Special Feature
市場トレンドを抑える 中国ならではのIT商材 日系ベンダーが強化中
2018/02/07 09:00
週刊BCN 2018年01月29日vol.1712掲載
ニューリテールの波に乗る
アリババとの連携で顧客開拓
昨年、中国では「ニューリテール」というキーワードが新たなトレンドとして注目された。これは、アリババグループの馬雲会長が提唱した新たな概念で、先端ITを活用してネット店舗とリアル店舗をシームレスに連携させ、消費者に新たな体験を提供するもの。17年は「新リテール元年」とも呼ばれ、モバイル決済や顔認証技術を駆使した無人小売店など、新たなビジネスモデルが生まれた。ニューリテールの筆頭として挙げられるのが、アリババが出資している生鮮食品スーパー「盒馬鮮生」だ。実店舗は一見すると鮮度の高い食品や生活用品、料理などを扱う普通のスーパーだが、実は先端ITを採り入れた仕掛けが数多く施されている。レジには現金を置いておらず、会計はすべてモバイル決済「支付宝」で行う。ここで収集した消費者の購買履歴や行動履歴のデータをもとに、店舗に合わせた商品の選定を行うほか、陳列のレイアウトを自動で生成する。また、倉庫を併設しており、店外には配達員が常備している。店舗から3km以内の距離に居住する消費者が、専用のスマートフォンアプリを通じて商品を注文すると、30分以内を目安に配達してくれる。

「盒馬鮮生」の実店舗。現在、上海や北京などの主要都市に約20店舗を構えている
アリババはクラウド事業会社の阿里雲計算(アリババクラウド)を通じて、これらニューリテールを実現する技術を提供している。例えば、グループが抱える230以上のインターネットサービスを利用している分散したユーザーの情報を一つの会員情報として統合できるミドルウェアや、在庫の補充計画や配送ルートの最適化を支援するサプライチェーンソリューション、データ可視化を実現するBIツールなどだ。
日立咨詢(中国)
王承華
総経理
1月16日には、上海市でニューリテールをテーマとした共催セミナーを初開催。中国のリテール関係者の注目は高く、定員約40人の会場は満席。少しでも多くの情報を得ようと、各担当者が講演時に表示したスライドの資料を写真に収めようとする参加者の姿が印象的だった。日立コンサルティングチャイナの王承華総経理は、「当社は、数年前からニューリテールに関するビジネスを展開してきた。今回のアリババクラウドとの提携によって、お互いの強みを生かすことができる」と意欲を示した。
中国サイバーセキュリティ法
対策支援ビジネスが芽吹く
日本企業が海外で事業展開する際、現地の法規制への対応は必須項目となる。中国では、インターネットサービス関連の規制が厳しく、例えばウェブサイトを公開する際には「ICPライセンス」の登録が必要など、日本とは異なる独自ルールも多い。とくに昨年6月1日に施行された「中国サイバーセキュリティ法」は、外資系企業の事業活動への影響が懸念されており、日系企業においても、対策に向けた動きが出始めている。同法は、ネット犯罪の防止や個人情報の保護などを目的として、従来以上にセキュリティ統制を強化するもの。対象範囲は中国で活動するほぼすべての企業が含まれ、外資も対応が求められる。
とくに影響が懸念されているのが、中国内で収集したデータの扱いだ。同法では、重要な情報インフラ運営者に対して、中国で収集した個人情報・重要データの国内保存を義務づけた。また、これらデータを海外に移転する場合は、関連部門が策定した規定に従い、セキュリティ評価を行う必要があると定めている。例えば、外資系企業が中国で収集したデータを本社システム上で管理したい場合、自社が「重要情報インフラ運営者」に該当するのか、収集した個人情報やデータが越境移転できる範囲なのかを判断し、適切なセキュリティ評価を行わなければならない。
IIJグローバルソリューションズ
(中国) 李天一
副総経理技術統括部部長
