デジタルビジネスの一角を占めるシェアリングエコノミー(共有経済)は、ITベンダーにとってどのようなビジネスチャンスになるのか。デジタルトランスフォーメーション(DX)の一環としてシェアリングエコノミーを位置づけたり、地域ごとに多層的なシェアリングサービスの構築を推進するなど、ITベンダーはさまざまな切り口でシェアリングエコノミー市場にアプローチをかける。国内での取引総額も2023年には1兆円規模へ拡大する見込みのシェアリングエコノミー市場は、ITの仕組みなしには成り立たない。ITベンダーのビジネスチャンスを探った。(取材・文/安藤章司)
●市民の経済参加のハードルを下げる
国内でも場所やモノ、スキルといったシェアリングサービスが立ち上がり始めており、スタートアップ企業を中心にソフトウェア開発が盛んに行われている。
遊休資産や個々人のスキルを活用して、市民の経済活動への参加のハードルを大幅に下げるのがシェアリングエコノミーの最大の特徴だ。少子高齢化で企業の第一線で活躍できる人材が先細りしている。シェアリングエコノミーの仕組みを使えば、リタイヤした人や子育て/介護世代でフルタイムで働けなくなった人でも、経済活動に参加できる道が開ける。
これまでは、国内におけるシェアリングエコノミーの取引規模が小さく、シェアリングサービスを提供するプレーヤーの多くが事業規模が小さいスタートアップ企業。このため、ITベンダーやSIerにとって大きなビジネスターゲットとはなり得なかった。だが、これからは国内においてもシェアリングサービスは着実に拡大し、システム需要が高まることが期待されている。ユーザー企業のデジタルビジネスの支援を標榜するITベンダーやSIerにとって看過できない市場になるはずである。
●シェアエコをDXの文脈で捉える
野村総合研究所(NRI)は、SIerのなかでは最も早い段階からシェアリングエコノミービジネスの可能性を注視してきた。そこで導き出した答えは、「シェアリングエコノミーは、DXの文脈のなかで捉えるべき」(此本臣吾社長)というものだ。
中国など成長市場でのシェアリングサービスは、「個人対個人(c対c)」で急拡大したが、実は個人限定のサービスとは限らない。企業や団体、自治体、金融機関などが参加する「複数対複数(n対n)」の取引もシェアリングエコノミーの範疇に入る。
NRIでは、既存の優良顧客がDXの競争にさらされても勝ち残っていけるよう、有効な対抗策をすばやく提案。そのためのノウハウや技術の蓄積に力を入れる。シェアリングエコノミーもDXの脅威の一部分を占めるものと捉える。裏を返せばシェアリングをDXの有効な手法の一つと位置づけているわけだ。
●スクラップ&ビルドを仕掛ける側に
DXは、デジタルによって既存のビジネスを置き換える“スクラップ&ビルド”の特性をもつ。シェアリングエコノミーがDXの流れをくんでいる証左として、例えばマイカーに相乗りするライドシェアは、世界各地のタクシー業界から猛反発を受けた。昨年、国内でも解禁が決まった民泊でも地域社会との軋轢(あつれき)が後を絶たない。それだけシェアリングサービスのインパクトが大きく、何かのきっかけで既存事業のスクラップ&ビルドを誘発する可能性をはらんでいる。
NRIは、今年1月にKDDIと合弁で「KDDIデジタルデザイン」を立ち上げている。DXの戦略立案から事業化検証、システム構築まで一貫して支援していく事業会社で、初年度から150億円規模の高い売り上げ目標を掲げる。シェアリングエコノミーをはじめ、DXがどういう形で勃興するか予測するのは難しい。NRIは、既存の優良顧客がDXに追い込まれる側になるのではなく、むしろDXを自ら仕掛けて、より優位な立場に立てるよう支援していくことを念頭に置く。
次ページからは、シェアリングエコノミーのビジネスを手がけるプレイヤーの取り組みをレポートする。
シェアリングサービスって何?
「デジタル道州制」につながる可能性
Q シェアリングサービスって何?
A 狭義には個人間でモノや場所、スキルをシェアするサービス。マイカーに相乗りしたり、家庭料理をシェアしたり、育児を手伝ったりと幅広い。
Q えっ? マイカーに相乗りで料金とったら違法でしょう。家庭料理のシェアでも調理師免許などはどうするの? 育児だって保育士免許とか……。
A 現状では、いろいろクリアしなければならない課題が多い。ただ、NRIの調査では中国のシェアリングサービスの取引総額は、2016年の時点ですでにGDPの4.6%を占める約57兆円に拡大。20年にはGDPの10%を占める約220兆円に拡大するとみられている。
Q そりゃ、中国は成長国だし、ルールも違う。国内と同列に語れないんじゃないの?
A おおむね正しい。シェアリングサービスは既存の仕組みがまだ十分に出来上がっていない成長市場で爆発的に普及する傾向がある。これは「成長市場型のシェアリングエコノミー」と呼ばれる。しかし、欧米成熟市場でシェアリングエコノミーが普及しないといえばそれは間違い。現にマイカー相乗りの「Uber(ウーバー)」や「Lyft(リフト)」、民泊の「Airbnb(エアビーアンドビー)」などは米国発のサービスだ。
Q 国内での取引総額はどのくらいなの?
A 同じくNRIの調べでは、17年の国内シェアリングサービスの取引総額は2660億円と推計。年平均で23.4%成長して23年には約9400億円規模に拡大する見通し。シェアリングエコノミーは、狭義には個人間シェアだが、国内ではもっと幅広く捉える傾向がある。企業や団体、自治体などを巻き込んだ複数対複数(n対n)のシェアビジネスとなれば、取引規模も拡大しやすい。従来の企業対顧客(1対n)とは大きく異なる。
Q 知らない人からシェアしてもらうなんて、何か不安じゃない?
A シェアサービスに限らず、初めて利用するサービスは誰しも不安。信用できる決済の仕組み、またトラブルや事故が起きたときに補償する保険の仕組みをしっかり手あてしていけば、利用に踏み切るハードルは下がる。
Q シェリングエコノミーの将来像は?
A 少子高齢化が進む日本では、高効率で経済的な地域社会をつくるためのデジタル化が欠かせない。この地域社会のデジタル化と相性がいいのがシェアリングエコノミーだといわれている。最初は地域単位でスタートし、段階的に広域化。将来的には「デジタル道州制」のような広域デジタル経済圏の創出につなげられる可能性がある。
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