2018年3月期の決算がほぼ出揃った。デジタル時代の到来により、IT業界は大きな変革の波にさらされている。大手国産ベンダー各社の最新の“通知表”といえる決算の結果をチェックし、明るい未来がみえたベンダー、進路上に黄信号が灯ったベンダー、それぞれのビジネスの現在とこれからを展望する。さまざまなバズワードの盛り上がりも一段落し、各社にとって今年度は新たな成長モデル構築の実行段階に移行できているかどうかが問われることになりそうだ。(取材・文/週刊BCN編集部)
好調目立つ大手SIer
海外市場での成長に積極投資
NTTデータ
連結売上高が2兆円の大台に
「守りのIT」と「攻めのIT」の二刀流
NTTデータの2018年3月期(17年度)の連結売上高は2兆1171億円と、名目上、初めて2兆円を超えた。同社は今年度(19年3月期)から国際会計基準(IFRS)へ移行するタイミングで、世界各国のグループ会社の決算期統一を実施。一部現地法人で12か月を超える決算があったことから、実力値ベースでは、ぎりぎり2兆円を上回る水準。実際、17年度決算をIFRS基準で概算したところ2兆393億円と、わずかながら上回っているに過ぎない。
IFRS初年度であり、同社の3か年中期経営計画の最終年度にあたる18年度の売上高の見通しは2兆1000億円を掲げ、名実ともに年商2兆円超SIerとなることを目指す(図参照)。
17年度の日本基準売上高の増減要因をみると国内公共・社会基盤が117億円ほど前年度を下回ったが、金融が前年度比415億円、法人・ソリューション(一般産業)が同515億円とそれぞれ大幅に増えた。これに旧デルサービス部門のM&A(企業の合併と買収)効果もあって北米が2256億円伸びた。ポイントは、大型M&Aを行っていない国内のビジネスでも直実に成長を遂げていることだ。18年度のIFRS売上高も、金融が前年度比で109億円ほど落ち込む見込みだが、公共・社会基盤で181億円、法人・ソリューションで152億円伸ばして、国内トータルでは増収を計画している。
岩本敏男社長は、技術革新や魅力的な提案によって新しい市場を創り出していく「リ・マーケティング」を掲げて市場の深掘りを推進。例えば、デジタルテクノロジ推進室を設置して、基幹業務システムなどの既存ITを「守りのIT」、AI/IoTなど新規ITを「攻めのIT」としたバイモーダル(二刀流)戦略を展開している。
「攻めのIT」ではAIを駆使した業務の自動化、IoTを活用したサプライチェーンの可視化、ブロックチェーンを使った新しい貿易金融プラットフォームなどを提案。既存IT領域である「守りのIT」と連携して顧客のビジネスをトータルで支援する取り組みを加速させている。こうした施策に力を入れることで市場を一段と活性化させ、国内ビジネスを底堅いものにしている。
折しも、今年はNTTデータ設立30周年の節目の年。設立記念日の5月23日に、現行のグループビジョン「Global IT Innovator」を、顧客との長期にわたる信頼関係の構築を重視する「Trusted Global Innovator」へと変更する。重点顧客としっかりとした関係を構築していくアカウント戦略を徹底。直近で年間取引高50億円以上(海外顧客は5000万ドル以上)の顧客を25年をめどに直近の65社から100社へ増やしていく。(安藤章司)
野村総合研究所(NRI)
M&A効果で海外売上高が大幅伸長
オーストラリアで上位10位以内を目指す
野村総合研究所(NRI)の2018年3月期(17年度)の連結売上高は前年度比11.1%増の4714億円、営業利益は同11.3%増の651億円と増収増益。売上高、営業利益ともに期初予想値を過達と好調だった。NRIが力を入れている産業ITソリューション(一般産業)セグメントが好調に推移したことや、オーストラリアの有力SIerを相次いでグループに迎え入れたM&A(企業の合併と買収)効果も後押ししている。
18年度を最終年度とする3か年中期経営計画では、売上高5000億円、営業利益700億円、グローバル(海外)関連売上高580億円を目標に掲げている。グローバル関連売上高はオーストラリアでのM&Aなどによって17年度の時点で526億円、18年度は750億円を見込んでいる。なお、18年度からはグローバルビジネスの拡大の指標として、純粋に海外での受注/売り上げのみに限定した「海外売上高」を新たに設定した。この新基準にもとづけば、17年度実績が435億円、18年度見込みは650億円となる。従来基準であれば、国内で受注した海外案件も含んでいるため、当然、比較すれば新基準のほうが少なくなる。それでも、旧基準のグローバル関連売上高で設定していた中計の目標数値を上回る見込みだ(図参照)。
