Special Feature
エンジニアじゃなくてもわかる ブロックチェーン超入門(2)国内でもマーケット立ち上げの動き 宝の山を掘りあてるのは誰だ?
2016/05/19 21:33
週刊BCN 2016年05月16日vol.1628掲載
革新的な技術として注目を集めるブロックチェーンだが、実際にマーケットが立ち上がるのはこれからの話だ。日本でも、昨年後半から実証実験が相次いでスタートし、多くのプレイヤーが「宝の山」を掘りあてるべく動き始めている。ブロックチェーンの“超初心者”向け特集後半は、ブロックチェーン専業のスタートアップ、大手SIerなどの動きにフォーカスし、マーケットの行く末を展望する。(取材・文/本多和幸)
もう一度簡単に解説
ブロックチェーンは、ビットコインとともに生まれたP2P方式のデータ処理基盤技術だ。日本語では、分散型台帳と表現されることが多い。文字通り、ネットワーク内のすべてのトランザクションを記録するデータベースのような役割をもち、かつ、ネットワークに参加しているすべてのノードが同じデータを保持することが、「分散型」とよばれる所以だ。耐改ざん性が高く、可用性にもすぐれているといわれる。
複数のトランザクションデータの塊を一つのブロックとし、新しいブロックを生成する際は、ブロック内のトランザクションの整合性を検証したうえで、一つ前のブロックのハッシュ値(任意のデータをハッシュ関数という関数で演算処理して求める値で、必ず一定の長さの値になる)を当該のブロックに含めて新たにハッシュ値を求める。このハッシュ値は、同様に次のブロックのなかに含まれることになり、ブロックがハッシュ値によって鎖のようにつながっていくことから、ブロックチェーンと呼ばれる。
トランザクションデータを改ざんすると、次のブロックに含まれるハッシュ値が変わってしまい、そこから連なるすべてのブロックのデータも変わってしまう。そのため、改ざんの事実はすぐに判明し、ハッシュ値は記録改ざん対策として機能している。結果として、ノードが自由に参加できるパブリックなネットワーク上のブロックチェーンは、高度な外部監査性をもつことになる。
また、ビットコインには中央管理者がいるわけではなく、分散したノード間で合意形成し、一つの正当なデータを共有するためのアルゴリズムとして「Proof of Work」を採用している。この合意形成アルゴリズムは、Proof of Workのほかにも、その弱点を補うような手法がいくつか考案されている。
一方で、最近では、ネットワークに参加するノードを信頼できるものに制限する、プライベート型やコンソーシアム型のブロックチェーンも提案されている。こうした手法により、合意形成の仕組みを簡略化して処理能力を上げることができるようになる。ただし、前号でカレンシーポートの杉井靖典・代表取締役CEOのコメントを紹介したように、パブリック型ブロックチェーンの特徴である、中央管理者がいなくても分散したノード同士で合意形成できることや、高い外部監査性をもつことこそがブロックチェーンの価値だとする意見もある。
市場の立ち上げを牽引
昨年後半あたりから、大手金融機関と大手SIer、クラウドインフラサービスベンダーを含む総合ITベンダー、そしてブロックチェーン専門のスタートアップ企業などがスクラムを組み、ブロックチェーンの実証実験プロジェクトを相次いで開始した。まさに日本におけるブロックチェーンの市場が立ち上がり始めたわけだが、ここにきて、市場は次のフェーズに移りつつある。
その象徴が、関連企業などによる業界団体設立の動きだ。まず、4月25日には、国内初のブロックチェーン業界団体「ブロックチェーン推進協会(Blockchain Collaborative Consortium、BCCC)」が発足した。理事長は、インフォテリアの平野洋一郎社長、副理事長は、テックビューロの朝山貴生社長とカレンシーポートの杉井靖典代表取締役CEOが務める。また、理事にはさくらインターネットの田中邦裕社長と、日本マイクロソフトの大谷健・エグゼクティブプロダクトマネージャー(新規ビジネス担当)が就いた。発起メンバーは34社だが、5月2日時点で、早くも43社まで会員が増えている。
