今、教育現場ではネットワーク環境や情報端末の整備など、情報化社会にふさわしい教育の実現に向け、ICTを利活用するための動きが着実に広がっている。そうしたなか、大手ITベンダーの文教市場向けビジネスへの取り組みを追うと、教育現場の現状や、ICTを活用した教育の未来像がみえてきた。本特集では、大手2社の文教市場向けビジネスから、ICTが導く教育の現在と未来を解説する。(取材・文/前田幸慧)
●導入は増加、教員のスキルがカギ 政府は現在、教育現場でのICT活用を推進している。2013年に閣議決定された高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)の「世界最先端IT国家創造宣言」では、20年までに小・中・高、特別支援学校などすべての学校で教育環境のIT化を実現させることが示されている。また、同年の文部科学省「第2期教育振興基本計画等」(平成25年度~29年度)では、教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数3.6人(内訳:コンピュータ教室40台、各普通教室1台、特別教室6台、設置場所を固定しない可動式コンピュータ40台)、電子黒板・実物投影機を1学級に1台整備するといった目標水準を定めたほか、無線LANや学習用ソフトウェアの整備、ICT支援員の配置などを促している。
では現状、教育現場にICTの導入はどの程度進んでいるのか。文部科学省の「平成26年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査」によると、15年3月時点の教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数は6.4人。ここ5年ほど、この数値は横ばいで推移しており、基本計画が対象とする17年度までに1台あたり3.6人を目指すことを踏まえれば、今後、本格的に情報端末の導入が進んでいく可能性がある。なかでも、とくにタブレット端末の導入数の伸びが顕著で、13年度と14年度を比較すると14年度は前年比2倍以上の導入数があることから、タブレット端末へのニーズが高いことがみて取れる。ITベンダーにとっては、タブレット端末がビジネスチャンスにつながるといえるだろう。また、15年3月時点で電子黒板のある学校の割合は全国平均で78%、普通教室の校内LAN整備率は86.4%、教員の校務用コンピュータ整備率は113.9%(共用を含むため100%を超過)、校務支援システムのある学校は81.9%など、整備が進んでいるとみられる。

一方、ICTを導入したとしても、それをどこまで教員が利活用できているかは別問題。教員のICT活用指導力の推移をみると、教員が授業準備や校務でICTを活用する能力については比較的高い数値を示しているが、ICTを活用して“指導する”能力については2~3人に1人が課題を抱えているとみられる。少なくとも、現在、一線で活躍している教員の多くは、学生時代、ICTを活用した教育に親しんでいたわけではない。ITベンダーにとっては、真に現場でのICT化を実現するためには、ユーザーフレンドリーなシステムを用意したり、ICTの活用を十分にサポートしたりと、何らかの取り組みが必要となるだろう。

●豊富なラインアップで勝負 次ページからは、IT業界を代表する大手ベンダーが、小・中・高だけでなく大学も含めた文教市場でどのような取り組みを行っているかをみていきたい。本特集にあたっては、富士通とNECの2社を取材した。なお、先に両社の文教市場向けビジネスの基本情報について紹介する。両社に共通しているのは、幅広いラインアップを揃えているという点だ。

富士通では、小・中・高、大学、公共図書館・博物館・美術館を対象としたソリューションを用意している。小・中・高向けでは主に公立学校を対象に、生徒の学習を支援する端末や学習に役立つツール、教員の教務や校務を支援するシステムの構築などを提供。大学には国公立・私立を問わず、クラウド環境などのインフラ基盤の構築や授業支援システム、教務事務システム、図書館システムなどの各種業務支援システムを幅広く手がけている。「(学校側から)求められているものに対して、一つひとつ応えていく」というスタンスだ。
一方、NECの文教ソリューションは、公立の小・中学校、国公立と私立の大学、国立研究機関向けに分類。サーバーやPC、タブレット端末や電子黒板などハードウェアをはじめ、ネットワークやクラウドのインフラ構築、小・中学校では校務支援システム、大学では授業支援や業務システムや図書館システムなどを提供している。
[次のページ]