Special Feature
仕事でも、利用が進むビジネスチャット コミュニケーション以外の活用法も拡大
2018/04/11 09:00
週刊BCN 2018年04月02日vol.1721掲載
ビジネスチャットの現在地
サービス連携による業務効率化へ
ビジネスの場面においても、メールに代わるコミュニケーション手段としてチャットを利用する企業が増えてきた。ツールとしては、マイクロソフト「Office 365」やグーグル「G Suite」のクラウドサービス群で提供されているものに加え、新興企業が専業で提供しているものも有力だ。今回、国産ベンダーとしてビジネスチャットツールを提供しているChatWork(チャットワーク)の山本正喜CTOと、ワークスモバイルジャパンの萩原雅裕・執行役員 マーケティング・製品統括に話を聞いた。ChatWork
パイオニアとして
ビジネスチャットの新たな可能性を開く
――「チャットワーク」の特徴は何でしょうか。
2011年3月にリリースしており、他社と比べ一番歴史が長いのではないでしょうか。パイオニアとして、ビジネスチャット市場を切り開いてきた自負があります。長くビジネスチャットを展開している分、コミュニケーション手段を移行するときに起こるハレーションも理解し、行き届いた機能を提供できていることが最も大きなアドバンテージだと思います。
また、ターゲット層がエンジニアやデザイナーのようなリテラシーの高い専門職ではなく、営業やマーケティング、管理部門の方などを含めたビジネス職です。「簡単に誰でもすぐに使える」ということを重視しています。
機能面での差異化ポイントとしては、「タスク管理」機能です。チャットのタイムラインとは別にタスクを残し、進捗を確認することができます。ただのチャットでは会話とともにタスクも流れていってしまいますが、この機能により、勢いの早いチャットと並行して、タスクをこなしていくことが可能です。他社のツールでは、API連携してできるものもありますが、チャットワークではメイン機能として標準搭載されているので、使い勝手が大きく違うのではないかと思っています。
さらに、法人向けプランに加えて、個人向けのプランも用意。無料で使えるフリープランと、有料のパーソナルプランがあります。例えば、取引先とチャットワークでやり取りをしたいとなったときに、(取引先が)会社で新たに導入するというのは大変です。そこで、担当者の方に個人向けの無料版を利用してもらうことで、やり取りができるようになります。このように、社外とのコミュニケーションにもよく使われています。一つのアカウントで複数の人とやり取りできるため、士業の方からの利用に強いという特徴があります。

――現在までに、16万7000社が導入しているといいます。どのようにして、そこまで導入を拡大してきたのですか。
山本正喜
CTO
その後、コンシューマの領域でチャットの利用が広がってきたことで、ビジネスでも使いたいというニーズが出てきました。そこで昔からやっている当社が注目されてるようになり、ここまで伸びることができたのだと思います。今ではIT業界だけでなく、非IT業界の方にも引き合いをもらい、浸透してきたと感じています。
――今後、代理店販売に力を入れていくとうかがいました。
もともと代理店販売自体は、KDDIとパートナーシップを組んでやっていました。それを今年からさらに力を入れてやっていこうとしています。名前はまだ出せませんが、すでに大きな提携が決まっていて、今後より本格的に進んでいくでしょう。
これまで当社には営業組織がなく、主にウェブで探してこられる方や、口コミでの広がりに限定されていました。今後よりサービスを拡大していくために、すでにチャネルをもっている代理店の力をお借りして、とくに特定業種や地方といった自社だけでなかなかリーチできないところに展開していく方針です。
――今後の成長戦略として、プラットフォーム化を掲げていますね。
サービス連携も強化していきますが、私としては、「人手を介さないとできないと思われていたサービスが、実はチャットでできるのではないか」と考えていて、チャットのユースケースを広げたいという思いがあります。例えば、当社の士業ユーザーのなかには、通常、顧問契約したお客様のところに毎回訪問しなければならず、一人で抱えられるクライアントの数や場所には限界があるなかで、チャットワークでしか仕事を受けない代わりに顧問料を安くして、全国からお客様をとっている方がいます。そうした、チャットで仕事をとるチャット業界のようなものができるのではないかと思っていて、それを広げていきたいんです。
すでに、プラットフォーム事業としてオンラインアシスタントサービス「チャットワーク アシスタント」を始めています。他にも電話代行や助成金診断なども展開していて、このような強い業務領域をもつ会社と組んでというのは、他社ではやっていないことだと思います。社外の人とつながりやすいというチャットワークの特徴もあり、他社ではなかなか真似できないことだと思います。
――チャットを使ってできる業務を広げていくということでしょうか。
基本的には、コア業務以外は外に出し、その会社でやるべきことに集中する方が、社会における自社の価値を最大化されるのではないかと考えています。安い単価で依頼できるアウトソース先を増やせれば、業務を外に出せる可能性が増える。そういう世界観をつくっていきたい。ビジネスチャット市場のパイオニアとして、チャットでやれるような業務領域や市場をつくり出すということに、今チャレンジしています。
ワークスモバイルジャパン
LINEと同じ使いやすさを訴求
他社製品との連携で、ツールを進化させる
――「LINE WORKS」の特徴を教えてください。
