クラウドビジネスの立ち上がりが遅れていると指摘されている地方のIT市場にも変化が起きつつある。福岡市では、近年、クラウドインテグレータやクラウドを活用したソリューションベンダーの活躍が目立ってきている。さらに、福岡市の行政も、ITを活用した新しい産業、つまりはデジタルビジネスの創造を強く後押しし、地域の主要産業に育てるべくさまざまな施策を打ち出している。福岡のIT市場はいま、燃えているのだ!(取材・文/本多和幸)
存在感高まる 福岡発 クラウドインテグレータ
Fusic
地元大手企業がAWSを使い始めている
横田宏大
事業推進部門
マーケティングチーム
マネージャー
福岡市に本拠を置くクラウドインテグレータがビジネスを伸ばしている。九州で初めてAmazon Web Services(AWS)のAdvanced Consulting PartnerになったFusicは、AWSをインフラに活用した自社サービスとシステム開発が二本柱だが、ともに順調な成長をみせているという。同社事業推進部門マーケティングチームの横田宏大・マネージャーは、「Fusicでなければやれないことにこだわってビジネスをしている」と強調する。
そうしたコンセプト上、開発案件は基本的にプライムで受注する案件がほとんど。便宜上、大手ベンダーが元請けになる場合もあるが、実態としては、Fusicがユーザー企業と直接やりとりし、「お客様のワークフローに沿って課題を聞いて、そのソリューションをかたちにしていく高付加価値型のインテグレーションが多い」(横田マネージャー)という。最近では、テレビ局のCM考査(広告主の業態やCM内容が民放連の放送基準に抵触していないか確認する業務)支援システムや、太陽光発電システム向けのIoTソリューションなどを手がけた実績がある。
開発案件は7割が九州地域の顧客で、やはりAWSの採用が多数派だ。横田マネージャーは、「とくに福岡は、AWSがかなり盛り上がってきているように感じる。地元の大手企業が使い始めていて、アーリーマジョリティ層に浸透してきている」と話す。
毛利啓太
技術開発部門
エンジニア
一方で、Fusicのこれからの成長を加速させるために、より拡販に注力したいと考えているのが、自社サービスだ。クラウド上に仮想デバイスをつくり、サーバーに疑似データを提供する、IoTソリューション開発者向けサービス「mockmock」や、人事ソリューションの「360度評価支援システム」は、直近で大きな伸びが期待できるという。開発案件とは逆で、7割が首都圏のユーザーだ。技術開発部門エンジニアの毛利啓太氏によると、「とくにmockmockは、IoTを実際に手がけているベンダーでないと需要がないが、東京ではそうしたニーズが多く、イベントなどでも非常に受けがいい。国内大手ベンダーとの協業も検討している」と話す。
ただし、自社サービスの成長が軌道に乗ったとしても、受託開発もやめないのが同社のポリシー。「バックエンドからフロントエンドまで一人で手がけることができるクラウドのフルスタックエンジニアを揃えていく」(横田マネージャー)ことがFusicの強みになり、そのためには高付加価値型のシステム開発が、エンジニアにとっての大きな成長の場にもなるからだ。エンジニアの個の力を高め、クラウドインテグレータとしてのビジネス拡大を図る。
福岡情報ビジネスセンター
クラウドに集中投資、IBM、SAP商材に活路
福岡情報ビジネスセンターは、長年、日本IBMのビジネスパートナーとして実績を積んできたが、近年、同社のIaaS/PaaSである「IBM Bluemix」や、AIの「IBM Watson」を活用した新たなビジネスモデルに大々的に転換すべく、先行投資してきた。
左から武藤元美・代表取締役、坂本新・Cognitive Service事業部事業部長、
持永泰孝・Marketing事業部事業部長、武藤友春・Marketing事業部営業担当
武藤元美代表取締役は、「クラウドファースト、そしてAPIエコノミーの世界が現実になってきた。テクノロジーの進化は、お客様のビジネス環境の変化を加速度的に速めている。ビジネスプラットフォームとしてのITも、お客様とベンダーが一緒になって、常に動いているビジネスの基盤であり続けられるようにしなければならない。それには、アジャイル開発とDevOpsを正しく普及させることが不可欠だと考えている」と強調する。そのために、同社が仕掛け役となって、日本IBMも巻き込み、九州地区内でさまざまなハッカソンイベントを開催してきたほか、武藤代表取締役は、UOS(ユーオス・グループ)理事長を昨年まで務めていたが、UOS理事長として、「DevOps推進協議会」の発起人にも名を連ねている。「日本が国として国際競争力を持ち続けるためには、ユーザーもITベンダーもビジネスモデルを変えなければならない」(武藤代表取締役)との問題意識のもと、自社のみならず、中堅SI業界全体の変革に向けた取り組みにも積極的だ。