そこで最近、クララオンラインやKDDIなど、中国サイバーセキュリティ法への対策支援ビジネスを手がけるITベンダーが増えてきた。日頃から政府の関連部署と関係を構築しているITベンダーは、同法の今後の展開やその対策について情報を収集しやすく、ユーザー企業にアドバイスができる。例えば、IIJグローバルソリューションズでは、同法の対策に向けたユーザー向けセミナーを精力的に実施。昨年12月26日に東京本社で開催したセミナーは、大阪、名古屋、福岡の拠点とウェブ会議をつなぎ約50人を集客した。講演した中国法人の李天一副総経理技術統括部部長は、「データの持ち出し自体を禁止するのではなく、誰が、いつ、どんなやり方で、どんな目的で持ち出すのかを管理する法律」と解説し、適切な対策を行えば、これまで通りデータを越境移転できることを強調。また、「お客様単体での対応は極めて困難だ」と述べ、法解釈や現状の確認ツール、セキュリティ評価の代行サービスなど、総合的に支援する「IIJビジネスリスクマネジメントサービス(China)」をアピールした。
中国政府の関連部署がITベンダーに配布した非公表資料によれば、データ越境移転に関するセキュリティ評価の猶予期間は18年12月31日まで。残された期間は1年を切った。中国で事業活動するITベンダーにとって、セキュリティ関連の商機拡大が見込める年となりそうだ。
日中つなぐ 新 ビジネス続々と
徹底的に中国市場をみつめるITベンダー
北京市朝陽区。路上に大量に駐輪されたシェアバイクの1台に近づくと、その人は車輪あたりを指さして、「ほら、これ唐沢のブレーキですよ」と熱心に語りだした。「唐沢」とは、自転車ブレーキ部品を手がける日本の唐沢製作所のこと。聞けば、中小製造業ながらも中国の自転車ブレーキ市場で有数のシェアをもつ隠れた優良企業なのだという。その後も、シェアバイクの最新の車体や性能、乗り心地などを細かく教えてくれる。とてもシステムを提供するITベンダーの経営者とは思えないほどに詳しい。熱く語るこの人は、クララオンラインの家本賢太郎社長だ。
シェアバイクについて熱く語るクララオンラインの家本賢太郎社長
クララオンラインは、アジアでのビジネスコンサルティングやITサービスの提供に強みをもつ企業として知られる。自前のコンサルチームを有し、中国では市場調査や事業計画立案、ICP登録など幅広く支援。IT分野ではインフラ提供を得意として、「Amazon Web Services(AWS)」や「Microsoft Azure」など、各種クラウドを扱うほか、自社の「鴻図雲」も展開している。一方で最近は、従来の枠組みを超えた新規事業を続々と手がけている。
例えば、16年6月にセイノー商事と共同で、中国への越境EC支援を目的とした合弁会社を設立し、日本国内のサプライヤに対して、商品の貿易・輸出代行やコンサルティング業務を開始。17年11月には、電子決済「支付宝」や「微信支付」への日本人向けチャージ代行サービス「tOriPay(支付鳥)」を手がけるスタートアップを買収した。中国で爆発的に普及したシェアバイク関連では、日本での導入支援や調査研究を推進する「ShareBike Labo」を子会社と共同で同11月に開設。12月には、自転車関連のメディアサイトを運営するベンチャー企業に出資した。さらに家本社長は、「近いうちに、シェアバイク領域の100%子会社を設立して、関連企業への投資を進めていく」と鼻息が荒い。
日本と中国でシステムを提供するITベンダーは多いが、越境ECや電子決済、シェアバイクなど、急速に発展する中国のサービスに関して、既存のITビジネスの枠組みを超えた事業を手広く展開している企業は稀だ。この背景について家本社長は、「日本と中国の間で、お客様がつまずいている課題は山ほどある。そのなかで、自分たちにできることを一つずつやっている。ニーズがそれほど集まらないものは、コンサルティングとして支援するし、数がまとまりそうなものは事業化している」と説明する。例えば、中国への越境ECが注目されて以降、大手ECモール「天猫(Tmall)」や「京東(JD.com)」への出店代行やマーケティング支援を手がける企業が増えたが、商流や物流の面で課題を残す日本企業は少なくない。電子決済では、出張時に「支付宝」「微信支付」を体験したくても、中国の銀行口座がないために利用できない日本人が相当数いる。クララオンラインでは、コンサルやITサービスで培った知見やノウハウをもとに、いまだ満たされていない市場ニーズを新規事業で埋めているのだ。
