NTTコミュニケーションズは、「グローバルファースト」と「オープン」の二つを基本戦略として掲げている。主力の「Enterprise Cloud(エンタープライズクラウド)」のデータセンター(DC)は、国内外14か所に開設し、IaaS/PaaS部分は、いずれもオープンソースソフト(OSS)を採用しているのが特徴だ。同社は全社の海外売上高比率を今期見通しの24%から、2020年度までに40%に高める目標を掲げており、「Enterprise Cloud」事業においても同等か、それ以上の海外売上高を目指す。(取材・文/安藤章司)
「Cloud Foundry」を全面採用
「グローバルファースト」と「オープン」であることを重視するNTTコミュニケーションズは、同社の「Enterprise Cloud」のIaaSとPaaSの部分に、それぞれ世界的に広く活用されているオープンソースソフト(OSS)を採用。ユーザー企業は、「特定のクラウドサービスにロックインされることなく利用できる」(林雅之・クラウドサービス部クラウド・エバンジェリスト)環境を構築している。

林 雅之クラウド・エバンジェリスト(右)と千徳 永クラウドスペシャリスト
IaaSに採用している基盤は「OpenStack」、PaaS部分は「Cloud Foundry」を実装。Cloud Foundryの開発コミュニティにはIBMやDell EMC、ヴイエムウェア、Pivotal(ピボタル)、SAP、シスコなどが中心メンバーとして参加。日本からはNTTや富士通などが参加している。IBMのPaaS「Bluemix」にもその技術が採用されているほか、日本ではNTTコミュニケーションズが自社のEnterprise Cloudに積極的に採り入れている。

本業を変革するためのクラウド
林クラウド・エバンジェリストは、「これからのクラウドに求められるのは、アプリケーションの開発生産性の高さとオープンであること」だと指摘する。ITを活用したビジネス革新=デジタルトランスフォーメーションが進展するなか、ユーザー企業は、自らアプリケーションを開発するケースが増える傾向にあることが背景にあげられる。
「業務効率化やコスト削減のためのIT」から、「本業を変革するためのIT」へと投資の比重が移っていく流れのなかで、出来合いのパッケージソフトでは本業を変革できない。ユーザーの本業を変革するには、さまざまな独自のアプリケーションをユーザーが主体となってつくっていく必要がある。
そして、このアプリ開発の負担をできる限り軽減するのがPaaSの役割だ。
アプリの実行環境をPaaS側で用意したり、よく使われる機能をPaaS側で揃えることで、ユーザーは最小限の開発でアプリを実行できる。また、Cloud Foundryならば、特定ベンダーへの依存度が高まりすぎるリスクを回避し、「オープンで中立的な実行環境を実現できる」(千徳永・クラウドサービス部クラウドスペシャリスト)と、メリットを訴求する。技術的には、例えば、Cloud Foundryを採用しているIBMのBluemixからNTTコミュニケーションズのEnterprise Cloudへアプリを移動させたり、その逆も可能になる。
海外売上高比率40%超を目指す
かつてのクラウド基盤といえば、仮想サーバーやストレージ、堅牢なデータセンターなど基盤部分が注目される傾向があった。しかし、これからのクラウド基盤は、「ユーザーのビジネス革新を支えるものでなければならない」(林クラウド・エバンジェリスト)。
クラウドがユーザーのITインフラの中核になればなるほど、ユーザーが「やりたいこと」に近づき、ミドルウェア以下の部分は、ユーザーに意識させることなくクラウド側で運用(マネージド)することが求められる。アプリに合わせてCloud Foundry側で実行環境を生成するため、ミドルウェア以下の階層を一切気にすることなく、ユーザーは本来の目的であるビジネス革新により集中できるわけだ。
NTTコミュニケーションズのEnterprise Cloudは、この9月に国内で初めてCloud Foundryの認定プロバイダを取得。アジア地域でも通信キャリアとしては初となる。クラウドのIaaS部分や通信ネットワーク網を充実させるのはもちろんのこと、今後はCloud FoundryをベースとしたPaaS階層を一段と拡充していく。
ユーザーのビジネス革新に軸足を置いた取り組みは、国内のみならず海外ユーザーからも高く評価されている。直近の引き合いでは、すでに全体の数割を海外の顧客が占める。こうした流れを加速させることで、2020年度までにはEnterprise Cloud事業の海外売上高比率を40%超にもっていき、名実ともにグローバル・クラウドベンダーへと成長することを目指す。