クラウドの活用は、オンプレミスの代替ではおもしろくない。基幹システムをクラウドで稼働させるのは、クラウドの進化を証明することになるものの、クラウドの真価を発揮しているとはいえないからだ。クラウドの柔軟性やスピードは、イノベーションのエンジンとなってこそ、本当の価値を見出すことができる。ITの可能性を拡げるIoT(Internet of Things)は、その代表選手だ。
IoTにはクラウドの理由
IoTは、あらゆるシステムがそうであるのと同様に、オンプレミスで構築した環境でも活用できる。クラウドは必須の要件ではない。ただ、クラウドであることが、IoTを始めるにあたって優位な点が多い。それはつまり、IoTといえばクラウドということを意味する。
では、Amazon Web Services(AWS)から「IoTといえばクラウド」の理由を挙げてみよう。
●低コスト 一つは、低コストであるということ。拡張が容易なクラウドでは、システムのピークを想定したシステム環境を用意する必要がないため、初期投資を抑えることができる。システムが不要になれば、クラウドの利用をやめるだけでよい。
IoTでは、どれだけのデータ量が発生するのかをあらかじめ予想することが難しいケースがある。想定以上のデータ量の処理が必要となればサーバーなどを増強しなければならないが、オンプレミス環境では調達に時間がかかってしまう。クラウドであれば、自動的に増強することができる。また、IoT関連のシステムが期待通りの効果がなかった場合、クラウドであれば物理的なIT資産を抱えないため、システム利用を中止するという判断もしやすい。
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アマゾン ウェブ サービス ジャパン
榎並利晃
事業開発部マネージャー 二つ目は、グローバル展開が容易ということ。グローバルなサービスであるAWSは、海外でも同様の環境を容易に用意できる。製造拠点をグローバルで展開している製造業などにおいて、IoT関連のシステムを構築するには、グローバルで共通の調達ができるサービスはありがたい。とくに製造業では、海外の工場内の機械にセンサを取り付けて、国内の本部からリモートで監視するというIoT活用が想定される。
●セキュリティ 三つ目は、セキュリティ。IoTデバイスから取得したデータは、安全に管理することが求められる。そのための環境をユーザーが用意するよりも、IoT環境を想定したセキュリティサービスを提供しているクラウドを活用したほうが、すばやく設定でき、確実に運用できる。ちなみに、オンプレミスからクラウドへの切り替え理由では、セキュリティを挙げるユーザーが増えている。自社で管理するよりも専門家による管理のほうが安心というわけだ。
●多彩なサービス 最後が多くのサービスが用意されているということ。IoTで有効活用できるサービスも多く用意されていて、オンプレミスでゼロから開発するよりも、圧倒的なスピードでIoT関連システムを構築できる。また、新しいサービスが続々と登場するのも、AWSの特徴である。「AWSを活用していくなかで欲しいと思うような機能は、すぐに提供される」とは、多くのエンジニア評である。
IoTにおける機能要件
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IoTで求められる機能要件は、図1のように大きく二つに分けることができる。
一つ目は、「データ収集/分析」。センサなどを活用して、位置情報を管理したり、状態を監視したり、動線を把握したりする「モニタリング」。稼働実績や異常監視などに使う「予防予知保全」。保守作業を指示する「作業効率・自動化」。これらがデータ収集/分析によって実現する。
「以前は、限定された範囲内でデータ収集/分析が行われていたが、より広範囲にIoTを活用するという動きがある。例えば、企画から製造、物流、販売、保守というワークロード全体にIoTを適用することで、製品サイクルの最適化に取り組んでいる」と、アマゾンウェブサービスジャパンの榎並利晃・事業開発部マネージャーはIoTの動向を語る。消費者の動向を把握できれば、ファンを増やすための“囲い込みツール”としての活用も考えられる。
二つ目は、「リモート制御」。遠隔操作による作業下での運用などが相当する。大規模農場では、GPSによる位置情報を活用した自動運転の耕作機などが活用され始めている。
機能要件とAWS IoT

IoTの機能要件において、AWSのサービスを配置したのが図2である。このなかの「AWS IoT」は、その名の通り、IoT向けサービスで、IoTデバイスとAWSをセキュアに接続し、そこから得られるデータに対する処理やアクションを実行することができる。ほかにも、IoTデバイスが物理的に接続されていなくても、コマンドを伝達できる「デバイスシャドー」、多くのデバイスを管理するための「デバイスレジストリ」などの機能を備えている。
AWS IoTのサービスがリリースされたのは、2015年10月である。多くのユーザー企業では、まだ最適な活用方法を模索している段階にある。「IoTで何かをしなければという意識があっても、何をしたらいいのかわからないという声が多い。クラウドは初期導入コストが安いため、挑戦しやすい。失敗を恐れず、まずはトライしていただきたい」(榎並マネージャー)。AWSのパートナー企業もさまざまなIoTソリューションの提供を始めており、今後はよりIoTに取り組みやすくなると期待される。
サーバーレスとIoT
「サーバーレス」というクラウドサービスが注目され始めている。“サーバー”の概念をなくしたPaaS的なサービスで、クラウド上でサーバーを調達するといった作業を不要にする。その代表的なサービスが、イベント駆動型のプログラム実行環境「AWS Lambda(ラムダ)」である。Lambdaでは、プログラムの実行時間と実行回数が課金の対象となる。例えば、「Amazon EC2」では処理時間に関係なく時間単位で課金されるが、Lambdaでは1分の処理なら1分の料金しかかからない。
IoTではセンサから得たデータを蓄積し、異常値を発見した場合に処理を行うというケースがある。常にプログラムが稼働しているわけではないため、Lambdaのようなイベント駆動型のサービスがコストの最適化につながることになる。IoTとサーバーレスは、非常に親和性が高いのである。