発足当日、BCCCは記者会見を開き、平野理事長が、「ブロックチェーンは、金融の垣根を越えて、さまざまな業界の情報システムの進化に貢献できる可能性がある。また、日本は世界に比べてブロックチェーンの技術開発で後れを取っているわけでもない。しかし、こうした実績や技術情報が共有されていないという問題がある。これを打破するために、ブロックチェーンの普及啓発や適用領域の拡大に向けた活動を行っていく」と、設立趣旨を説明した。
BCCCが発足した二日後の4月27日には、日本ブロックチェーン協会(Japan Blockchain Association、JBA)も発足した。こちらは、ビットコインなど仮想通貨の自主規制・政策提言団体として発足した日本価値記録事業者協会(JADA)を改組したかたちだ。代表理事には、bitFlyerの加納裕三代表取締役、理事にはPayward Japanのジェシー・パウエル代表取締役、Orbの仲津正朗代表取締役が就任した。発足時の加盟企業は、正会員15社、賛助会員が13社の28社。ブロックチェーン技術を「日本経済の発展を支える仕組みの一つ」とすべく、政策提言や普及促進のための活動を進めてくという。 ページ数:1/1 キャプション:BCCC、JBAの両団体を分析
実証実験をリードするBCCC
前ページで説明した二つの業界団体設立の動きを、もう少し詳しくみていく。
ここまでの登場企業を簡単に整理すると、まずテックビューロは、オープンソースのパブリックブロックチェーン「NEM」をベースに開発した「mijin」を、“国産初のプライベート・ブロックチェーン”と銘打って提供している。昨年12月には、住信SBIネット銀行が、野村総合研究所(NRI)やDragonfly Fintech(NEMのコアメンバーが経営の中核を成すシンガポールのフィンテック/ブロックチェーン企業)と協業し、既存の勘定システムをmijinを採用したブロックチェーンで代替することを想定した実証実験を行った。今年4月には、これが「成功した」、つまりは「銀行の勘定システムにブロックチェーンが適用できることを証明した」と発表している。具体的には、クラウド上に6台のノード構成のプライベートブロックチェーンを構築し、250万の仮想的な口座と、振り込み、入金、出金、残高照会、入出金明細照会の業務アプリケーションを用意。そのうえで業務シナリオに沿って処理を実行し、「1時間あたり9万トランザクションを処理する」「6ノード中5ノードをダウンさせる」「ハッキングプログラムを活用して改ざん攻撃を行う」といった厳しい環境下でも、勘定システムとして求められる機能、パフォーマンスを担保できたとしている。
BCCCの理事長会社であるインフォテリアは、このテックビューロと密接な協業関係を構築している。同社に出資するとともに、自社のデータ連携ツール「ASTERIA WARP」とmijinの専用接続アダプタを両社共同で開発。ノンプログラミングでmijinの機能を活用できるようにし、FinTechの文脈で語られることが多いブロックチェーンを、流通、製造、公共、医療など金融以外の分野にも適用する可能性を模索している。また、今年1月には、両社とさくらインターネットが協業し、さくらインターネットのクラウドサービス上で、mijinとASTERIA WARPを使うことができる実証実験プラットフォームを無償提供する取り組みを始めたが、現時点で200件を超える利用実績があるという。なお、インフォテリア以外にも、テックビューロと資本・業務提携を結んでいる複数の企業がBCCCに参加している。
テックビューロとともに副理事長会社を務めるカレンシーポートは、さまざまなブロックチェーン技術や既存の情報システムなどを簡単につなげるAPIプラットフォームである「Deals4」を提供している。みずほフィナンシャルグループ、電通国際情報サービス、日本マイクロソフトと共同で、シンジケートローン業務へのブロックチェーン適用の実証実験や、ブロックチェーンによる株式情報管理強化を目的としたNRIの実証実験などを、技術面で牽引している。具体的には、ブロックチェーンを使ったシステムの開発・実装、さらにはSIerのエンジニアに対するOJTなども担当している。