オーストラリアの主要現地法人の売上高の合計値はすでに400億円を超えており、同国SIerの売り上げランキングで15位以内に入っている。此本臣吾社長は、「できればオーストラリアのSI市場で10位以内、将来的には5位以内を目指したい」と、同国でのトップグループ上位への進出に意欲を示す。海外M&Aの同国以外での展開は、北米を念頭に置く考え。
一方、国内市場では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を意識した新しい領域のIT投資が順調に拡大していくとNRIではみている。
同社では基幹業務システムに代表される内部事務システムを「コーポレートIT」、売り上げや利益の伸長に直接的に貢献するシステム領域を「ビジネスIT」と定義。DXにつながる新領域は主に「ビジネスIT」の領域だが、これと連携するバックエンド基盤を刷新するニーズも高まると予測。このため「コーポレートITとビジネスITをクルマの両輪」(此本社長)と位置づけて、顧客企業と中長期の視点で密接な関係の構築に力を入れる。
さらに、将来のDXを視野に入れたビジネス変革を「DX2.0」として、既存のビジネスの延長線上ではない、新しいビジネスモデルの創造にも取り組む。例えば、新しいビジネスエコシステムを支える業種横断型プラットフォームの構築や、特定領域ではあるものの深い専門性が求められる領域で、当該業種の標準となるようなプラットフォーム構築などをイメージしている。(安藤章司)
苦闘続く大手総合ベンダー
新たな成長モデル構築へ正念場
NEC
成長の布石を打てるか
正念場を迎える新野体制
17年度決算は順調にみえるが……
NECの2017年度連結決算は、売上収益が前年比6.7%増の2兆8444億円、営業利益は前年から220億円増の639億円、税引前利益は同189億円増の869億円、当期純利益は同186億円増の459億円、フリーキャッシュフローは同168億円増の1158億円。売上収益、営業利益、当期利益、フリーキャッシュフローのすべての項目が1月30日時点の計画値を上回った。
「2020中期経営計画」に向けて、順調にみえる。ところが18年度は構造改革を実施するため、減収減益となる見通しだ。売上収益は前年比0.5%減の2兆8300億円、営業利益は前年から139億円減の500億円、当期利益は同209億円減の250億円、フリーキャッシュフロー同758億円減の400億円を見込み、さらに年間の1株当たりの配当は60円から20円減の40円を予定している。新野隆社長兼CEOは、「18年度は構造改革をやりきり、19年度以降につながる成長の第一歩としたい」と助走期間であることを説明した。
中期経営計画初年となる18年度の焦点は、不採算案件の抑制による構造改革と、成長に向けた組織の再編、新たな投資だ。既存事業はすでにNECを支える柱としては細くなりすぎてしまった。そのため、細い柱で支えることができるレベルまでのスリム・軽量化と、新たな柱の増設が急務となる。
人員の削減、生産拠点の整理はすでに取りかかっている。今回、新たに加えたのが、事業の整理だ。赤字が継続しているモバイルバックホールは、黒字化施策を続けていくが、黒字化が困難な場合は撤退も視野に入れている。ただ、もう一つの赤字事業であるエネルギー(NECエナジーソリューションズ)は、大型蓄電システム市場が英、米で立ち上がり、18年度は増収損益が見込めるという。売り上げを拡大し、ブレークイーブンまで改善させていく。
構造改革だけでは復活には不十分
NECではこうした構造改革をこれまでも取り組んできており、一定の成果を出してきた。今回も粛々と改善を進めていくが、それだけではNECの成長、復活はありえない。構造改革と並行して次の成長に向けた布石を打たなくてはならない。
日本市場は、20年の東京五輪に向けたビジネスチャンスがある。NECも東京五輪を契機としたビジネスの拡大を見込んでおり、18年度のパブリック事業は前年比1.2%増となる売上収益9500億円を予想している。とはいえ、イベント特需は一過性のものだ。中長期的にNECを支える新たな柱が必要となる。
それが海外事業、とくにAIの分野だ。NECはビッグデータを活用した課題解決を加速するために、データ分析プロセスをAIによって自動化するソフトウェアを開発・販売する新会社「dotData(ドットデータ)」を米国に設立した。
さらに、海外での競争力を強化するため、これまで各セグメントに分散していた海外ビジネスを4月1日に新設した「グローバルビジネスユニット」に集約し、外部から採用した熊谷昭彦執行役員副社長を責任者に据えた。集約することでコストの削減とスピードアップを図る狙いだ。
次の一歩に向け、歩み始めたNEC。しかし、見直しを余儀なくされた「中期経営計画2018」の失敗の要因の一つに新規事業の立ち上げの遅れがある。今回こそ、スピード感をもって計画を実行していくことができるか。正念場を迎えている。(山下彰子)
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