富士通は昨年12月、パブリッククラウドIaaS/PaaSの「FUJITSU Cloud Service K5」を発表し、同市場のメインプレイヤーとなるべく、グローバル市場に打って出るための狼煙を上げた。コンピューティング資産のスケールと海外データセンターの整備状況を考えれば、「規模」が重要になるIaaS/PaaSのビジネスでは、グローバルベンダーとして活躍し得る国産企業は限られる。その貴重な1社と目される富士通は、蓄積してきたSIと豊富な業務ノウハウをIaaS/PaaSにも注入し、他社との差異化を図っている。(取材・文/本多和幸)
富士通の強みはSoRとSoEの連携
「デジタル変革」や「デジタルトランスフォーメーション」は、エンタープライズIT市場における今年の流行語といってもいい。富士通が昨年、これを支える自社の既存製品・サービスや今後の開発ロードマップを体系的に整理し、デジタルビジネスのプラットフォームとして打ち出したブランドが「MetaArc」だ。そして、その中核として、FUJITSU Cloud Service K5(K5)をリリースした。


宮沢健太
統括部長 富士通が考えるデジタル変革とは、従来の業務システムなどを指す「SoR(Systems of Record)」のクラウド移行やモダナイズと、モバイル、ソーシャル、IoT、AIなどを取り入れた顧客の新しいビジネス創出のための「SoE(Systems of Engagement)」構築の両方を実行し、両者を連携・融合させることで、顧客の競争力強化と、新しいビジネスの創出に貢献できるソリューションの提供を目指すというものだ。宮沢健太・統合商品戦略本部MetaArcビジネス推進統括部統括部長は、「SoRとSoEをきちんとつなげるクラウドを提供できるのが、他社との差異化ポイント」だと説明する。
富士通の強みは、なんといっても国内最大のシステムインテグレータとしての実績だ。これを生かし、MetaArcの傘の下に、PoCなどデジタルビジネス創出のプロセス・手法をテンプレート化して提供する仕組みを整えているが、これはあくまでも富士通のSIサービスありきのモデルといえる。しかしK5には、富士通のSIのノウハウ・技術力を生かした汎用機能もふんだんに盛り込み、エコシステムの形成・拡大によるパブリッククラウドとしての規模の追求にも本気で取り組むという。
社内実践でK5を強力にブラッシュアップ
K5は、先行するプロプライエタリなクラウドとは一線を画すべく、IaaS基盤ソフトとしてOSSの「OpenStack」を、また、SoE構築のためのPaaSの実行環境にも同じくOSSの「Cloud Foundry」を採用している。IaaSは、OpenStackをベースに、SoRでの利用、最終的にはミッションクリティカルシステムのクラウド運用にも耐えられるだけの改良を継続的に行っているという。SoR向けのPaaSでは、システムの性能や信頼性などの要件からインフラの最適構成までを自動的に設計・構築したり、基幹業務システムのモダナイズを効率化するサービスなども盛り込んだ。富士通は、国内外のグループすべての社内システム、約640システム、サーバー1万3000台をK5に移行中(現在114システムが移行・稼働済み)だが、このプロセスで培ったノウハウを商材化してK5のサービスに盛り込んでいくとともに、課題解決にもつなげる。また、米オラクルと協業し、K5のオプションとしてSoRで圧倒的な実績をもつ同社データベースのクラウド版も選択できるようになっている。

太田雅浩
本部長 太田雅浩・デジタルビジネスプラットフォーム事業本部本部長は、「クラウドはインフラの“共有”がなければ本質的なメリットは出ない。しかし、それと引き替えに、性能に関してはベストエフォート型のサービスになってしまったり、障害情報やメンテナンス情報がユーザーが求めるレベルで詳細には公開されないなどのデメリットも出てくる。それでも、それを大きく凌駕するメリットがあるからパブリッククラウドはここまで広がったわけだが、富士通は既存のベンダーとは違うアプローチを考えている。クラウド事業者の都合で発生しているデメリットを潰しつつ、共有のメリットを享受できるサービスをつくりあげたい。社内実践の成果などは、現在のところそれに大きく貢献しており、市場からの評価にもつながっていると自負している」と話す。
さらに、アプリケーション開発基盤の上のレイヤには、SoEを構築して新しいビジネスを始める顧客をサポートする、サブスクリプションビジネスのサポートサービス(ビジネス基盤サービス)や、シェアリングビジネスの基盤サービス、IoTのプラットフォームサービスやAIの「Zinrai」などのテクノロジーコンポーネントも順次整備している状況だ。SoEでの成長に向けては、ベンチャーのアクセラレータプログラムを始めるなど、K5を活用するサービサーのエコシステム拡大に取り組んでいるほか、従来の富士通パートナー、さらにはそれ以外の独立系SIパートナーなどにも協業の輪を広げ、K5ビジネスの裾野拡大を図っていく。