悪くもビットコインの存在が現在の状況をつくりだした」と思っている。 しかし、現在ブロックチェーンがここまで注目を集めているのは、新しい金融サービスのための技術基盤にとどまらず、より汎用的な技術として普及していく可能性が指摘されているからだ。杉井代表取締役CEOも、「ブロックチェーンをよく知ると、ビットコインをはじめとする暗号通貨、もっと広くいえば金融分野というのは、実はブロックチェーンが適用できる分野の一つに過ぎないことがわかる。これもRDBと同様に、いろいろな分野に将来的には使われるようになるだろう」と、ブロックチェーンの可能性を評価する。
では、ブロックチェーンは、RDBをはじめとする既存のDB技術に取って代わるものとして普及していくのだろうか。杉井代表取締役CEOの答えは、明確に「ノー」だった。「ブロックチェーンと従来のRDBや分散型DBを比べると、根本的な違いがいくつかある。その“違い”こそがブロックチェーンのもつ特性であり、その特性を従来のデータベースに付加して、併用していくことが現実解だと考えている。ブロックチェーンは万能な技術というわけではなく、既存のDBを使うほうが明らかに適しているシステムも当然ある。DB VS ブロックチェーンのような説明をする人がいるとしたら、それはミスリードだ」。
Q.まずは技術の原理から理解すべきですか?
A.いいえ、最初に特性から理解したほうがわかりやすいです。
従来のRDBや分散型DBとブロックチェーンの根本的な違い=ブロックチェーンの特性。杉井代表取締役CEOは、まずはその特性の内容を理解することこそ、“非エンジニア”がブロックチェーンの理解に一番重要なことだという。ブロックチェーンについては、国内でも実証実験が続々立ち上がっていて、一部成果も発表されているが、商用のテクノロジーとしてどう市場が形成されていくのかは、まだまだ予想しづらい状況だ。杉井代表取締役CEOは、「ブロックチェーンの特性をきちんと分析できている人が少ないことが問題」だと指摘する。 「ブロックチェーンの仕組みはシンプルではないが、それでも理解しようという“苦行”に耐えた人しか、特性の把握というところまでたどり着けなかった。これまでは、ブロックチェーンのコミュニティの中心はエンジニアで、技術そのものに関心がある人が多かったので、それでもよかった。しかし、ブロックチェーンはすでに、ビジネスサイドの人も巻き込んで市場をつくっていくフェーズに入っている」。
「これからブロックチェーンの世界に入ってくる人には、まず、ブロックチェーンだからこそ実現できる技術の特性をはじめに知ってもらうことが大切。特性さえ理解すれば、技術に詳しくなくても、何に使えるかという発想はできる。技術の原理を知っていることも大事ではあるのだが、そこをとっかかりにするのはビジネスサイドの人には苦しい。ブロックチェーンの特性をまずは知り、とくに関心をもったものから、じゃあそれを支える技術ってどんな仕組みなのという順番で理解していったほうが健全だと思う。新しい革新的なサービスに活用するアイデアを出すのは、エンジニアは不得意で、ビジネスサイドの人への期待が高い」。
●貨幣×監査機能の実現がキモ
ここで、杉井代表取締役CEOが考えるブロックチェーンの特性をチェックしてみる。別表1は、杉井代表取締役CEOが、「RDB、分散型DBとの違いを徹底的に追求して導き出した」ブロックチェーンの特性のリストだ。
杉井代表取締役CEOは、「これらのブロックチェーンの特性を応用して実現できる機能は、突き詰めると貨幣(代用貨幣、トークン)と監査証跡の二つだけ。逆にいうと、貨幣と監査の機能をデータベースに追加する技術がブロックチェーンだといってもいいと私は考えている」とも話す。情報の記録のみに特化したブロックチェーンも出現しており、ブロックチェーンの技術そのものにトークンが必須の要素ではないにせよ、「貨幣と監査」機能の実現こそが、ブロックチェーンだから実現できる固有の価値であるというのが、杉井代表取締役CEOの見方のようだ。
さらに、別表2は、現時点でブロックチェーンの活用が想定されるビジネス分野をまとめたものだ。エンタープライズITで旬のキーワードでもあるIoTでも、ブロックチェーンで実現できる「スマートコントラクト」、わかりやすくいえばデバイス間の自動取引などは、大いに活用の可能性がありそうだ。杉井代表取締役CEOは、ブロックチェーンの特性を理解する人が増えるほど、こうした分野で実際にブロックチェーンを使った新しいサービスが立ち上がったり、これ以外の分野でエンジニアが想定もしなかったような新しい使い方が考え出されたりというふうに、市場は広がっていくと考えているようだ。
Q.価値の発行機能を担保する技術は?