また、日本マイクロソフトは、昨年から、「Microsoft Azure」上に、ブロックチェーンを活用したソリューション開発を支援する「Azure Blockchain as a Service(Azure BaaS)」を提供している。前述の実証実験にも同サービスを提供しているが、これだけでなく、スタートアップ支援プログラムの「Microsoft BizSpark」(開発ツール、クラウド環境、技術サポート、ビジネス支援サービスなどを3年間無償で利用できる)も展開していて、カレンシーポートは同プログラムを活用している。
こうしてみると、BCCCは、現時点で市場の立ち上げをリードするブロックチェーン企業とその協力企業が中心になっているといえる。
金融色が強いJBA
一方のJBAは、JADAからの改組ということもあり、ビットコイン関連事業者が主導している。BCCCに比べ、金融領域寄りという印象だ。4月26日に、総額30億円の大規模な資金調達を行ったことを発表した代表理事会社のbitFlyerは、ブロックチェーン関連事業への投資にも積極的だが、ビットコイン取引所・販売所の運営などがビジネスの根幹を成す。理事会社であるPayward Japanの米本社であるPaywardも、ビットコインをはじめとする暗号通貨の取引所「Kraken」を運営する企業だ。
ただし、JBAには、独自のブロックチェーンコア技術をもつ企業であるOrbが理事会社として参画している。Orbは、オリックス、オリックス銀行、静岡銀行、NTTデータ、NTTドコモ・ベンチャーズと共同で、ブロックチェーンを活用した新しい金融サービス開発に向けた研究に着手すると発表している。海外送金、決済システムなどへのブロックチェーンの適用可能性を、プロトタイプアプリケーションの構築までを視野に実証していく方針だという。
また、デロイトトーマツコンサルティング合同会社も、賛助会員ではあるものの、政策提言などでは中心的な役割を担っていく模様だ。
SIerを取り込んだエコシステムを
JBAの前身であるJADAは、もともと自由民主党IT戦略特命委員会資金決済小委員会の提言を受けて設立されたもので、設立記者会見は衆議院議員会館で大々的に開催し、同小委員会のトップを務める福田峰之衆議院議員がJBAの活動に対する期待を語った。
一方で、BCCCの設立記者会見は、今年2月に東京・大手町の東京銀行協会ビルに開設されたFinTechスタートアップのためのコワーキングスペース「FINOLAB(フィノラボ)」で開催し、イノベーション色を前面に押し出した格好だ。両者の性質の違いが端的に表れたポイントといえそうだ。
今後、両者の関係がどうなるのかも注目されるが、公式回答としては、お互いに、「連携を模索していく」方針だという。ただ、日本マイクロソフト、カレンシーポートをはじめ、複数の企業が両協会に加盟しており、そうした連携の下地はすでにあるとの見方もできそうだ。
ブロックチェーン市場を本格的に立ち上げるための今後の課題としては、両協会とも共通して、「SIerを取り込んだエコシステムの構築」を挙げている。あらためて説明するまでもないが、国内では、ユーザー側にITの知見が乏しいケースがほとんどで、ユーザーが、ブロックチェーンを使った新しいサービスを実現するためには、ブロックチェーンのエキスパートであるスタートアップ企業とユーザーの間に、SIerという企業システムのプロ集団が必要になるというわけだ。しかし、SIerとブロックチェーンの専門企業は、ブロックチェーンに対する見解が必ずしも一致しているわけではなく、その整合をどう図っていくかも大きな課題になりそうだ。
SIerはブロックチェーンをどうみる
日本の金融システムはすでに高レベル
ブロックチェーン専門企業が重要なパートナーとして位置づけるSIerは、ブロックチェーンをどう捉えているのだろうか。
電通国際情報サービス(ISID)は、国内最大規模のFinTechイベント「金融イノベーションビジネスカンファレンス」を例年主催するなど、もともと強みをもっていた金融分野で、先進技術を取り込んだイノベーションに注力している。その一環で、ブロックチェーンにも早くから着目しており、2014年秋の段階で、米Rippleにコンタクトしていたという。Rippleは、いまやビットコインに次ぐ規模になった暗号通貨「XRP」を発行しているが、それだけにとどまらず、ブロックチェーン技術を活用し、複数の法定通貨を交換・送金できる海外送金ソリューションも提供している。
