2017年は通信キャリアにとって「IoT元年」となりそうだ。IoT市場拡大の起爆剤となる新たなテクノロジーが、ついに国内で商用フェーズに突入したからだ。それが「LoRaWAN」と「SIGFOX」。ともにLPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれるIoT向けのワイヤレス通信技術だ。さらにこの後はIoT向けLTEや5Gの登場が控えている。今年、通信キャリアがIoTビジネスに本腰を入れる。(取材・文/山下彰子)
IoTに適したネットワークとは
IoT市場は右肩上がりで推移している。IoTが普及すると、IoTセンサ/デバイスなど、膨大な数の機器がインターネットにつながるようになる。やがて1基地局あたりで、数万単位の機器がつながる状態になると思われる。
これまで通信というと大容量、高速でデータのやり取りができるものが求められていた。IoTの市場でも、例えば監視カメラの映像を送信するのであれば上記のような通信が必要となる。ところが、今後拡大が見込まれているのが小容量のデータを、一日数度送ることができる通信だ。送信するデータは例えば気温、湿度、水量、ドアの開閉回数……、そうしたデータを定期的に送信し、データを集約することで現状を把握する。
また、1拠点からさまざまなデータを吸い上げるのではなく、複数の拠点からデータを集めるほうが、精度が上がることもある。つまり、高性能で高額なセンサを1拠点に置くのではなく、シンプルなセンサを複数の場所に設置するニーズが今後増えていく。
電源の確保も重要なポイントだ。業務の効率化を図るため、これまで人が行ってきた点検などの作業をIoTで代替する場合、屋外や郊外など、電源の確保が難しいエリアにもセンサを設置することになるだろう。こうした使用シーンを想定し、長時間バッテリで駆動できる低消費電力、屋外で使える遠距離通信、そして低速度の通信として注目を集めたのがLPWAだ。
LoRaWANとSIGFOXが本格化
2017年、LPWAとして商用フェーズに入ったのがLoRaWANとSIGFOXだ。二つとも「アンライセンス系」と呼ばれ、通信を行う際に免許が必要ない。LoRaWANは、サムテック、IBM、シスコシステムズなどが設立したLoRaAllianceを通じて標準化が推進されているオープンなネットワーク規格だ。10キロメートルを超える長距離の無線通信を低消費電力で実現できるので、広範囲に配置したセンサ機器からのデータをわずかな消費電力で収集できる。そのため、電源の確保や長距離通信といった課題に対応できる通信方式として、IoTを活用した新たな社会インフラとして期待されている。
ワイヤレスジャパンで出展したLoRaWANのブース
一方、SIGFOXは仏Sigfox社が仕様を策定したLPWA規格の一つだ。国内では京セラコミュニケーションシステムが独占展開権をもち、17年2月から順次サービスを開始している。
京セラブースではSIGFOXを掲げた(ワイヤレスジャパンにて)
LoRaWANと同様に100bpsと非常に低速で、低消費電力、長距離伝送と呼ばれる狭帯域通信により高い受信感度を確保し、最大数十キロメートル程度の通信が可能だという。フランスをはじめ、スペイン、オランダなどヨーロッパではすでに普及が進んでいる。
通信キャリアの動きをみると、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクともLoRaの提供を開始している。なかでもNTTドコモ、KDDIはパートナーを募った実証実験を展開。年末、年始頃には本格的なビジネスとして確立しそうだ。
LPWAがIoTビジネスを広げる
LoRaWANやSIGFOXのようなLPWAが普及することで、IoTビジネスの幅はぐっと広がる。これまで電源の確保が難しかったエリアでの利用が可能になるのだ。例えば、これまでは工場内部など、屋内でのIoT導入は多かった。だが、LPWAを採用することで屋外や通信が届きにくい郊外、地下などのデータを吸い上げることができるようになる。実際、NTTドコモやKDDIは屋外や郊外で実証実験を実施している。
一例を挙げると、NTTドコモは防災科学技術研究所(防災科研)と連携し、地滑り予兆検知システムの実証実験を進めている。山間部の斜面にセンサと通信機能を備えた杭を設置し、データを収集する。集めたデータを解析することで地滑りの予兆を検知する。同システムは20年をめどに商用化する計画だ。
一方、KDDIは神奈川県厚木市とともに浸水監視サービスの実証実験を行った。マンホールにセンサを設置し、下水道の内水氾濫による浸水監視。降雨レーダー情報と連携することで、ゲリラ豪雨などに対して的確な都市水害対策を支援する。センサは省電力設計を採用しているので、電池2本で約10年もつといい、電池交換の回数を大幅に減らすことができる。
KDDIの浸水監視サービスに使用したマンホールの模型
LPWAを使ったIoTを導入することで、人が現地に赴き、監視する必要がなくなり、人件費を抑え、業務を効率化できる。
次世代ネットワークが17年度中に
LoRaWANやSIGFOXはアンライセンスなので、通信キャリア以外も提供ができる。なかでもLoRaWANは競合が多く、競争は今後激しくなるだろう。次の一手として、通信キャリアが講じているのがIoT向けLTEサービスだ。KDDIは17年度中に「セルラーLPWA」の提供を開始する計画だ。NTTドコモも「セルラーIoT」の準備を着々と進めている。さらに、次世代の超高速無線通信「5G」も控えている。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は20年に5Gの利用を一部で開始し、NTTドコモは23年で全国展開する見通しだ。ネットワークの進歩によりIoTビジネスはますます加速する。
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