また、家本社長は、「中国は1年で環境が変わるので、同じことばかりやっていると、来年には飯の種がなくなる」と話す。例えば、同社が中国に進出した当初はクラウドが普及しておらず、データセンター(DC)の品質も高くなかったため、サーバー事業の需要が期待できた。しかし状況は一変。グローバルベンダーの事業強化や中国企業の急成長を受けて、日系ベンダーが生き残るには、競合にない付加価値が求められるようになっている。「ビジネスモデルは絶対に変わらないといけない。とくにこの数年の変化は大きすぎる。自分たちの変化は、立ち位置を必死に変えようとしてきた結果だ」と家本社長。ITサービス分野でも、日本と中国をつなぐネットワークまわりの問い合わせが増えていることから、日中間ネットワークの高速化サービス「China Connet」に加えて、日本のウェブサイトを中国から高速で閲覧できる「極速中国(Express China)」を昨年11月に開始した。
新規事業のなかでも、家本社長はとりわけ自転車領域に熱い視線を注いでいる。中国のシェアバイクは、スマートフォンアプリを通して、車体を検索・予約したり、施錠を解除したりできる仕組み。車体にバッテリや通信機器、GPSを搭載し、ITデバイスとしての役割を果たすことから、クララオンラインのビジネスに取り込むことになったが、「絶対に(日本でも)市場が伸びる」と断言する。日本では、通信キャリアなどが一部地域でサービスを開始しているものの、駐車場や法律の整備など課題は多く、まだ中国ほどの盛り上がりには欠けるのが実情。しかし、日本の行政や駐車場、自転車メーカーなど、「実際に関係者を訪問すると、すごく反応がいい。自分たちで何とかしたいけれども、やり方がわからない、どうにかしてほしいという課題を抱えている」という。中国の知見が生きる余地が大きいわけだ。今後は、グループ企業を通じて関連企業へのコンサルティングや、日本に合わせたスマートロックの仕組み、アプリケーションのUI開発などを推進していく方針で、家本社長は、「将来的にはサーバー事業と同等の事業規模にしていきたい」と期待感を露わにする。
一方で、「課題やニーズをみつけていく力だけは、何としても磨いておかなければならない。中国と日本の間で、今お客様が困っていることは何なのか、問い合わせの傾向からどんなことがみえるのか、リテラシーがどう変わっているか、必死に見続けている」と家本社長。日中を跨ぐ新規事業を展開するには、徹底した知見の蓄積が不可欠というわけだ。中国市場は短期間で急速に変化するので、現地にいなければわからないことも多い。家本社長自身、昨年は中国に28回出張した。出張時は可能な限り街を歩き、話を聞き、実際に体験して肌で感じる。隙間時間は、中国のランキング上位のアプリをひたすら試し続けてみたり、知らないジャンルのカンファレンスに参加してみたり、すぐに仕事につながらなさそうなことでもまずはやってみるという。「結果として無駄になることはない。後々のビジネスでその知見が生きる」(家本社長)。
中国のシェアバイク事情について詳しかったのもこのためだ。取材後に見せてもらった自前のコンパクトカメラには、車体の細部を写した膨大な量の写真データが保存されていた。
急速に変化する中国市場では、ITを活用したユニークなサービスやビジネスモデルが続々と誕生している。この動きを商機と捉える日系ベンダーが増えてきた。本特集では、市場トレンドをつかんだ日系ベンダーが手がける中国ならではのIT商材を紹介する。(取材・文/上海支局 真鍋武)
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