高木幸雄
プロジェクトディレクター 金融ソリューション事業部グローバルアカウントビジネス第2ユニット市場系ソリューション1部兼金融事業開発部の高木幸雄・プロジェクトディレクターは、「ビットコインのような仮想通貨ではなく、分散帳票技術を使って法定通貨をリアルタイムに海外送金できるRippleのソリューションに大きな可能性を感じ、昨年も引き続きずっと追いかけてきた。日本の金融機関のお客様も、リアルマネーに使えるというところに大きな関心を寄せていて、Ripple(の幹部)が昨年来日したときも、邦銀にはすべて当社が仲介役となってご案内した」と話す。
ただ、海外でこそRippleはすでに30行ほどの銀行とPoCを進めているというが、日本では「なかなかそこまでいっていない」(高木プロジェクトディレクター)のが現状。さらに高木プロジェクトディレクターは、次のように続ける。「実は日本の金融システムは非常に進んでいて、国内送金などは、平日であれば銀行をまたいでも10秒ほどで完了する。これにはRippleの幹部も驚いていた。というのも、例えば米国は、国内送金でも2日かかってしまうような状況を抱えているのだ。日本では、従来のシステムのほうがいいという結論になってしまうケースも多々あるだろう。ブロックチェーンをどう使ったら価値を発揮できるのかというのは、お客様もまだわかっていない。ブロックチェーン自体はかなりインパクトのある技術だと考えているが、まずは金融の業務を知っている人間がブロックチェーンの技術を正確に理解して、有効な使い方を考えることができる環境を整える必要がある。それは、われわれのようなSIerの役割でもある」。
「まだ未知数」がSIerの見方
一方で、前記事で紹介したように、mijinは銀行の勘定システムへの適用を前提とした実証実験にも採用されている。テックビューロは、mijinによって「2018年までに金融機関システムのインフラコストを10分の1未満に削減する」ことを目標に掲げているが、これは当然、既存の金融システムを低コストで代替するという用途を考慮した結果だ。しかし高木プロジェクトディレクターは、ブロックチェーンについて、既存の勘定システムを置き換えていくような技術だとは、少なくとも現時点では考えていないという。同じ大手SIerというくくりでは、NRIですら、ほぼ同様の、慎重な見通しを示している。同社は前述したとおり、住信SBIネット銀行などと共同で、mijinを使って勘定システムへのブロックチェーン適用の実証実験を行ったほか、国内の株式関連情報の管理機能の強化などを目的に、証券業務へのブロックチェーン適用の実証実験も行っている。
五十嵐文雄
上級コンサルタント NRIの五十嵐文雄・金融デジタルイノベーション推進室上級コンサルタントは、「いまは、耐改ざん性がどうかとか、単純にブロックチェーンがもつといわれる機能そのものを一つひとつ検証している段階。正直にいって、ブロックチェーンにビジネス上どんなポテンシャルがあるのかは、既存の金融システムをどの程度低コストで代替できるのかも含めて、まだ全然わからない」と話す。同じくNRIの畑島崇宏・システムコンサルティング事業本部ITマネジメントコンサルティング部上級コンサルタントも、「インターネットが登場した時に、どう役立つのか最初はほとんどの人がわからなかったのと近い。ただ、インターネットはそれまでホストコンピュータで動いていたシステムを代替したわけではなく、新しいサービスを生み出すのに使われて価値を発揮した。おそらくブロックチェーンも同じではないか」と続ける。
畑島崇宏
上級コンサルタント また、同じくブロックチェーンに関する取り組みをすでに始めている大手SIerであるNTTデータも、ブロックチェーンを既存技術を代替するのではなく、価値を付加する技術だと定義しており、勘定システムへの適用についても否定的だ。
まずは新サービスへの適用から
