ソフトウェアでさまざまなネットワーク機器を統合管理する手法「SDN(ソフトウェア・デファインド・ネットワーキング)」が再び注目を集めている。数年前にこの技術が生まれ、データセンター(DC)運営会社、通信キャリア、エンタープライズ(大手企業)を中心にじわじわと浸透した。それが2017年から再び注目を集め、さらにはSDNより広域のネットワークに適用するSD-WAN(ソフトウェア・ディファインド・WAN)をリリースするベンダーが増えた。今、SDN/SD-WAN市場を後押ししているのがクラウドだ。(取材・文/山下彰子)
自動化実現で差異に注目
ソフトウェアを使ってネットワークを構築、管理するSDN/SD-WANの市場が本格的に立ち上がりつつある。
SDNとは、制御機能とデータ転送機能を完全に分離し、制御機能の部分だけでネットワークの設計を行う手法だ。制御機能とデータ転送機能を組み込んだ高額のネットワーク機器をたくさんつないでネットワーク環境を構築するのではなく、制御機能を搭載したコントローラー1台で複数の機能を絞ったデータ転送機器をコントロールすることで、コストを抑えられると注目を集めた。さらに、そのSDNをローカルエリアだけでなく、より広域なネットワーク(WAN)に適用したのがSD-WANだ。WANは、例えば、東京と大阪などの拠点を結ぶことができる。これをソフトウェアで管理するのがSD-WANだ。ソフトウェア側で構築や管理を行うため、状況に応じてより柔軟に運用ができるというメリットがある。
しかし、ネットワークのソフトウェア・ディファインド化は思うほどコストメリットが望めなかったため、それほど普及しなかったという声も聞く。SDN、そしてSD-WANが今注目を集めているのは、コストではなく、柔軟なネットワーク構築、ネットワークの自動化を実現できるという使い勝手が評価されているためだ。
スピードが命
IT業界でデジタル革命(デジタルトランスフォーメーション)というキーワードを聞かない日はない。21年までに世界の国内総生産(GDP)の約50%がデジタル化されるという予想もあり、今後、ITがどんどんビジネスに貢献していくだろう。デジタル革命とは、SDNが注目され始めた時のようなコスト面の革命ではなく、変革を起こして競争力を強化していくことが目的だ。F5ネットワークスジャパンのギド・フォスメア・執行役員セールスエンジニアリング本部本部長は、「この競争に勝つため、中心となるものがアプリケーション」だという。そして、このアプリケーションは今後、クラウドから提供される。「アプリケーションは、パブリッククラウド/プライベートクラウドから提供されるようになる。その時、アプリケーションをスムーズに提供するのがネットワークのミッションだ」という。
さらに、企業の競争力を上げるために開発するアプリケーションというのは開発スピードが求められる。半年~1年をかけてじっくりつくり込んでいくのではなく、毎週のように新しいアプリケーションを生み出し、導入し、改善していく。このサイクルスピードが企業の競争力として重要になる。ただ、こうした新しいアプリケーションの導入件数が多くなると、都度オペレータがマニュアルでトラフィックの処理を設定していてはとてもさばききれない。これをメニューから自動化できるようにしたのがSDNだ。F5ネットワークスジャパンでは、競争に勝つために、「クラウドと自動化されたネットワークであるSDNが重要になる」と強調した。
同様に、クラウドにアプリケーションを置くニーズが増えることで、SDN/SD-WAN化が加速していると話すのがNTTPCコミュニケーションズの三澤響・サービスクリエーション本部第二サービスクリエーション部長だ。Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなど、パブリッククラウドを利用する企業が増え、データやアプリケーションをクラウド上に置いている。「今、クラウドの利用率は低くても、今後オンプレミスとクラウドの比率は逆転するだろう。そうしたとき、クラウドに適したネットワークやアーキテクチャが必要になる。それを実現するのがソフトウェアだ」と三澤部長は話し、今後クラウドに適したネットワークとしてSDNが普及するという考えを示した。
さらにクラウドが普及し、より身近になることがSDN/SD-WAN普及の追い風になっていると説明する。「クラウドを利用しているエンドユーザーは運用、納期、コストなどのクラウドのメリットを感じている。同じメリットを今後ほかのインフラに求めた場合、ネットワークはSDN/SD-WANにたどり着く。クラウドのように使いやすいネットワークとして、SDN/SD-WANの需要は今後高まり、ネットワークのソフトウェア化は加速していくだろう」と話した。
復活と始まりの年
SD-WANを、クラウドの普及により生まれたネットワークの課題を解決するものとして捉えているのがリバーベッドテクノロジーの草薙伸・技術本部長だ。従来、アプリケーションがある場所はデータセンターなど一か所だった。そのためネットワークは固定的で、一度構築したら長期間使い続けることができた。ところがSaaS、IaaS、PaaSを使うようになった今、ネットワークを大きく変える必要が出てきた。「すべてのトラフィックをデータセンターを経由してインターネットに出していくのはこれまでのモデル。今はアプリケーションがインターネット上にあり、すべてをセキュリティゲートウェイを通してアクセスさせるとプロキシが溢れてしまう。すると、全部のトラフィックをまとめて通せる大きなセキュリティゲートウェイが必要になり、コストに見合わない」と草薙技術本部長は指摘する。この課題を解決するのが「トラフィックやアプリケーションを認識し、インターネットに出すか、従来の専用回線を使うか自動で認識し、判断するソフトウェアだ」と説明する。つまり、「クラウドがなければSD-WANも誕生しなかった」と話す。
クラウド化がさらに加速する今後、必要不可欠となっていくSDN/SD-WAN。Coltテクノロジーサービスの星野真人・執行役員アジアオペレーション&テクノロジー本部長は、「今、やっとクラウドが浸透してきた。クラウドが普及の山を乗り越えたタイミングがSDNの普及のきっかけになるのでは」と期待を寄せる。18年はSDNの復活、SD-WANの始まりの年となりそうだ。
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