萩原雅裕
執行役員
マーケティング・
製品統括
実際に、当社のユーザーのなかでも、スマートフォンでしか使っていないというお客様はたくさんいます。そうした方々、つまり、外出が多く、仕事でPCをあまり使わないお客様が、PCベースではない新たなコミュニケーションツールとして当社のサービスを選んでいただいています。
二つめが、やはり「LINE」的であるということです。これには二つの意味があって、一つが、LINEのような使いやすさであるということ。LINEと同じインターフェースなので使い方の説明が不要でリテラシーに関係なく、誰でもご利用いただくことができます。さらに、メールやカレンダー、掲示板などの仕事で必要な機能を搭載しています。もう一つが、LINEとコミュニケーションがとれるということ。とくに、営業、接客、販売といった職種の方が、コミュニケーション手段としてLINEでのやり取りを求められるケースがあります。そうした時に、個人のアカウントを使うのか、それとも断るのか。会社としてオフィシャルにLINE WORKSを採用することで、LINEとやり取りすることができます。
――どのようなシーンで利用されていますか。
基本的には社内での利用が多く、社外とはメールというケースが多いです。取引先とのコミュニケーションまでチャットでやりたいという顧客はこれから増えてくるとは思いますが、今のところはそこまでではないです。ただ、例えば人材紹介会社がLINE WORKS、転職希望者がLINEで、というかたちでやり取りをされるケースなどもありますね。
――「シャドーIT」を語るうえで、引き合いに「LINE」ということばが出てくることがありますが、これについてはどのような見解をもたれていますか。
実際に、当社を選んでいただく理由の2番目くらいに、「LINEを使っていたらいけないのではないか」という漠然とした不安から、「明確に禁止にしているのに現場でLINEが使われている」というものまで、濃淡はあれど、「シャドーIT対策」という声は出てきます。
ただ、実はデータセンターやサービスに対してシビアなお客様は限られていて、それ以上に「何となく不安」という方が大多数です。実際に、LINEのサービス自体のセキュリティレベルは非常に高いですし、どちらかというとリスクが高いのは手元のほうで、スマートフォンをなくしたり、誤送信してしまうことのほうが危ないのですが、そこまで意識されているお客様は少ない。ユーザー管理やログ管理を徹底したいというのであれば、企業向けのツールを使うほうがいいと思います。
――新興企業のクラウドサービスには直販をとるところが多いですが、LINE WORKSは代理店販売が中心ですね。
ほとんどがパートナー経由での販売で、それは当社として明確に、意図的にそうしています。当社は直販部隊をもっていません。日本のお客様の買い方を考えると、おつき合いのある代理店から購入するほうが安心だと思います。代理店さんにも、自社の強みに合わせて売っていただいています。
――今年に入り、マルケトやSAP、Sansanなどとの連携を相次いで発表しているように、他社サービスとの連携にも力を入れている印象です。
これまでも力を入れてやってきてはいますが、今年以降、より強化していきたいと思っているポイントです。スマートフォンベースのUIはハードルが低く、「これだったらあれも使えると便利だよね」といった、いろんなお話が出てきます。今までのITソリューションがPCベースだったことで限られた人にしか届いていなかったのだとすると、スマートフォンのインターフェースになった瞬間に、より多くの人に届けられるようになるのではないかとお話をいただくこともあります。そういう意味では、例えばSAPさんであれば在庫管理かもしれませんし、マルケトさんであればカスタマサポート、Sansanさんであれば名刺管理など、いろんな他の業務システムとの入口、出口としてLINE WORKSを使っていただけるといいのではないかと思います。当社としても、そうした連携がしやすいかたちで、製品を進化させていきたいです。
記者の眼
それぞれの企業に、他社のビジネスチャットと競合することがあるかと聞くと、少なくとも今の時点では競合していないという。それは「Office 365」のようなクラウドサービスも同様で、ワークスモバイルジャパンの萩原執行役員は、「PCかスマートフォンかなど、用途によって使い分けているのでは」と話す。ただ、今後各ベンダーのビジネス展開が加速すると、状況が変わってくることも予測される。また、「ビジネスチャット」は単なるコミュニケーション手段としてのチャットにとどまらず、製品連携などによってできることの幅が広がっている。チャット以外に何を提供できるかが、今後の製品拡大を左右する差異化ポイントとなるかもしれない。
ビジネスチャットの導入が加速しているといっても、現状では社内での利用が多く、「完全にメールや電話がなくなるわけではない」とChatWorkの山本CTO。「基本的には使い分けで、複数回やり取りする相手とのコミュニケーションにチャットが効くと思う」。メールからチャットへと、完全に移行するとしても、まだ先の話となりそうだ。
スマートフォンが普及し、今やほとんどの人がプライベートにおける日常的なコミュニケーション手段としてチャットを活用している。一方で、ビジネスの場ではいまだメールが主流であるものの、法人向けチャットサービスの導入が拡大している。仕事の場面でもメールからチャットへと、コミュニケーション手段が移り変わるのか。(取材・文/前田幸慧)
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