こうしたSIerのスタンスについて、BCCCの理事長に就任したインフォテリアの平野洋一郎社長は、「ブロックチェーンはまだまだ金融分野での活用を検討するケースが圧倒的に多い。ただ、この分野で大きな既存のビジネスを抱えている大手SIerが、積極的に既存技術を置き換えるためにブロックチェーンを提案していくことは残念ながらないだろう」と漏らす。そのうえで、「当面は金融を含め、さまざまな領域の新しいサービスづくりに使われるところからブロックチェーンが普及していくのは間違いない。しかし既存のシステムにも、リプレースのタイミングになればブロックチェーンが使われる可能性は十分にあるし、われわれはそういう環境をつくっていきたい。REBもXMLも、革新的な技術は普及に時間がかかったのだから」と、SIerを含めたエコシステム構築に、中長期的な視野で取り組んでいくことを示唆している。
もう一度簡単に解説
ブロックチェーンのしくみ
ブロックチェーンは、ビットコインとともに生まれたP2P方式のデータ処理基盤技術だ。日本語では、分散型台帳と表現されることが多い。文字通り、ネットワーク内のすべてのトランザクションを記録するデータベースのような役割をもち、かつ、ネットワークに参加しているすべてのノードが同じデータを保持することが、「分散型」とよばれる所以だ。耐改ざん性が高く、可用性にもすぐれているといわれる。 複数のトランザクションデータの塊を一つのブロックとし、新しいブロックを生成する際は、ブロック内のトランザクションの整合性を検証したうえで、一つ前のブロックのハッシュ値(任意のデータをハッシュ関数という関数で演算処理して求める値で、必ず一定の長さの値になる)を当該のブロックに含めて新たにハッシュ値を求める。このハッシュ値は、同様に次のブロックのなかに含まれることになり、ブロックがハッシュ値によって鎖のようにつながっていくことから、ブロックチェーンと呼ばれる。
トランザクションデータを改ざんすると、次のブロックに含まれるハッシュ値が変わってしまい、そこから連なるすべてのブロックのデータも変わってしまう。そのため、改ざんの事実はすぐに判明し、ハッシュ値は記録改ざん対策として機能している。結果として、ノードが自由に参加できるパブリックなネットワーク上のブロックチェーンは、高度な外部監査性をもつことになる。
ブロックがハッシュ値で鎖のようにつながっていく
また、ビットコインには中央管理者がいるわけではなく、分散したノード間で合意形成し、一つの正当なデータを共有するためのアルゴリズムとして「Proof of Work」を採用している。この合意形成アルゴリズムは、Proof of Workのほかにも、その弱点を補うような手法がいくつか考案されている。
一方で、最近では、ネットワークに参加するノードを信頼できるものに制限する、プライベート型やコンソーシアム型のブロックチェーンも提案されている。こうした手法により、合意形成の仕組みを簡略化して処理能力を上げることができるようになる。ただし、前号でカレンシーポートの杉井靖典・代表取締役CEOのコメントを紹介したように、パブリック型ブロックチェーンの特徴である、中央管理者がいなくても分散したノード同士で合意形成できることや、高い外部監査性をもつことこそがブロックチェーンの価値だとする意見もある。
二つの業界団体が相次いで発足
まずはブロックチェーン専門企業が市場の立ち上げを牽引
昨年後半あたりから、大手金融機関と大手SIer、クラウドインフラサービスベンダーを含む総合ITベンダー、そしてブロックチェーン専門のスタートアップ企業などがスクラムを組み、ブロックチェーンの実証実験プロジェクトを相次いで開始した。まさに日本におけるブロックチェーンの市場が立ち上がり始めたわけだが、ここにきて、市場は次のフェーズに移りつつある。
その象徴が、関連企業などによる業界団体設立の動きだ。まず、4月25日には、国内初のブロックチェーン業界団体「ブロックチェーン推進協会(Blockchain Collaborative Consortium、BCCC)」が発足した。理事長は、インフォテリアの平野洋一郎社長、副理事長は、テックビューロの朝山貴生社長とカレンシーポートの杉井靖典代表取締役CEOが務める。また、理事にはさくらインターネットの田中邦裕社長と、日本マイクロソフトの大谷健・エグゼクティブプロダクトマネージャー(新規ビジネス担当)が就いた。発起メンバーは34社だが、5月2日時点で、早くも43社まで会員が増えている。