A.暗号ピースの組み合わせで実現しています。
杉井代表取締役CEOがブロックチェーンの特性として挙げたすべての項目について詳細を説明するのは、紙面スペースの関係上避けるが、いくつか要点のみ紹介する。 「価値そのものを、デジタルデータとして発行できる」「発行されたある価値を、特定の利用者のみに保有させることができる」「保有しているある価値を、別の利用者に宛て移転させることができる」という三つの特性は、共通した技術基盤で担保されているものだという。杉井代表取締役CEOは、「ごく簡単にいうと、暗号ピースの組み合わせで、これらの特性を実現している」と説明する。
具体的には、公開鍵暗号基盤やハッシュ値の利用だ。公開鍵暗号方式とは、暗号化と復号でペアとなる二つの異なる鍵、自分だけが知っている「秘密鍵」とネットワーク上に公開する「公開鍵」を使う方式だ。ビットコインを例に考えると、公開鍵は口座番号にあたり、ペアとなる秘密鍵を使った場合のみ、その口座内にあるビットコインを移動させることができる。Aの口座からBの口座への送金は、Aの秘密鍵がなければ絶対にできない仕組みになっているのだ。ブロックチェーンの上のプロセスでみると、AからBにいくら送金するという内容のトランザクションをAが作成し、Aの秘密鍵を使って電子署名するかたちになる。秘密鍵をもっていなければ価値を移転できない状態をつくりだすとともに、ハッシュ値を改ざん対策に活用する(別記事参照)ことで、トランザクションの正しさを担保している。ネットワーク上のすべてのノードは同一のデータを保有するため、監査も容易だ。
「同一価値の複数同時利用や、多重移転を排除する機構をもつ」という特性に関しては、「防止ではなく“排除”と表現しているのがポイント」だという。
ビットコインのようなオープンなネットワーク上のブロックチェーンでブロック生成が多数のノードによって行われると、ブロックチェーンが分岐しまうことがある。この場合、結果的に一番長く続いたチェーンが正しいチェーンとして残り、短いチェーンは破棄される。悪意のあるノードが不正なブロックをチェーンにつなげて“正しいチェーン”にしてしまうことを防ぐ方法(Proof of Work、Proof of Stakeなど)も考案され、ビットコインではProof of Workを採用している。
Q.パブリックとプライベートをどう使い分けるの?
A.ブロックチェーンの真価はパブリックにあり。ただしハイブリッドでの運用も有望です。
プライベート・ブロックチェーンの国産プラットフォーム「mijin」を開発・提供するテックビューロの朝山貴生代表取締役は、「当社がいま世界で一番進んでいるブロックチェーンのプラットフォームを提供している」と、自信をみせる。事実、業務システムにブロックチェーンを採用するには、プライベートなネットワークのほうがニーズが高いのではという声もある。 これに対して杉井代表取締役CEOは、「価値そのものをデジタルデータとして発行できるようにするためには、信頼できる第三者を仲介する中央管理的な仕組みではなく、無信頼の分散合意形成の仕組みや高度な外部監査性が重要であり、それはパブリックなブロックチェーン、もしくは大規模なコンソーシアム型のブロックチェーンでなければ実現できない」と話し、完全に閉じたネットワーク上では、ブロックチェーンを使う必然性や、ブロックチェーンならではのメリットは享受しづらいと考えているようだ。
ただし、「相互を連携させるやり方、とくにプライベートなブロックチェーンに外部監査性を付与するような使い方はかなり有効だと考えられる」ともしており、ハイブリッド・ブロックチェーンで双方の弱点を補完できる可能性も示唆している。
なんとなく聞いたことがあるけれど、実は何なのかよくわからない──。「FinTechの代表的な技術イノベーション」という触れ込みで急激に注目が高まっている「ブロックチェーン」も、少なくとも現時点では、多くのITビジネス関係者にとってそうした類の技術といえよう。いま、最も旬なキーワードの一つであるブロックチェーンとは一体何なのか、法人向けITビジネスの市場にどんな影響をもたらすのか、週刊BCNでは2週にわたり、ゼロからでも理解できる“超初心者”向けの解説を試みる。(取材・文/本多和幸)
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