自社のビジネスにおいても、坂本新・Cognitive Service事業部事業部長が「日本で7人しかいない、The 2017 IBM Champions for Cloudを受賞した」といい、Watsonの活用では日本でトップレベルのソリューションを提供できる体制を整えているという。
また、IBM製品以外にも、SAPのクラウドERP「Business ByDesign」も扱う予定で、SaaS領域の基幹システムパッケージも揃え、顧客のビジネス変革をより網羅的に支援していきたい方針だ。このビジネスを担当する持永泰孝・Marketing事業部事業部長、同事業部営業担当の武藤友春氏は、「当社にとっては大きなチャレンジだが、顧客の業務に関する知見・ノウハウを蓄積してきているので、それを生かすことができれば成長の新しい糧になる可能性がある」と力を込める。
近年は、クラウドビジネスへの転換に先行投資してきたため、利益が出にくかったというが、「DevOpsのストック型案件も増えてきて、向こう1、2年で大きく成長する手応えを感じている」(武藤代表取締役)ということだ。
グローバルブレインズ
マルチクラウドで顧客ニーズに応える
クラウドインフラ/プラットフォームの設計から構築、運用までワンストップで提供するサービス「FL.OPS」を擁するグローバルブレインズ。地元・九州の顧客を中心に着実に実績を積み上げ、今年、ついに採算ラインに乗ったという。同社第1システム本部インフラサービスグループの岩崎寿史・グループ長は、「福岡でクラウドを触れる会社ということで指名されることも多くなってきた」と、今後の成長への手応えを語る。
左から第1システム本部インフラサービスグループの山本淳二・クラウドサービスコーディネータ
岩崎寿史・グループ長
同グループの山本淳二・クラウドサービスコーディネータは、FL.OPSの特徴について、「一番大きいのは、一旦構築して運用フェーズに入るときに、OSから下はすべて24時間365日当社が管理しますというフルマネージドのサービスが提供できること。お客様には、ビジネスに活用するコンテンツだけを気にしてもらえばいいので、喜んでいただいている」と説明する。
FL.OPSで担ぐクラウドサービスは、基本的にマルチクラウドで、Microsoft Azureやニフティクラウド、IDCFクラウドなど、外資系大手のメガクラウドから国産クラウドまで、幅広く対応するという。ただし、近年ユーザーからの“指名買い”が多いのは、Azureだという。岩崎グループ長は、「OS、ミドルウェアを変えずにオンプレからクラウドに移行したい場合はAzureになる場合が多いし、日本マイクロソフト側のマーケティング支援やサポート体制なども手厚い」と話す。
Fusicの横田マネージャーと同様に、福岡、九州の市場自体にも変化がみられるというのが、同社の実感。山本クラウドサービスコーディネータは、「2~3年前にクラウドを敬遠していた人が、クラウドを検討し始めていて、お客様のマインドの変化は感じる」という。この潮目の変化をビジネスチャンスとしてしっかりつかみたい考えだ。
クラウディアジャパン
まだまだ伸びるセールスフォース
九州地区は、近年、セールスフォース・ドットコムのCRM/SFAユーザー数が急伸している地域としても知られる。Qスキームという、組合型のような独自の代理店網を形成し、地場の比較的小規模でリソースの少ないSIerでも、セールスフォース製品の導入・定着支援を手がけることができる仕組みを整えているのだ。
このQスキームの主要メンバーの1社だったクラウディアジャパン、昨年、セールスフォースのトップパートナーであるテラスカイの出資を受け、連結子会社になった。Qスキームの中心企業であるシステムフォレストも、ほぼ時を同じくしてセールスフォースの有力パートナーであるウフルの100%子会社になっている。セールスフォースの地方・中堅企業向けビジネスの加速につながる動きともいえ、九州におけるセールスフォースのビジネスも、新たな局面を迎えたといえそうだ。
安部直樹
マーケティング部
マネージャー
クラウディアジャパンの安部直樹・マーケティング部マネージャーは、「当社のビジネスは90%がセールスフォース案件で、8割は地元のお客様。年間平均で130~140%は成長している」と説明し、成長の余地は十分にあるとの見解を示す。
インサイドセールスやセミナーでリードを獲得し、顧客の課題を抽出したうえでスモールスタートの提案をするのが同社のオーソドックスなやり方だ。安部マネージャーは、「効果を出してもらうことを最優先に非常にていねいに導入支援をするし、個別に追加の開発をする場合もあるので、2年半くらいは仕様を継続してもらわないとペイしない。それでも、ほとんどのお客様は使い続けてくれているので、順調に成長できている」と強調する。
直近では、セールスフォースのPaaS上での自社製品開発も積極的に行っており、CRM/SFAと組み合わせ、より幅広い顧客ニーズに対応できるようになっているという。自社製品の開発とその拡販は直近の注力ポイントであり、これを成長のエンジンとして、単独でのIPOも目指す。
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