国内初のブロックチェーン業界団体となったBCCC
発足当日、BCCCは記者会見を開き、平野理事長が、「ブロックチェーンは、金融の垣根を越えて、さまざまな業界の情報システムの進化に貢献できる可能性がある。また、日本は世界に比べてブロックチェーンの技術開発で後れを取っているわけでもない。しかし、こうした実績や技術情報が共有されていないという問題がある。これを打破するために、ブロックチェーンの普及啓発や適用領域の拡大に向けた活動を行っていく」と、設立趣旨を説明した。
ビットコインなど仮想通貨の自主規制・政策提言団体として発足したJADAはJBAに改組
BCCCが発足した二日後の4月27日には、日本ブロックチェーン協会(Japan Blockchain Association、JBA)も発足した。こちらは、ビットコインなど仮想通貨の自主規制・政策提言団体として発足した日本価値記録事業者協会(JADA)を改組したかたちだ。代表理事には、bitFlyerの加納裕三代表取締役、理事にはPayward Japanのジェシー・パウエル代表取締役、Orbの仲津正朗代表取締役が就任した。発足時の加盟企業は、正会員15社、賛助会員が13社の28社。ブロックチェーン技術を「日本経済の発展を支える仕組みの一つ」とすべく、政策提言や普及促進のための活動を進めてくという。 ページ数:1/1 キャプション:
BCCC、JBAの両団体を分析
主導権争いに発展するのか?
実証実験をリードするBCCC 前ページで説明した二つの業界団体設立の動きを、もう少し詳しくみていく。
ここまでの登場企業を簡単に整理すると、まずテックビューロは、オープンソースのパブリックブロックチェーン「NEM」をベースに開発した「mijin」を、“国産初のプライベート・ブロックチェーン”と銘打って提供している。昨年12月には、住信SBIネット銀行が、野村総合研究所(NRI)やDragonfly Fintech(NEMのコアメンバーが経営の中核を成すシンガポールのフィンテック/ブロックチェーン企業)と協業し、既存の勘定システムをmijinを採用したブロックチェーンで代替することを想定した実証実験を行った。今年4月には、これが「成功した」、つまりは「銀行の勘定システムにブロックチェーンが適用できることを証明した」と発表している。具体的には、クラウド上に6台のノード構成のプライベートブロックチェーンを構築し、250万の仮想的な口座と、振り込み、入金、出金、残高照会、入出金明細照会の業務アプリケーションを用意。そのうえで業務シナリオに沿って処理を実行し、「1時間あたり9万トランザクションを処理する」「6ノード中5ノードをダウンさせる」「ハッキングプログラムを活用して改ざん攻撃を行う」といった厳しい環境下でも、勘定システムとして求められる機能、パフォーマンスを担保できたとしている。
BCCCの理事長会社であるインフォテリアは、このテックビューロと密接な協業関係を構築している。同社に出資するとともに、自社のデータ連携ツール「ASTERIA WARP」とmijinの専用接続アダプタを両社共同で開発。ノンプログラミングでmijinの機能を活用できるようにし、FinTechの文脈で語られることが多いブロックチェーンを、流通、製造、公共、医療など金融以外の分野にも適用する可能性を模索している。また、今年1月には、両社とさくらインターネットが協業し、さくらインターネットのクラウドサービス上で、mijinとASTERIA WARPを使うことができる実証実験プラットフォームを無償提供する取り組みを始めたが、現時点で200件を超える利用実績があるという。なお、インフォテリア以外にも、テックビューロと資本・業務提携を結んでいる複数の企業がBCCCに参加している。
主なブロックチェーン関連企業のレイヤ分け
