「協創」で地域貢献するIT
中堅・中小の製造業中心に支援
京都府の経済は、「2%経済」といわれ、全国の2%前後のウエイトを占めている。しかし、府内情報サービス産業の売上高は、1%未満と水準値に遠い。業界団体の京都府情報産業協会(京情協)と京都コンピュータシステム事業協同組合(KCA)は、こうした状況を打破するため、ITベンダー相互が「協創」して地域経済にIT技術で支援する動きが活発化している。今回は、KCAに加盟するシステム創見、バンテック、エイジシステムの3社を取材し、得意技を持ち寄り、中堅・中小の製造業向けなどに地元ならではのシステムを提供している実情をリポートする。
システム創見
京都独自の「GOZAN」シリーズ開発 中小製造業にクラウド提供
代表取締役
桑原 人司 氏
システム創見(桑原人司社長)は、2010年に京都高度技術研究所(ASTEM)の補助金で創設した府内ITベンダー約30社が加盟する「京都クラウド・ビジネス研究会」に加わったことなどを機に、従来の受託ソフトウェア開発からパッケージ開発ベンダーへ変貌した。「府内の中堅・中小企業に役立つ」ことを目指して創業した同社。この目標を実現するため、クラウドの浸透と歩調を合わせるように業態を変革した。
最初に製品化したのは、ウェブ版の販売在庫管理「Friends」だ。当初は、京都市内の仏壇仏具店にヒアリングするなかで開発した。営業支援や取引先管理、グループウェアなどの機能を備え、個別カスタマイズも容易だ。「手頃な価格で、身近な存在だからこそできる使いやすさを追求した」(桑原社長)という。クライアント/サーバー版だけでなくプライベート・クラウド版も提供している。
京都クラウド・ビジネス研究会では、「『協創』という副産物を生んだ」(桑原社長)といい、その結果、府内ITベンダーの横連携が活発化したという。1社単独では開発費や開発人員の手配が難しいが、複数社で協業すれば製品化も可能だ。そこで生まれたのが「京都クラウドGOZANシリーズ」だ。地元企業の要望を聞き、システム創見を中心に京都に事務所を置くエイジシステム、ジック、システムプロデュース、アステムの5社で、機械製造・金属加工業向けの見積支援+図面管理システムを開発。京都五山をもじり、5社で開発したこともあり、製品名を決めた。売り上げは開発貢献度に応じ分配している。クラウドでも提供しており、京都に本社のあるカゴヤ・ジャパンのデータセンターに置いている。
GOZANは、80社が加盟する「京都機械金属中小企業青年連絡会(機製連)」と勉強会を重ねるなかで要望の強かったものを開発した。「京都は大手メーカーの企業城下町として、中小の製造業が多い。大手のシステムは機能が多く高価で、見合わず困っていた」(桑原社長)という。そういった状況も追い風に、ITで地元に貢献するシステム開発が軌道に乗り始めた。
京都の中小ITベンダーが協業で取り組む組織を「京なかGOZAN」といい、地元で活発な活動を展開をしている。そのなかの一社、ピーパルシードとは、NFCタグとクリアファイルに添付したバーコード(作業指示書)を紐づけて生産工程を変更せずに作業進捗・実績を管理するIoT(Internet of Things)システム「作業工程進捗実績表示」を開発した。「京都の製造業には、古い機械が多いため、作業効率化にはこのようなシステムが必要だった」(桑原社長)と話す。
桑原社長は、京都コンピュータシステム事業協同組合(KCA)の代表である理事長を務めている。「KCAの『IoTクラウドワークショップ』からは、クラウド型のスケジューラー製品が生まれており、京都発の独自製品を数多くつくっている」と話し、協創で京都発の中堅・中小企業に適したシステムを全国に展開していくことも視野に入れている。
京都といえば世界的な観光地。システム創見は、地元ITベンダーと共同で京都に点在する1400以上の石碑や道しるべを巡るアプリ「いしぶみアプリ」をスマートフォン向けに開発した。最近では、京都伏見の酒蔵17か所を散策するアプリ「おやかまっさん」を京阪電鉄と一緒につくった。桑原社長は、「多くの外国人が訪れるが、観光が中心部に集中している。国内のリピーターを含め、旅行客を分散して観光してもらうことは、京都の大きな課題だ」と、地元でITを必要としている領域を探し、今後も地元ならではのIT製品を開発していく。
バンテック
IoT、センサ活用しスマート工場 IT植物栽培にも参入
代表取締役
馬場喜芳 氏
大阪、京都両府を中心に近畿圏の製造業に対し、計装制御システムの開発やコンサルティングを手がけるバンテック(馬場喜芳社長)は、同業他社を含めた外部パートナーと協創してIoT関連などのビジネス拡大を進めている。京セラや島津製作所など大手製造業の販売・生産管理システムなどを開発してきた長年の経験・ノウハウと、センサや人工知能(AI)などを融合し、地元大学と共同で植物工場を構築する事業にも参入している。
同社が主にシステム提供する対象業種は、電機、電子、機械、化学、薬品、食品などの中堅クラスの製造業が中心だ。こうした特化業種に対し、販売・生産管理システムのほか、組立・検査工程や品質・製造ライン管理の製造実行システム(MES)、上下水道・製造プラント向けの計測制御システムなど、基幹系から業種特化までのエンジニアリング・システムの開発を得意とする。
