いくつかのSIerやコンサルティングファームで、ERPをはじめとする基幹業務システムのパッケージ製品にRPAを組み合わせたソリューションの提供をサービスメニュー化する動きが出てきた。ERP+RPA=ERPA。日本の労働力減少を補う、生産性向上の有効策と目されるRPAだが、ERPをはじめとする基幹業務システムビジネスの成長も後押しすることになるのか。
RPAがERPをカスタマイズから解放する?
●周辺業務の自動化で成功
一般的に、ERPの導入では、パッケージの素の機能だけで顧客の業務をカバーできない場合、アドオンやカスタマイズで対応することになる。このアドオン、カスタマイズの規模が膨れ上がると、導入プロジェクトの納期は長くなり、コストも増大する。アドオン、カスタマイズで実現する機能とコストなどの折り合いがうまくつかなければ、プロジェクト自体の成功が危ぶまれる事態になってしまう。こうした課題をRPAで解決しようという動きが、ERPパッケージを扱うSIerで顕在化している。
例えばインフォコムは、「RPAを活用してERPパッケージに対するアドオン・カスタマイズ開発を大幅に削減することができる」というメッセージを明確に打ち出している。同社は、ユーザー系SIerを中心とするコンソーシアムが開発する国産ERP「GRANDIT」のコアといえる存在だ。GRANDITを100社以上のユーザーに導入してきた経験をもとに、アドオン、カスタマイズ開発の事例を解析した結果、そうした結論に達したのだ。
ERPの周辺で発生する業務、具体的には受発注の伝票起票やウェブページ読み込み、OCRを活用した証憑の読み込み・入力、マスター登録、定型レポート/データ出力・加工・再登録、データ交換などでRPAが生きる場があるとしている。例えば、証憑をもとに人手で伝票入力を行う場合、当然、担当者の作業負荷が大きく、入力ミスも発生し得る。一方、外部システムとEDIでデータ連携する場合は、それなりの規模の連携システム構築コストと運用コストが発生する。このいずれの場合も、RPAが課題の解決策として有効だというのがインフォコムの考えだ。「人手での伝票入力をRPAが代行することで作業精度、速度が大幅に向上することはもちろん、データ連携システムが担うCSVデータ取り込み、各種エラーチェック処理、取引伝票の起票といった機能をRPAで自動化できる。新たなEDI連携(取り込み機能)を開発する必要がなく、GRANDITのカスタマイズが不要で、導入後のメンテナンスも容易」だという。
●ERPA+AIにさらなる可能性
豆蔵
中原徹也
社長
同様に、RPAが従来のERPビジネスを大きく変える可能性があるとみているのが、豆蔵グループだ。コンサルティングなどの上流のビジネスを手がける豆蔵と、ERPソリューションを扱うグループ会社のエヌティ・ソリューションズが連携し、商機をつかもうとしている。中原徹也社長は、「カスタマイズを前提としたERP導入サービスを根本から変え得ると考えている。ERPパッケージと実業務とのギャップの部分を、時間とコストをかけてアドオンで開発するよりも、RPAでやった方が早くて簡単で安い。IT予算が少なく、なかなかカスタマイズへの投資ができない中堅・中小企業では、とくに有効な考え方だと思う。結果的に、RPA採用を前提とした中堅・中小向けのERPソリューションの需要が高まる可能性は十分にある」と話す。
エヌティ・ソリューションズは、SAPの中堅・中小企業向けクラウドERPである「Business ByDesign」の導入パートナーでもある。RPAを使い、カスタマイズなしで導入するという前提であれば、導入コスト、運用コストともに低減でき、より幅広い顧客層をユーザーとして取り込んでいくことは確かに可能だろう。
さらに同社は、ERP+RPAのソリューションにAIチャットボットも組み合わせて、ERPに集まるデータの活用範囲を拡充し、顧客のビジネスのデジタル・トランスフォーメーションに貢献することを目指している。今年2月、豆蔵ホールディングスとワークスモバイルジャパン、SAPジャパンは、ソリューション連携のための協業に合意したと発表した。ワークスモバイルジャパンが提供するビジネス版のチャットツール「LINE WORKS」と、SAPの中小企業向けERP「Business One」とBusiness ByDesign、そして豆蔵が開発した対話型AIエンジン「MZbot」、RPA技術を連携させたソリューションを、今年4月にリリースする予定だ。LINE WORKSをインターフェースとしてERPにアクセスできるようになり、例えば、「営業担当が顧客へ訪問する前に、その会社への納期や請求状況などの情報を問い合わせたり、業務処理を指示したりといったことが、自分のスマートフォンからLINE WORKS経由でERPのデータにアクセスして実現できるようになる」(中原社長)という。
豆蔵は、MZbotを2月15日に正式にリリースした。学術機関とも連携し、独自のアルゴリズムを盛り込んだことにより、多くのチャットボットエンジンの課題となっているシナリオ作成の手間が不要で、既存のFAQデータを取り込むだけで、短期間で利用可能になるAIエンジンに仕上げているという(イメージは図を参照)。同社によれば、「チャット画面を使った問い合わせ機能だけでなく、RPAロボット、サービスロボット、クラウドAPI、IoTセンサなどと連携し、社員一人ひとりのデジタル秘書として企業活動における多くの業務を代行する」ことを目指している。
中原社長は、「ERPとRPAにAIも組み合わせることで、導入企業内のエンドユーザーの裾野が飛躍的に広がり、それが働き方改革やビジネスのデジタルトランスフォーメーションにもつながっていく」と話す。さらに、「当社がこれらのソリューションにたどり着いたのは、先端技術をいかに簡単に実業務に落とし込んでいくかという視点を持ち続けた結果」であるとして、SIビジネス、ERPビジネスにおいても、先端技術に精通した人材を確保・育成することが、差異化要因になっていくとの見解を示している。
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