テックビューロとともに副理事長会社を務めるカレンシーポートは、さまざまなブロックチェーン技術や既存の情報システムなどを簡単につなげるAPIプラットフォームである「Deals4」を提供している。みずほフィナンシャルグループ、電通国際情報サービス、日本マイクロソフトと共同で、シンジケートローン業務へのブロックチェーン適用の実証実験や、ブロックチェーンによる株式情報管理強化を目的としたNRIの実証実験などを、技術面で牽引している。具体的には、ブロックチェーンを使ったシステムの開発・実装、さらにはSIerのエンジニアに対するOJTなども担当している。
また、日本マイクロソフトは、昨年から、「Microsoft Azure」上に、ブロックチェーンを活用したソリューション開発を支援する「Azure Blockchain as a Service(Azure BaaS)」を提供している。前述の実証実験にも同サービスを提供しているが、これだけでなく、スタートアップ支援プログラムの「Microsoft BizSpark」(開発ツール、クラウド環境、技術サポート、ビジネス支援サービスなどを3年間無償で利用できる)も展開していて、カレンシーポートは同プログラムを活用している。
こうしてみると、BCCCは、現時点で市場の立ち上げをリードするブロックチェーン企業とその協力企業が中心になっているといえる。
金融色が強いJBA
一方のJBAは、JADAからの改組ということもあり、ビットコイン関連事業者が主導している。BCCCに比べ、金融領域寄りという印象だ。4月26日に、総額30億円の大規模な資金調達を行ったことを発表した代表理事会社のbitFlyerは、ブロックチェーン関連事業への投資にも積極的だが、ビットコイン取引所・販売所の運営などがビジネスの根幹を成す。理事会社であるPayward Japanの米本社であるPaywardも、ビットコインをはじめとする暗号通貨の取引所「Kraken」を運営する企業だ。
ただし、JBAには、独自のブロックチェーンコア技術をもつ企業であるOrbが理事会社として参画している。Orbは、オリックス、オリックス銀行、静岡銀行、NTTデータ、NTTドコモ・ベンチャーズと共同で、ブロックチェーンを活用した新しい金融サービス開発に向けた研究に着手すると発表している。海外送金、決済システムなどへのブロックチェーンの適用可能性を、プロトタイプアプリケーションの構築までを視野に実証していく方針だという。
また、デロイトトーマツコンサルティング合同会社も、賛助会員ではあるものの、政策提言などでは中心的な役割を担っていく模様だ。
SIerを取り込んだエコシステムを
JBAの前身であるJADAは、もともと自由民主党IT戦略特命委員会資金決済小委員会の提言を受けて設立されたもので、設立記者会見は衆議院議員会館で大々的に開催し、同小委員会のトップを務める福田峰之衆議院議員がJBAの活動に対する期待を語った。
一方で、BCCCの設立記者会見は、今年2月に東京・大手町の東京銀行協会ビルに開設されたFinTechスタートアップのためのコワーキングスペース「FINOLAB(フィノラボ)」で開催し、イノベーション色を前面に押し出した格好だ。両者の性質の違いが端的に表れたポイントといえそうだ。
今後、両者の関係がどうなるのかも注目されるが、公式回答としては、お互いに、「連携を模索していく」方針だという。ただ、日本マイクロソフト、カレンシーポートをはじめ、複数の企業が両協会に加盟しており、そうした連携の下地はすでにあるとの見方もできそうだ。
ブロックチェーン市場を本格的に立ち上げるための今後の課題としては、両協会とも共通して、「SIerを取り込んだエコシステムの構築」を挙げている。あらためて説明するまでもないが、国内では、ユーザー側にITの知見が乏しいケースがほとんどで、ユーザーが、ブロックチェーンを使った新しいサービスを実現するためには、ブロックチェーンのエキスパートであるスタートアップ企業とユーザーの間に、SIerという企業システムのプロ集団が必要になるというわけだ。しかし、SIerとブロックチェーンの専門企業は、ブロックチェーンに対する見解が必ずしも一致しているわけではなく、その整合をどう図っていくかも大きな課題になりそうだ。
SIerはブロックチェーンをどうみる
既存システムを置き換えるのか?