馬場社長は、「多くの顧客向けに開発した半パッケージ製品を半分以上カスタマイズし、各顧客にマッチしたシステムに仕上げることを得意としている」と話す。製造業、電子部品関係の企業向けに、常時30社程度のシステム開発案件が動いている。最近ではこうした企業の海外進出が顕著のため、「統合型販売・生産管理システムのグローバル対応案件が増えている」という。顧客の業務分析から必要な機能単位での迅速な導入、稼働後のトレーニングや運用・保守サポートまでを一貫して担うことで、グローバル企業からも信頼を得ている。
バンテック大阪支社では、毎週木曜日に同社関係者に加え、IT業界団体やユーザー企業の担当者らで情報交換会を実施しているという。「製造業のシステム担当者とは、長年蓄積したシステム開発経験を生かし、製造業の現場と共通言語で会話することができる。当社のノウハウとパートナー各社の案件や情報、技術を融合することで、新たなビジネスを生み出そうとしている」(馬場社長)。情報交換会の効果もあり、50社以上とのつき合いで事業を拡大している。
同社が受託する製造業案件は、300万円から開発期間が5年におよぶ1億円までの規模になる。だが、顧客要望が多様化しているなか、「他社との協創は必須だ」(馬場社長)と、関係強化に力を入れている。
製造業のシステム開発力を生かし、ここ数年は、新事業にも参入している。その一つが、大学と共同で展開している「省エネルギー閉鎖型黒ウコン植物工場」などだ。馬場社長が、創業当時から「哲学・理念」としてきた農産物の無農薬化を、センサやAIなどの先端技術を使って実現しようとしている。
この植物工場は、希少な黒ウコンの無農薬栽培を実現するため、露地栽培の3倍速で生育でき、天候に左右されず安定生産が可能だ。栽培データを自動的に計測・収集したり、カメラで栽培状況を沿革監視するなど、生産過程を半自動化している。この栽培ノウハウは、黒ウコンジャパンという水耕栽培業者などに提供しているという。
馬場社長は、「MESなど、生産工場の安定稼働と効率的な生産のノウハウをもとにしている。基幹システムに入れる前のデータマイニングやIoTシステムを使っている」と、安定供給にもめどがつき始めている。いまでは、京都名産で高級料亭で出される京水菜の生産にも参入している。過酷な労働環境のため、若者の農業従事者が減っているが、「IoTスマート植物工場で、農業離れをなくし、安定的な収入が得られる新たなビジネスをつくりたい」(同)と意欲をみせる。
エイジシステム
製造業向けIoTを拡大 今夏にもオプション製品を提供
取締役第1開発部部長
大伴英雄 氏
兵庫県豊岡市に本社を置く精密機械の金属部品加工、調達、組立、検査を一貫して行うメーカーである誠工社の関連ITベンダーで、京都府内の顧客を中心にSI(システムインテグレーション)などを提供するエイジシステム(野村徹社長)は、ここ数年でIoT関連の事業を拡充している。誠工社の製品生産を効率化するため、エイジシステムが開発したシステムを工場などに適用し、実証実験を繰り返している。将来的には、このシステム開発で得た技術を使い、他の製造業にIoTを提供する。
エイジシステムは、1983年に誠工社のシステム部門から分離独立。電機メーカー向け生産情報システムやBI(ビジネス・インテリジェンス)を使ったデータ分析などのSI、LSI回路設計、金融機関や交通機関など、公共施設で利用される装置と組込み開発が得意分野だ。装置・組込み開発では、交通機関の自動改札機や銀行ATMのカードユニット、オムロンと連携し電子血圧計内のソフトウェア開発など、「下廻り」と呼ばれるハードウェアに近い分野を得意としている。大伴英雄取締役第1開発部部長は、「脳波測定のグラフ化装置や、LSIでは富士通と共同でパケット高速処理システムのマイコンを開発するなど、装置開発は制御系に強い」と話す。
一方、SI製品では、同社の独自製品も展開している。例えば、RFIDタグを使ったモノのあり場所を管理するシステム「みつかる君」は、荷物に装着したRFIDとオムロン製のUHFアンテナなどを使い倉庫内のモノのありかを情報収集し、基幹システムと連携し出入庫の管理ができる。「デバイスからLSI、各種センサ、ソフト開発、通信制御、画像処理などを含め、IoTを推進するために必要な要素が当社に揃っている。ここ数年はIoTをキーワードに事業拡大を目指している。AIなどを含め最先端の技術でより価値ある情報システムが提供できる」と大伴取締役は説明する。KCAのクラウドやIoTに関連する研究会に参加し、情報収集もしてきたという。
IoTを事業化するうえで現在は、誠工社の製造現場を使い、エイジシステムが開発したシステムの適用を開始した。最近では、京セラを中心に推進するLPWA(Low Power, Wide Area)「Sigfox」の「インテグレーションパートナー」にも加わった。まずは、カメラの画像処理技術やセンサなどを使った生産工程をBIで「見える化」したり、収集したデータをAIで分析し、生産ラインの省力化に役立てようとしている。
「見える化」に関しては、「今年8月に本稼働する」(大伴取締役)という。これを機に、生産現場からニーズや課題をヒアリングし、他のシステムも開発する計画だ。「将来的には、汎用的な生産管理システムのオプション製品として外販する。誠工社の生産現場をショールームとして、見込み顧客を招待し案件を獲得する活動も開始したい」(同)と、IoT事業が具体化している。
本社は兵庫県に置くが、同社の営業エリアは京都を中心にした関西圏だ。前述したシステム創見などとは、生産管理現場に強みをもつ同社のノウハウも取り入れ見積支援+図面管理システムを開発している。
大伴取締役は、「IoTシステムのターゲットはいまリサーチ中だ。KCAの加盟ITベンダーと議論したりするなかで探していく」と、一社単独でなく協創して事業拡大を進める考えだ。