日本の金融システムはすでに高レベル ブロックチェーン専門企業が重要なパートナーとして位置づけるSIerは、ブロックチェーンをどう捉えているのだろうか。
電通国際情報サービス(ISID)は、国内最大規模のFinTechイベント「金融イノベーションビジネスカンファレンス」を例年主催するなど、もともと強みをもっていた金融分野で、先進技術を取り込んだイノベーションに注力している。その一環で、ブロックチェーンにも早くから着目しており、2014年秋の段階で、米Rippleにコンタクトしていたという。Rippleは、いまやビットコインに次ぐ規模になった暗号通貨「XRP」を発行しているが、それだけにとどまらず、ブロックチェーン技術を活用し、複数の法定通貨を交換・送金できる海外送金ソリューションも提供している。

高木幸雄
プロジェクトディレクター
ただ、海外でこそRippleはすでに30行ほどの銀行とPoCを進めているというが、日本では「なかなかそこまでいっていない」(高木プロジェクトディレクター)のが現状。さらに高木プロジェクトディレクターは、次のように続ける。「実は日本の金融システムは非常に進んでいて、国内送金などは、平日であれば銀行をまたいでも10秒ほどで完了する。これにはRippleの幹部も驚いていた。というのも、例えば米国は、国内送金でも2日かかってしまうような状況を抱えているのだ。日本では、従来のシステムのほうがいいという結論になってしまうケースも多々あるだろう。ブロックチェーンをどう使ったら価値を発揮できるのかというのは、お客様もまだわかっていない。ブロックチェーン自体はかなりインパクトのある技術だと考えているが、まずは金融の業務を知っている人間がブロックチェーンの技術を正確に理解して、有効な使い方を考えることができる環境を整える必要がある。それは、われわれのようなSIerの役割でもある」。
「まだ未知数」がSIerの見方
一方で、前記事で紹介したように、mijinは銀行の勘定システムへの適用を前提とした実証実験にも採用されている。テックビューロは、mijinによって「2018年までに金融機関システムのインフラコストを10分の1未満に削減する」ことを目標に掲げているが、これは当然、既存の金融システムを低コストで代替するという用途を考慮した結果だ。しかし高木プロジェクトディレクターは、ブロックチェーンについて、既存の勘定システムを置き換えていくような技術だとは、少なくとも現時点では考えていないという。同じ大手SIerというくくりでは、NRIですら、ほぼ同様の、慎重な見通しを示している。同社は前述したとおり、住信SBIネット銀行などと共同で、mijinを使って勘定システムへのブロックチェーン適用の実証実験を行ったほか、国内の株式関連情報の管理機能の強化などを目的に、証券業務へのブロックチェーン適用の実証実験も行っている。

五十嵐文雄
上級コンサルタント

畑島崇宏
上級コンサルタント
まずは新サービスへの適用から
こうしたSIerのスタンスについて、BCCCの理事長に就任したインフォテリアの平野洋一郎社長は、「ブロックチェーンはまだまだ金融分野での活用を検討するケースが圧倒的に多い。ただ、この分野で大きな既存のビジネスを抱えている大手SIerが、積極的に既存技術を置き換えるためにブロックチェーンを提案していくことは残念ながらないだろう」と漏らす。そのうえで、「当面は金融を含め、さまざまな領域の新しいサービスづくりに使われるところからブロックチェーンが普及していくのは間違いない。しかし既存のシステムにも、リプレースのタイミングになればブロックチェーンが使われる可能性は十分にあるし、われわれはそういう環境をつくっていきたい。REBもXMLも、革新的な技術は普及に時間がかかったのだから」と、SIerを含めたエコシステム構築に、中長期的な視野で取り組んでいくことを示唆している。
革新的な技術として注目を集めるブロックチェーンだが、実際にマーケットが立ち上がるのはこれからの話だ。日本でも、昨年後半から実証実験が相次いでスタートし、多くのプレイヤーが「宝の山」を掘りあてるべく動き始めている。ブロックチェーンの“超初心者”向け特集後半は、ブロックチェーン専業のスタートアップ、大手SIerなどの動きにフォーカスし、マーケットの行く末を展望する。(取材・文/本多和幸)
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